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なでしこジャパンを下した背番号5の遺伝子

林壮一ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 延長前半の終了間際、右サイドでボールを受けたトリニティ・ロドマンが日本人DFを切り返し、左足で放ったシュートがネットに突き刺さる。なでしこジャパンも我慢強く、米国に食らいついていたが、90分を戦い、誰もが疲弊していた。 

写真:森田直樹/アフロスポーツ

 ロドマンを中心に喜びを爆発させる米国女子チームも疲れていたが、この一発で息を吹き返した。

 背番号5。本来前線の選手のつけるものではない番号を背負った右サイドのロドマンは、勝負強かった。そして、終始、父から受け継いだ一流アスリートの遺伝子を見せ付けた。

写真:森田直樹/アフロスポーツ

 父であるデニス・ロドマンは、デトロイト・ピストンズに所属していた1989年、1990年にNBA王者となり、シカゴ・ブルズ移籍後は、マイケル・ジョーダンやスコッティ・ピッペンと共に1996年から3連覇を成し遂げた男だ。1992年から7シーズン連続でリバウンド王を獲得している。

写真:ロイター/アフロ

 パリ五輪に出場中の娘が、準々決勝の日本戦終了までに3得点を挙げ、脚光を浴びているのに対し、父親は華であるゴールを狙うよりも、汚れ役であるリバウンドで世界最高峰のバスケットボールリーグで、唯一無二の存在だった。

写真:ロイター/アフロ

 トリニティが右サイドを駆け抜け、なでしこジャパンからボールを奪う度に、筆者は父デニスのプレーを思い起こしていた。アメリカ女子サッカー代表チームの背番号5の体幹の強さは、間違いなく父の遺伝子を受け継いでいる。

写真:ロイター/アフロ

 デニスは、テキサス州ダラスの黒人貧民街で育った。住居は、市が貧困者を救うために築いた『プロジェクト』と呼ばれる公営アパートだった。

写真:ロイター/アフロ

 ロドマン父は、自からの足跡を振り返っている。

 「プロジェクトで生活する最下層の黒人たちには生きる上でのチャンスが無い。スポーツで身を立てるか、ドラッグの売人となるか、選択肢は2つのみだ」

 「アスリートでいる時間とは、人生において仮の姿だ。俺の人生は与えられたものじゃない。カネも、人々から注目されることも、ファンが口にする『あなたを愛している』なんて言葉は絶対に信用しない。NBA選手ってのは、ユニフォームを着て2時間で7マイル走る売春婦だ」

(写真:Splash/アフロ)
(写真:Splash/アフロ)

 トリニティがここまで過激な発言をすることはないだろう。NBAスターの父を持つ彼女は、裕福な暮らしをしていた。が、勝負の厳しさは父の背から感じている筈だ。準決勝での魂のプレーにも期待したい。

ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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