株高に警告を発する銅価格、危機は終わっていない
米国株は過去最高値圏での取引になっている。今年の米国株は、米中貿易摩擦の深刻化から5月、そして8月と二度にわたって急落を経験したが、9月は安値修正の動きが強まり、いつ過去最高値を更新してもおかしくない状況になっている。ダウ工業平均株価は7月に付けた過去最高値2万7,398.68ドルに対して、9月27日終値は2万6,820.25ドルとなっており、10月第1週に再び過去最高値を更新する可能性も十分にある。
世界経済の減速が進んでいるとは言え、米実体経済は健全さを保っている。今年は米連邦準備制度理事会(FRB)が「予防的」、「保険的」な観点から2度にわたって利下げに踏み切ったが、9月17~18日に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)では、金融当局者の中心意見としては今年、更に来年も追加利下げの必要性はないとの見通しになっている。
さすがに貿易相手国の景気動向の影響を強く受ける製造業は減速感が強くなっているが、労働市場が極めて好調なことで個人消費環境は良好さを維持している。企業業績も急激な伸びは一服しているが、大きく崩れるには至っておらず、2度にわたる利下げ対応が逆に米国株を押し上げる動きを強めている。
10月は10~11日に閣僚級の米中通商協議が予定されているが、中国は協議を前に米国産大豆や豚肉など農産物の購入量を増やしており、トランプ米大統領は一般に思われているよりも早い段階で通商合意が実現する可能性を指摘している。
一方、コモディティ市場の視点からは、現在の株高は必ずしも土台がしっかりとしたものとは言えない。それは、銅価格が一向に上昇せずに、今年の最安値圏での低迷を続けているためだ。
銅は、安価で加工性が良く、高い導電性、熱伝導性を有しているため、様々な産業分野で使用されており、銅価格は世界の景気動向に敏感に反応する傾向にある。このため、マーケットの関係者の間では「炭鉱のカナリア」や「ドクター・カッパー(Dr.Copper)」とも言われ、銅価格の低迷は経済危機を予告していると言われることが多い。特に最大消費国である中国経済との連動性が強いが、LMEの銅相場(3カ月物)は、4月の1トン=6,500ドル水準に対して、8月以降は5,600~5,900ドル水準での低迷状態が続いている。これは今年の最安値圏である。
9月入りしてからの急速な株価上昇局面でも銅相場の低迷状態に変化は見られない。もし、銅価格が「炭鉱のカナリア」としての機能を失っていないのであれば、「高騰する株価」と「低迷する銅価格」とのバランスの乱れには注意が求められる。世界的に株価は高値水準を維持しているが、コモディティ市場では原油や鉄鉱石、天然ゴムなど、銅以外の産業用素材も軒並み低迷している。
これはコモディティ市場では世界経済が更に減速するとみている向きが多いことを意味しており、楽観ムードが目立つ株式市場とは全く異なる評価が下されている。「高騰する株価」と「低迷する銅価格」のどちらが正しい判断なのか、評価が割れた現状は金融市場の混乱が続く可能性が高いことを示唆している。