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全豪OP車いすテニス:王者・国枝慎吾が初戦敗退。彼の背を追い学ぶ新鋭の脅威

内田暁フリーランスライター
サウスポーからの美しいショットを放つ英国のリード選手

●国枝 36 67(1) リード

車いすテニス界の“絶対王者”国枝慎吾が、全豪オープンの初戦で敗れる波乱。国枝がグランドスラムで敗れたのは、2013年全米決勝以来のことでした。

国枝が初戦で対戦した第5シードのゴードン・リードは、英国籍の24歳。国枝とは過去18回もの対戦があり、そして最近ではダブルスパートナーでもあります。だからこそ、プレースタイルも人間性も、お互いに良く知った仲。

「僕はシンゴのゲームをよく知っているし、それはシンゴも同じこと。とてもハイレベルな試合だったと思う。対戦はチェスのようなもので、どちらが最初に仕掛けるかの勝負だった」。リードは試合の焦点をチェスに例え、振り返りました。

リードのその言葉通り、試合は凄まじく高質なボールの打ち合いであり、頭脳戦でもありました。車いすテニスでは2バウンドまで許されていますが、2人はライジングでボールを捉え、ボールが2度跳ねることはほとんどありません。その打ち合いを徐々に支配し始めたのは、左腕から放つアングルショットを効果的に使い始めたリード。国枝を左右に振り、ネットにも出ていくバリエーション豊かなプレーで第1セットを先取。第2セットは終盤でブレーク合戦になりますが、タイブレークの末に第2セットもリードが競り勝ちました。

2年半ぶりにグランドスラムで敗戦を喫した国枝
2年半ぶりにグランドスラムで敗戦を喫した国枝

リードが車いすテニスを始めたのは横断性脊髄炎を患った12歳以降のことで、それまではスコットランドの有望なジュニア選手だったそう。「ジュニアの頃は両手バックだったから、片手打ちに変えるのに苦労した」と言いますが、「今では僕の大きな武器」と笑うように、バックから放つダウンザラインへの強打も効果的。どことなく国枝と似たプレースタイルですが、やはり国枝のプレーを参考にすることが多かったとのこと。「シンゴがいてくれて、本当にうれしく思っている。彼のお陰で車いすテニスのレベルは上がり、皆が彼を倒そうとして努力をしているのだから」と、敬意を込めて言いました。

試合後のリードの元には、アンディ・マリーの母のジュディが駆け寄り、祝福の言葉を掛けます。今大会のメルボルンには英国旋風が吹いており、この日はアンディが男子シングルスで、兄のジェイミーがダブルスで、そして女子のジョハンナ・コンタがシングルスで準決勝進出を決めました。

「僕もイギリスの一員として勝ててうれしい。今年はリオ・パラリンピックもあるから、モチベーションも高いんだ」

昨年のデ杯を制した英国テニスの相乗効果の波は、車いすテニス界にも及んでいる模様。

そして王者・国枝が生んだとも言える才能溢れる新鋭が、パラリンピックのライバルとしても名乗りを上げました。

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookより転載。連日大会のレポートをお届けしています

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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