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サウジ・インターナショナルが冠スポンサーをゲット。ゴルフ界のマネー戦争、覇権争いは、もう始まっている

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
パブリック・インベストメント・ファンドのガバナー(写真:ロイター/アフロ)

PGAツアー(米ツアー)の頭痛の種となっているサウジ勢力の勢いが止まらない。いや、止まらないどころか急激に加速しており、2022年の年明け早々、何かと物議を醸してきたあのサウジ・インターナショナル(2月3日~6日)が、ついにタイトル・スポンサーを付けたことを誇らしげに発表。米ゴルフ界は騒然となっている。

サウジ・インターナショナルのタイトル・スポンサーとなったのは、サウジアラビアの政府系投資ファンドであるパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)だ。これにより、同大会の土台と資金力が途轍もなく強化されたことは疑いようもない。

同大会は、かつては欧州ツアー(注:現在の正式名称はDPワールドツアー)の共催だったが、昨年、欧州ツアーが共催から外したため、米欧両ツアーの選手が出場を希望する場合は主戦場のツアーから出場許可を取る必要がある。

これまで30名ほどのスター選手たちがPGAツアーに出場許可を求め、昨年12月20日、PGAツアーのジェイ・モナハン会長は、一定の条件付きで渋々許可を出したばかりだ。

出場を希望している選手たちの顔ぶれが、あまりにもすごい。米国の国民的スターであるフィル・ミケルソンを筆頭に、同大会2勝のダスティン・ジョンソン、2020年大会覇者のグレーム・マクダウエル、世紀のロングヒッターであるブライソン・デシャンボー、東京五輪ゴールドメダリストのザンダー・シャウフェレ、さらにはセルジオ・ガルシアやアダム・スコットといったメジャーチャンピオンたちが、ずらり名を連ねている。

スター選手たちを引き入れようとしている力は、言うまでもなく、莫大なサウジ・マネーだ。彼らに支払われるアピアランスフィーは40万ドル~100万ドルと言われている。試合に出るだけで4000万円、5000万円、いやいや1億円がもらえ、さらに成績に従って高額賞金がもらえ、プライベートジェットの送迎と豪華なホテルと食事と「おもてなし」もあるとなれば、「是非とも出たい」と思う選手は、そりゃあ増える。

事態を重く見ているPGAツアーのモナハン会長は、サウジ・インターナショナルへの出場許可をずっと渋ってきた。というのも、同大会と同週の米ツアー大会は、伝統的なプロアマ大会で知られるAT&Tペブルビーチ・プロアマだ。スター選手たちがこぞってサウジ・インターナショナルに出てしまったら、ペブルビーチのフィールドはガラガラになる。

罰金を科すことも検討していたモナハン会長は、苦悩の末、選手たちが今後はペブルビーチに必ず足を運ぶよう、ここ5年でペブルビーチ・プロアマに最低でも1回出た選手は「この先2年で最低1回」、ここ5年で一度も出ていない選手は「この先3年で最低2回」ペブルビーチ・プロアマに出場するという条件付きで、今年のサウジ・インターナショナルへの出場許可を渋々出した。

それからわずか10日あまりの今日3日(米国時間)、サウジ・インターナショナルはタイトル・スポンサー発表と同時に、同大会への出場選手がさらに増えたことも明かし、同大会が創設された2019年以来、毎年欠かさず出場してきたパトリック・リード、昨年大会2位のトニー・フィナウ、さらにはマシュー・ウルフ、マーク・リーシュマン、キャメロン・スミスなど7名が加わったことで、欧米アジアのスター選手の同大会出場者数は総勢40名に届きそうな勢いである。

【なぜ、何が問題なのか?】

サウジ・インターナショナルにタイトル・スポンサーが付き、米欧ツアーからの出場選手が増えることが発表されたことで、なぜ、米ゴルフ界が騒然となるのかといえば、それは世界一のゴルフツアーであるはずのPGAツアーに対抗して創設されようとしているSGL(スーパー・ゴルフ・リーグ)なる新ツアーの背後にも、やはりサウジ・マネーとサウジ政府が付いているからだ。

昨年、戦略的提携関係を結んだ米欧両ツアーを背後で支えているのは、ドバイ・マネーだと言われている。

一方、SGLなる新ツアーとサウジ・インターナショナル、そしてサウジ・インターナショナルをフラッグシップ大会として掲げ始めたアジアツアー、そのアジアツアーに年間10大会を創設したグレッグ・ノーマンCEO率いるリブ・ゴルフ・インベストメントの背後には、いずれもサウジ・マネーとサウジ政府が座している。

さらに言えば、リブ・ゴルフ・インベストメントの親会社と言われているのが、今回、サウジ・インターナショナルのタイトル・スポンサーになったPIFだ。

まさに今、巨大なサウジ勢力がむくむくと膨れ上がり、各国のスター選手たちを引き入れて、世界のゴルフ界を包み込もうとしている。

「真のワールドクラスの国際大会を実現できる」

「米欧そしてアジア・パシフィックのベスト・プレーヤーたちが今年のサウジ・インターナショナルを最高の大会にしてくれる」

誇らしげにそう語っているのは、ゴルフ・サウジとサウジ・ゴルフ・フェデレーションのマヘッド・アル・ソラーCEOだ。

「我々が目指しているのは、サウジ・インターナショナルの変身を加速化し、グローバルなゴルフ・イベントの手本となることだ」

果たして、PGAツアーや欧州ツアー(DPワールドツアー)は、この動きにどう対抗し、どんなアクションを見せるのか。

世界のゴルフ界のマネー戦争と覇権争いは、もう始まっている――。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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