【台風に備えて】「賞味期限切れ」すぐ捨てないで 備蓄水や食料 災害時の命綱を確保するためには
大型の台風16号が近づいており、関東では暴風の恐れがある。どうしても必要でなければ、食料や水は、家にあるものでまかないたい。災害に備えて水や食料を備蓄している人へ、あらためて、賞味期限が目安であることをお伝えしたい。
ペットボトル入りミネラルウォーターの賞味期限は品質が切れる日付ではない
ペットボトルに入ったミネラルウォーターに表示されている「賞味期限」は、正確には賞味期限ではない。「内容量が担保できる期限」だ。長期間保存しておくと、ペットボトル容器を介して、中の水が蒸発する。「2リットル」などと明記してある内容量から欠けてしまうと、計量法に抵触することになり、販売できない。だが、外から危害が加えられなければ、ミネラルウォーターは、ろ過や殺菌の工程を経ており、期限を過ぎても飲める場合がほとんどだ。日本ミネラルウォーター協会の会長は、「水の賞味期限は、表示された容量が確保できる期限です」と全国紙の取材で答えている(1)。
2016年4月の熊本地震では、全国からペットボトル入りのミネラルウォーターが集まった。2019年7月29日付の熊本日日新聞の記事によれば、熊本地震の支援物資の飲料水130トンが、地震から3年経っても保管場所に山積みされていると報じられた。熊本市によれば、2019年7月時点で、ほとんど賞味期限切れになっていた。
2019年9月12日付東京新聞夕刊によれば、台風15号の被害があった千葉県富津(ふっつ)市で被災者に配られたペットボトルのミネラルウォーターのうち、約1800本が賞味期限切れだった。市民からの指摘を受けて富津市がお詫びし、「飲用ではなく生活用水として使ってほしい」と呼びかけた。
賞味期限が過ぎた缶詰や加工食品もすぐ捨てないで
賞味期限が過ぎた缶詰やレトルト食品など、賞味期限の長い加工食品も、すぐに捨てないでほしい。缶詰は真空調理してあり、外から損傷を受けたりしなければ、理論的には半永久的に持つものだ。缶自体の品質保持期限が3年間であるため、缶詰は3年間の賞味期限が設定され、缶詰の底に賞味期限が印字されている。
本来、3ヶ月以上賞味期間があるものは、賞味期限の日付は省略できる。食品ロスを減らす観点から、企業は賞味期限そのものを延長した上で、年月日表示から年月表示に変更する取り組みを行っている。だが、実際に賞味期限を見てみると、3ヶ月以上あるにもかかわらず日付まで書いてあるものがまだ多く市場に流通している。
食品保存に詳しい東京農業大学名誉教授の徳江千代子先生は、味の濃いものやシロップ漬けの缶詰は15年以上、品質が保たれたという実験結果を紹介している。ある缶詰メーカーの社員は、自社商品の缶詰は、「賞味期限が切れる頃、あるいは切れてから2〜3年のものしか食べない」と、NHKの缶詰特集番組で発言していた。
備蓄していたペットボトルのミネラルウォーターも缶詰も、期限が切れる前に入れ替えをして適切に使われることが理想だろう。期限が切れていたとしても、前述のことを知っていたら、災害時に限られた飲料水や食料を有効に使うことができる。
内閣官房含めた20府省庁が「賞味期限切れ」含めた災害備蓄食の寄付
2021年に入ってから、内閣官房含めた以下の府省庁が、災害用備蓄食品の寄付を始めた。
内閣官房、内閣法制局、復興庁、内閣府、宮内庁、公正取引委員会、警察庁、金融庁、消費者庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省
農林水産省の公式サイトには、「国の災害用備蓄食品の提供ポータルサイト」があり、賞味期限について、以下の説明がある(2)。
賞味期限は、食べられなくなる期限ではなく、おいしく食べることができる期限であり、定められた方法により保存した場合に、期待される全ての品質の保持が十分に可能であると認められる期限です。このため、賞味期限が近づいている場合や、賞味期限を過ぎたものを提供しようとする場合には、例えば、安心して食べきる目安となる期限の情報提供を行うなど、円滑な提供に向けて配慮します。
税金を使った備蓄食の寄付にこぎつけるには、さまざまな手続きがあった。その経緯については、国会議員の竹谷とし子議員のブログに詳しく記述されている(3)。
農林水産省は、2020年12月18日、備蓄していた食料を、食料支援の団体らに寄付した。省庁として初めて、賞味期限が過ぎた缶詰なども捨てることなく活用し、食品ロス削減につなげた(4)。
結論:賞味期限はめやす
おおむね5日以内の日持ちのものに表示される「消費期限」には留意したい。だが、賞味期限は、おいしさのめやすに過ぎない。
環境先進国でSDGs世界ランキング1位をとったことのあるデンマークでは、賞味期限表示の横に「過ぎてもたいていの場合は飲食可能」という表示を入れ、ほかにもさまざまな食品ロス削減の取り組みを行い、5年間で食品ロスを25%削減した。
食の世界では、安全性担保と同時に資源活用が大切で、どちらに偏っても不具合が生じる。今の日本では「万が一」「念の為」と言って捨ててしまうケースが多い。アフガニスタンなど、他の国では手に入れることのできない資源を、日本は大量に手にしている。貴重な資源を大切に。
参考情報
1)賞味期限を過ぎたペットボトルの水は飲めるか、飲めないか?(産経新聞、2018/7/3)
3)災害備蓄食料の活用(竹谷とし子氏オフィシャルブログ、2021/4/22)
4)「賞味期限切れ」備蓄食料を農水省が寄付 国として初の試み、その意義とは?(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2020/12/21)
関連情報
賞味期限切れ備蓄はすぐ捨てないで!内閣官房はじめ20府省庁が賞味期限切れ含めた災害用備蓄食品の寄付(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2021/7/10)
賞味期限切れの備蓄の水や食料は地震などの非常時にはすぐ捨てないで!(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2021/2/14)
防災の日:賞味期限切れの備蓄食品はすぐ捨てないで!消費者庁も2020年7月に通知(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2020/9/1)
備蓄食品や飲用水「賞味期限切れ」すぐ捨てないで 災害時の命綱、どう確保するか(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2020/7/8)
警視庁が「飲料水としてダメ」とした水は飲用可能 ペットボトル水の賞味期限は飲めなくなる期限ではない(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2019/12/17)
賞味期限切れの水は飲めるので台風など非常時に捨てないで!消費者・行政・メディア みな賞味期限を誤解(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2019/9/13)
なぜ賞味期限切れの水は十分飲めるのに賞味期限表示がされているのか?ほとんどの人が知らないその理由とは(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2019/7/30)
*)本記事は、2019年7月30日から2021年7月10日までに配信した記事を基にまとめた内容である。