環境団体や若者がノルウェー政府を提訴 気候変動を防ぐため、石油産業の依存に歯止めを
「政府は環境法に違反している」。ノルウェーで初めて、環境団体や市民が政府を訴えた。石油・エネルギー省を訴える訴状は、10月18日にオスロ裁判所に提出された。
なぜ、政府を提訴?ノルウェーの石油依存
環境先進国というイメージが強いノルウェー。しかし、石油・天然ガス生産が、国内での温室効果ガスの排出量を増加させているという矛盾した側面をもつ。
5月18日、ノルウェー政府は第23回探鉱ライセンスラウンドを発表した。バレンツ海において、13社に新たなライセンスを賦与したもので、さらなる探鉱・開発活動(=排出ガスの増加)を意味する。
地球温暖化対策の新しい枠組み「パリ協定」の批准案は、6月14日にノルウェー国会により承認されたばかり。しかし、8月29日、ノルウェー政府は、第24回探鉱ライセンスラウンドにおける鉱区指名募集を発表した。
右翼・左翼限らず、3大政党は、国を支える石油資源開発に積極的だ(つまり、政権交代があっても、この流れに大きな変化はない)。
「パリ協定で掲げる削減目標は、ノルウェーは達成できないだろう」。このような空気が、現地報道ではすでに一般的となっている。
第23回探鉱ライセンスラウンドを決定した政府を訴えたのは、「自然と青年」、「グリーンピース・ノルウェー」などの複数の環境団体、個人、弁護士などだ。
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環境法 第112条を侵害している
団体は、第23回探鉱ライセンスラウンドは、環境法 第112条である、国民が保証されているはずの環境と健康を維持する権利を侵害しているとする。
現在は、クラウドファンディングで、訴訟準備のための20万ノルウェークローネを募っているが、すでに目標額は大幅に達成。集まった資金は、優れた弁護士団を結成するため、市民への情報拡散のためのキャンペーンなどに使われる予定だ。
民主的プロセスによって選ばれた国会での決定に対し、司法機関に訴える動きには賛否両論がある。与党である保守党などからは、「闘うべきリングは、法廷ではなく、国会だ」と批判の声が上がる。だが、野党である緑の環境党は、「政治家たちは、ことごとく環境における公約を破り続けてきた」と、訴訟を指示する姿勢を現地のクラッセカンペン紙で語る。
「市民が政府を訴える」という表現は、今回のケースには当てはまらないだろう。複数の環境団体が、520万人の国民を代表しているわけではないからだ。
石油政策に終わりを告げたいとする、緑の環境党の支持率は、世論調査で2,5%。国政選挙があった場合、議員は1人のみと、支持率は降下傾向にある。このことからも、石油を否定する環境政策が、必ずしも民を味方につけているとは言い難い。
政府が訴えられるという、このようなケースはノルウェーでは初となる。勝訴した場合、今後のエネルギー・環境政策にとって、大きな転換点となるとみられている。
Photo&Text: Asaki Abumi