ポゼッション率74%。浦和レッズが割り切って守備を固める相手をどのように攻略したのか?
■6試合ぶりの失点から課題解決の展開へ
J1第30節のFC東京戦。途切れるときは、あっさり途切れるものだ。直近のリーグ戦5試合で無失点を続けていた浦和が、まさか開始30“秒”で失点するとは。
FC東京側のスタメンは中2日の影響もあり、ディエゴ・オリヴェイラやアダイウトンではなく、永井謙佑、高萩洋次郎、渡邊凌磨らの日本人選手が前線に並んだ。キックオフ直後、その彼らが猛烈にハイプレスを仕掛けてきたため、岩波拓也は一旦ロングキックで回避。
純粋なストライカーを置かない浦和は、江坂任と小泉佳穂が共に中盤に下りていたため、岩波のロングキックは無為に相手に拾われた。浦和にとっては、やや慎重というか、相手を警戒した立ち上がり。
しかし、このボールを拾ったFC東京が、森重真人の対角線のロングボールで大きく背後をねらって来た。そこへスピード豊かな田川亨介が、名手・酒井宏樹を振り切って走り抜け、絶妙な胸トラップからシュート。浦和はわずか30秒で、6試合ぶりの失点を喫することになった。
想定とは違う相手陣容への警戒と、計りかねる中での突然のロングボールへの対処遅れ。立ち上がりは若干、フワフワしていたかもしれない。
しかし、この失点をきっかけに、浦和は一つの課題に取り組むことになった。それは、引いた相手を崩してゴールをこじ開けること。そして、今季リーグ戦で先制を許した試合では初となる、逆転勝利だ。
奇襲に成功したFC東京は、その後は4-4-2のブロックで守備を固めた。前半のポゼッション率は浦和が74%まで伸ばし、わかりやすい構図になっている。しかし、そこまで割り切って守備を固められると、ゴールをこじ開けるのは大変だ。
そこで浦和はどうしたか。
前半に浦和ベンチ、おそらくリカルド・ロドリゲス監督の声として聞こえてきたのは、「切り替え!」「切り替え!」だった。
低く下がった相手を攻め立て、ボールを奪われても、カウンタープレスを浴びせてボールを奪い返し、攻め続ける。まるでFC東京を水中に押し込むかのように、真綿で締め上げるかのように、その呼吸を奪っていく。
また、FC東京は中盤へふらふらと動く江坂や小泉に対し、センターバックが出て人を捕まえる傾向が強かった。浦和のパス回しに動かされれば動かされるほど、立ち位置がぐちゃぐちゃになる。その混乱は「切り替え!」によるカウンタープレスで、2次攻撃、3次攻撃と繰り返されるほど、大きくなった。
引いた相手を崩す鍵は、カウンタープレス。純粋なストライカーではない江坂と小泉の前線コンビは、中盤のポゼッション強化に留まらず、プレッシングを強化する効果も大きい。浦和はそれを頼りに、引いたFC東京に圧力をかけて攻略を進め、ついに前半46分、その努力が実ることになった。
走らされて動きが鈍ってきたFC東京の2トップのすき間から、平野佑一が絶妙なクサビを入れると、ライン間で受けた江坂がサイドチェンジ。酒井が受けた後、再び平野が寄ってパスを受け、軽くさばいて、もう一度受け直すとフリーに。疲労の色が濃く、ポジションもぐちゃぐちゃになっていたFC東京は、カバーに来た永井が平野を捕まえ切れなかった。そこへ大外から酒井が走り込み、絶妙なパスからシュート。浦和は1-1の同点に追いつき、ゴールをこじ開けることに成功した。
■浦和がカウンタープレスを選択した理由とは
一方で、引いた相手を崩す方法は、カウンタープレス以外にもある。たとえば、ボトムチェンジによるサイド攻撃だ。
浦和とFC東京はどちらも4-2-3-1(守備4-4-2)でシステムがかみ合っているので、このかみ合わせをずらすのは、一つの手段になり得る。今季の浦和は状況に合わせてボランチが下がり、3枚回しに変形してビルドアップを行う試合が多いため、FC東京戦でも同様に3バックに変形し、両サイドの酒井宏樹と明本考浩を高い位置へ上げるのも有効だったはず。そうすれば、ビルドアップで3対2の数的優位を確保しつつ、4-4のブロックで守るFC東京の両幅を取って、困らせることができる。
しかし、浦和はこのような攻め方を使わなかった。
かみ合わせをずらすことは、メリットとデメリットの両方がある。ボランチを1枚下ろせば、幅を使って運びやすくなる反面、ワンボランチの中盤が薄くなり、その脇をカウンターの起点にされるリスクが上がる。つまり、ボールを奪い返しにくい。特にFC東京はサイドハーフに走れる選手を起用しているので、尚リスクは高くなる。
一つの攻撃フェーズだけを考えれば、かみ合わせをずらしたほうが攻めやすいが、守備に切り替わったフェーズを踏まえ、攻守両面で考えると、あえて立ち位置をずらさず、押し込んでカウンタープレスを重視するほうが得策。浦和はそういう戦い方をしていた。
その後、後半には選手交代を行って再びハイプレスに来た相手に対し、今度はロングキックを使わず、足元でつないでゴール前へ見事に運ぶ。最後は関根貴大の強烈なシュートのこぼれ球を、江坂が流し込んだ。このゴールも素晴らしい流れだった。
意外な失点から始まった試合だが、結果的に浦和は逆転という課題にチャレンジし、見ごたえのある展開になった。終盤に槙野智章を投入して3バックに変え、相手のパワー攻めを防ぎ切るのも、勝利の方程式として成立している。
状況に合わせ、相手に合わせ、巧みに戦い方を使い分ける浦和。一戦ごとの駆け引きの精度がどんどん上がっている。
次節はスター選手が集う、神戸との対戦だ。共にゲームコントロールに長けたチーム同士だが、真の主導権を握るのはどちらか。期待に胸弾む。
清水 英斗(しみず・ひでと)
サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『日本サッカーを強くする観戦力』、『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。