ホロコースト生存者のドキュメンタリーアニメ「アウシュビッツのハーモニカ」ヤド・ヴァシェムが公開
命を救ったハーモニカ、アウシュビッツから生還後はハーモニカを子供たちに伝授
第2次世界大戦時にナチスドイツによって約600万人のユダヤ人が殺害された、いわゆるホロコースト。イスラエルにはホロコースト犠牲者を追悼したヤド・ヴァシェムという博物館がある。
ヤド・ヴァシェムは2021年12月に「The Harmonica Player from Auschwitz」(「アウシュビッツのハーモニカ」)というドキュメンタリーアニメを公開した。このアニメはホロコースト生存者で1993年に亡くなったシュメル・ゴーゴル氏の生涯を紹介。ワルシャワのユダヤ人だったゴーゴル氏が戦前からハーモニカを吹いていて、アウシュビッツ絶滅収容所でも別の囚人からパンとハーモニカを交換してもらって、ハーモニカを収容所で吹いていたところをナチス親衛隊に見つかり、アウシュビッツ絶滅収容所のオーケストラに入れられた。囚人のオーケストラは、仕事に向かう囚人たちを元気づけるために、苛酷な労働に向かう囚人たちが通る前で様々な音楽を演奏させられた。楽器を扱うオーケストラの囚人らは、他の囚人よりもパンの量が多かったり、暖房のある部屋で過ごせるなど良い生活ができたので、ゴーゴル氏も生き延びることができた。まさに「芸は身を救う」であった。そして戦後もハーモニカの指導を続けていた。
欧米やイスラエルではホロコースト教育が行われており、このドキュメンタリーアニメも子供向けのホロコースト教育に活用される。ヤド・ヴァシェムでは約480万人のホロコースト犠牲者のデータベースがあり、それらは世界中からネット経由で閲覧することもできる。約600万人のユダヤ人が殺害されたが、残りの120万人は名前が判明していない。第2次世界大戦が終結して70年以上が経過し、ホロコースト生存者の高齢化が進んできた。生存者が心身ともに健康なうちにホロコースト時代の経験や記憶を証言として動画で録画してネットで世界中から視聴してもらう「記憶のデジタル化」が進められている。
このドキュメンタリーアニメも「記憶のデジタル化」によるホロコーストの歴史の継承の取組の1つだ。ゴーゴル氏のハーモニカはユダヤ人の間では有名で絵本などにもなっているが、動画にすることによって世界中のあらゆる人がアクセスして視聴して、ゴーゴル氏のことを知ることができる。そしてゴーゴル氏は冷戦終結直後の1993年に他界してしまった。当時は現在のように誰もが証言を動画で撮影して公開することは容易ではなかった。残されている写真なども限られている。そのためこのようなドキュメンタリーアニメという形でゴーゴル氏のホロコーストの経験を伝えている。そしてドキュメンタリーアニメなのでホロコースト教育の教材にはうってつけである。