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『正直不動産』最終回 山下智久の誠心 正直に生きることの尊さとは

中村裕一エンターテイメントジャーナリスト
写真提供:NHK

※NHKオンデマンドにて2025年1月1日まで配信

世の中、正直に生きることは実に難しい。今、いったいどれだけの人が自分の心に正直に生きているだろうか?

非常に厄介な命題だが、今夜最終回を迎える山下智久主演のドラマ10『正直不動産』(NHK総合にて毎週火曜夜10時~)に、その答のヒントが隠されているかもしれない。

■敏腕営業マンに降りかかるとんでもない厄難

登坂不動産の敏腕営業マン・永瀬財地(山下智久)は、巧みなセールストークと人当たりの良さで成績ナンバーワンを誇っていたが、実際は「ライアー永瀬」の異名を持ち、息を吐くように嘘を並べ、半ば客を騙してトップの座を獲得していたにすぎなかった。

しかし、そんなある日、永瀬はアパート建設予定地の片隅にあった石碑と祠を邪魔だからとスコップで破壊。その祟りによってなんと“嘘がつけない”体質になってしまう。

写真提供:NHK
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それまでは客のことなどまったく考えず、デメリットやリスクをひた隠し、メリットばかりを強調した美辞麗句や方便を並べ立て、自分の利益ばかり優先してきた永瀬。嘘がつけなくなることで、当然のごとく次々と土地や建物をめぐるトラブルに巻き込まれていく。

たとえ相手の耳に痛い話でも、包み隠さず伝える正直さでピンチを乗り越えてきた永瀬だが、信頼する登坂社長(草刈正雄)と過去に因縁のあるライバル会社、ミネルヴァ不動産の社長・鵤聖人(高橋克典)から執拗な嫌がらせを受け、会社は経営存続の危機に立たされる。

写真提供:NHK
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そしてついに2億円を超える相続物件をめぐり、ミネルヴァ不動産との最終決戦に臨む永瀬。はたして勝つのはどちらなのか……。

■山下智久演じる“嘘がつけない男”の妙味

永瀬を演じる山下の存在感はもちろんだが、嘘をつきそうになる永瀬の顔に一陣の風が吹くたび、彼が正直になり本音をまくしたてる演出が斬新かつユニークだ。長年アイドル(偶像)として、多くの人たちから求められる姿を見せ続けてきた山下にとって、チャレンジングだが演じがいのあるキャラクターではないだろうか。

ほかにも、永瀬の下で働き「お客様ファースト」を掲げて奔走する新人・月下咲良(福原遥)、永瀬の同僚で不動産ブローカーとして独立した桐山貴久(市原隼人)、昭和センス炸裂の部長・大河真澄(長谷川忍・シソンヌ)、ミネルヴァ不動産の社員でシングルマザーの花澤涼子(倉科カナ)、メインバンクの融資担当で興奮すると秋田弁が出る榎本美波(泉里香)、登坂社長と長年のつき合いの物件オーナー・マダム(大地真央)と、いずれも主役クラスのキャストがレギュラーとして集結。

写真提供:NHK
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さらには『クロサギ』(2006年・TBS系)で山下と共演した名優・山﨑努がゲスト出演。たくましく立派に成長した山下とのツーショットは感慨深く見ごたえのあるものとなっている。「不動産」という、私たちも普段からお世話になっているものの、なかなか全容が見えない業界の専門用語や豆知識を交えながら進んでいくエピソードは毎話とても興味深く、情報ドラマとしてもクオリティは高い。

なにより、永瀬にかかった“祟り”は解けるのか、それとも一生このままなのか。最終回ではどんな結末を用意してくれているのか楽しみだ。

■「正直に生きる」はファンタジーなのか

大人になって社会に出てみると実感するが、良くも悪くも本音というものはなかなか吐けず、年齢を重ねれば重ねるほど当たり障りのない会話と腹の探り合いになってしまう。

もっとも、互いが好き勝手なことを言い合えば、その先に待つのは衝突しかない。「正直に本音を言わない」というのは、余計なトラブルを回避するための方策でもあるが、そればかりを続けていると、いつからか虚しさを感じるようになってしまう。

どんな時でも正直に自分の気持ちを話すことがベストだとは思わない。それはただのわがままだ。時には嘘を使い自分や相手の身を守ることも必要である。しかし、今の世の中を見渡すと、あまりにも正直さが足りないのではないだろうか。大事なときに、大切な人の前で正直になれないことほど、哀しく寂しいことはない。

写真提供:NHK
写真提供:NHK

正直に生きることは決して人を、そして自分を傷つけることではない。摩擦が生じようとも、そこから相手を知り、自分を伝えるコミュニケーションが生まれる。現に、永瀬はそれまでの冷徹で傲慢な性格から、自らの弱さを受け止め、相手を思いやる人間味あふれる人物へと変化した。

願わくはドラマの中だけでなく、現実を生きる私たちにもどうかそんな温もりのある未来が訪れて欲しい。これは嘘偽りのない正直な気持ちである。

エンターテイメントジャーナリスト

テレビドラマをはじめ俳優などエンタメ関連のインタビューや記事を手がける。主な執筆媒体はマイナビニュース、週刊SPA!、日刊SPA!、AERA dot.など。

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