【京都市上京区】冷泉家の「北の大蔵」特別見学会レポート 和歌の聖地の新たな章
この度、冷泉家の新しい土蔵「北の大蔵」の特別見学会に参加しました。
その様子をレポートさせていただきます。
※写真撮影は禁止のため、邸宅や蔵の写真は「公益財団法人 冷泉家時雨亭文庫」「冷泉家時雨亭文庫だより」のホームページから引用させていただいています。
歌人・藤原定家から脈々と受け継ぐ家
古都・京都の地に佇む冷泉家。
その敷地内に、この春、新たな息吹が吹き込まれました。新しくできた土蔵「北の大蔵」です。
和歌の聖地として知られる冷泉家が、数万点の貴重な文化財を守るために建設した、伝統と現代が融合した壮大な土蔵です。
冷泉家の祖先は、平安時代から鎌倉時代にかけて活躍した歌人、藤原定家です。
「小倉百人一首」の選者としても知られる定家は、日本の和歌文化に大きな影響を与えました。
冷泉家の蔵には、定家筆の「古今和歌集」や日記「明月記」など、国宝をはじめとする数多くの貴重な古典籍が収められています。
そして今後、新しく完成した土蔵「北の大蔵」に、こういった貴重な文化財が納められる予定です。
時を超えて語りかける、静寂と温もり
特別見学会に参加し、その内部を初めて目にしたときは、感動しました。
重厚な土壁が醸し出す静寂、若葉色の土壁の美しさ、木造の梁が奏でる温もり、そして何よりも、時を超えて語りかけてくるような歴史の重み。
それは、単なる建物ではなく、文化財を後世に繋ぐための、いわばタイムカプセルのような存在でした。
学芸員の方から興味深いお話を伺いました。
「この1年、北の大蔵はお試し期間。建物というハードができたから、次はソフトの部分で運用できるかを見ていきます。「1年も!?」とよく言われますが、400年のうちのたった1年です。これからの400年を考えたら、ほんの短時間ですよね。文化財を守るためには必要なことです。」
その言葉に、時間の壮大さと歴史の中にいる喜びを感じました。
蔵に収められた文化財が、次の400年、どのように未来へと繋がれていくのか、そんなことを想像すると心が躍ります。
なぜ土蔵なのか?400年の歴史が語る、文化財を守る力
現代において、文化財の収蔵庫といえば、鉄筋コンクリート製のものが主流です。しかし、冷泉家ではあえて伝統的な土蔵を選んだのです。その理由は何なのでしょうか?
学芸員の方のお話によると、「コンクリート建築は100年保たないけれど、土蔵は400年保つと実証済み。文化財を守るためです」とのこと。
土蔵は、空調設備に頼らずとも、自然の力で湿度や温度を一定に保つことができるのです。
また、土蔵は火災にも強いという特徴があります。江戸時代の天明の大火でも、冷泉家の御文庫は無事だったそうです。これは、土壁の優れた断熱性と耐火性があってこそ成し得たことなのです。
タイムスリップしたような、文化財との出会い
特別見学会では、北の大蔵だけでなく、冷泉家邸宅も見学することができました。
古都の風情が色濃く残る庭園、歴史ある書院、そしてそこかしこに感じられる文化の息吹。
それは、まるでタイムスリップしたかのような感覚を覚えました。
今回の見学会を通して、「文化財を守る」ということの意味を改めて深く考える機会を得ました。
それは、単に過去の遺物を保存することだけではなく、そこに込められた人々の思いや文化を、未来へと繋いでいくことなのだと気づかされました。
冷泉家の「北の大蔵」は、そんな私たちの願いを叶えてくれる場所なのかもしれません。
場所:
冷泉家邸宅
京都府京都市上京区今出川通烏丸東入玄武町599