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史実との違いに感じる「光る君へ」チームの覚悟。台本に書かれたことを演じるのみ。柄本佑さんインタビュー

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
「光る君へ」第31回より 写真提供:NHK

まだまだ問題が山積みなんですよ(笑)

大河ドラマ「光る君へ」(NHK)ではいよいよまひろ(吉高由里子)が「源氏物語」執筆に取り掛かる。そのとき、道長(柄本佑)はどうするのかーー。政の頂点に立ったいまの道長の心境は。史実との相違についてどう思っているのか。柄本佑に、クライマックスに向けての意気込みなどを聞いた。

――まひろが道長の子供を身ごもる展開は衝撃的でした。台本を読んだとき、どう思いましたか。

柄本佑(以下柄本)「まさかそんな……と思いますよね。ただ、そんなふうになりそうだという構想は、現場で大石静さんや内田ゆきチーフプロデューサーから聞いていたんです。だから、いざそうなったとき、大石さんや内田さんのある種の覚悟みたいなものを感じずにはいられなかったし、この組がより好きになりました。これほど大事な展開を決断した、このチームに勇気をもらった気がします」

――賢子が道長の子であるという展開のみならず、道長像がこれまでの世間のイメージとは違います。比較的、史実よりも良い人に書かれているという研究者の方々からの指摘もあります。俳優としては史実との違いをどう思っていますか。

柄本「いろいろな意見が出ることは素敵なことだと思います。僕ら俳優としては台本に書かれたことを演じるのみですし、初期の頃、打ち合わせで、これまでの道長像とは違う新たな道長像を描きたいというようなことはあらかじめ言われていました。大石さんが書かれた台本には『光る君へ』における道長の人物像に説得力と強度があるので、信頼してその本に描かれている道長を100%でやっています。史実での、もっと露骨に自分の家が優位になるようにやっていたのではないかという説に関しては、『光る君へ』における道長はひじょうに地に足のついた人物であり、彰子(見上愛)の屏風を例にあげると、屏風に花山院(本郷奏多)から歌をもらって、実資(秋山竜次)を驚かせるところまでやってのけたのは、とにかく、娘・彰子の幸せを願う気持ちの表れだと解釈しています。大事な彰子には、政のごたごたに絶対に関わらせたくないと思っていたところ、詮子(吉田羊)に、あなたももっと血を流すべき、みたいなこと言われて彰子を入内させることになりました。そうなったからには、とにかく幸せになって欲しいわけですよ。前例のないことを行っても気にならないほど娘一筋な、非常に真っ直ぐな人だと思います」

賢子が自分の子とは知らない道長 写真提供:NHK
賢子が自分の子とは知らない道長 写真提供:NHK

――政については、だんだんと父・兼家(段田安則)の考えに似てきているのでしょうか。

柄本「父は自分の家や家族のために政を行っていましたが、道長は、まひろと約束した民のための政をやっています。政とは家のためだと父に言われる場面では、「共感しないが、圧倒される」という心情が大石さんの脚本の中に書かれていましたので、父のことは認めながらも、道長は道長のやり方で政をやっていると解釈しました。あくまでベースにあるのは、民のための政を行うというまひろとの約束事です。それは直秀(毎熊克哉)の死がきっかけでした。道長の愚かしい行動のせいで起こってしまった悲劇なので、道長の心のなかにはいまでもすごく大きいものとして残っているのではないかと思っています。第31回で月を見ながら、『直秀も月におるやもしれぬな』と思い出していますし」

――道長は若い頃とまったく変わっていないのでしょうか。

柄本「当初、僕は、道長を演じるうえで、世間的なイメージであるヒールの要素よりも、三男坊で、政治に前のめりではないのんびり屋さんの“三郎”というところを大事にしていました。かなり人間味あふれる人物として道長を演じようと思っていたんです。そんな道長が何の因果か政治のトップに立って、目下、いよいよ最終章に入る手前まで台本ができています。その部分もじょじょに撮りながら、改めて認識するのは、最初に感じていた、三男としての人間性みたいなところの大事さです。かつては、長男、次男が政に前のめりで、三男である三郎は少し距離をとっていました。ひとりひとり家族が亡くなって、道長が政の中心を担うようになったときも、詮子が色々と手配してくれていた。その詮子も亡くなって、たった一人になって悩みが増えました。まひろとの約束を守るためにも、策を弄し、彰子を入内させたりしていますが、従来の人間性みたいなところは変わらないと思います。ただ、まだまだ道長は悩んでいますが」

――父・兼家とは違うと思いながら、結果的に娘を入内させるなど、同じようなことをやっています。

柄本「難しいところですよね。僕としては道長の気持ちがなんかわかる気はするんです。父と同じことはしたくない葛藤と結果、同じようなことをしてしまっている状況との整合性をどうつけるか。正直なところ全部終わってみないとわからない気がします。最終的に全部の台本をいただいて読み切ってみないと。道長の旅路はまだ途上です。少なくとも手元にある終盤の台本までは全く落ち着いていません。まだまだ問題が山積みなんですよ(笑)。最終回までどうなるかわかりませんが、いまのところは、家族の幸せとまひろとの約束を果たすために邁進しております」

――道長の政のやり方の特徴はありますか。

柄本「道長のやり方は、他者を良く見ていて、相手によって接し方を変えるところがあります。これも最初に制作陣を交えて話したことで、対する人によって表情や声まで変わるような人物でいきたいよねと。それが大人のつきあいなのかなと思います。道長は先を読む人物で、従来ならここでこう判断すべきところを、先を見越して違う判断を下すこともできるんです」

――一条天皇のことはどう思っていますか。

柄本「一条天皇にはいろいろなことを言ったり、彼の行動を制したりしていますが、根っこには強い信頼関係があると思います。これがゆくゆく、三条天皇になったときには、どう思うのか……」

一条天皇と道長 写真提供:NHK
一条天皇と道長 写真提供:NHK

――第31回で、まひろと月を見上げる場面があります。これまで別々の場所から月を見上げていたときもまひろを思っていたのでしょうか。

柄本「あの場面は、撮影が大変で、印象深いです。これまでもずっと月を見上げたとき、まひろを思っていたと思います。『誰かが、今…俺が見ている月を、一緒に見ていると願いながら、俺は月を見上げてきた』と言いますよね。それは明らかに、いま、隣にいるまひろに言っているのだと思います」

――撮影では何が大変だったのでしょうか。

柄本「撮影にとても長い時間がかかったんです。以前あった、まひろと道長の思いが錯綜し、行ったり来たり、一言前に言ったことを覆すみたいな会話の場面も大変でしたが、今回はそれとも違っていました。まるでこれまでのことを決算するような場面でした。いろいろ話して、最終的に人は月をなぜ見るのかというところに集結して、そこからまた先に進む推進力になるようなシーンだったので、エネルギーを使いました。わかりやすい言葉で言うとひじょうに体力の要るシーンでした。吉高さんと協力し合いながら切磋琢磨しました」

月を見上げる道長(柄本佑)とまひろ(吉高由里子) 写真提供:NHK
月を見上げる道長(柄本佑)とまひろ(吉高由里子) 写真提供:NHK

――まひろとはソウルメイトと当初から言われていましたが、ソウルメイトとはどういうものだと思いますか。

柄本「唯一、本音の出せる人でしょうか。まひろには弱いところもすべてさらけ出せる。愛し合うにしても憎み合うにしても、弱みを見せられる相手なのでしょうし、だからこそ、極端な話、本気で決別さえできる。中途半端なところがないのがソウルメイトという印象です」

――ソウルメイトを演じる吉高さんとのお芝居はいかがですか。

柄本「懐の深さを感じます。例えば、大石さんの台本には台詞のなかに()でくくられて心情が書かれていることがよくあります。台詞でなく表情で見せる部分を、大石さんが()のト書きで導いてくださっているわけですが、それを吉高さんが具体化したときにさらに新たな発見が常にあります。まひろと2人の長いシーンでは導かれているところが非常に大きいです。それに、最近の吉高さんは、もう、めっちゃ紫式部っすよ。マジで超紫式部。まひろが女房装束を着用した立ち姿をはじめて見たとき、非常に美しかったし、書の練習をしている姿が京都で見た紫式部像にそっくりで。吉高さんの表情と目線との芝居のやり取りで、ちょっと気を抜いたら、道長がタジタジになっちゃうぐらいの強さがあります」

――台詞ではなく()のなかの言葉の表現に関して、柄本さんは演じていていかがですか。

柄本「なかには『……』になっているものもありますが、大石さんの脚本は、そういう投げっぱなしスープレックスな感じよりは、掴んだままスープレックスしてる感じ(笑)。好きに表現していいですよ、ではなく、いや、ここはこっちですよっていうふうなことをちゃんとひとつひとつ丁寧に書いてくださっているのを感じるので、僕ら俳優も挑戦しがいがあります。()の中は、大石さんの俳優への挑戦状だと受け取って臨んでいます。大石さんは多分、例えば目と目で語るような、台詞を喋っていないときに登場人物がどういうふうに過ごすか、その表現を大事にされていて。俳優にとっても非常にやりがいのあるところでもあるんです」

まひろの書いたものを読んだ道長 写真提供:NHK
まひろの書いたものを読んだ道長 写真提供:NHK

――まひろをソウルメイトとして大事に思うことと、彼女の書く「源氏物語」を政治利用することの塩梅をどんなふうに演じていますか。

柄本「それも先ほどの屏風と同じように、自分の家族の幸せのためのような気がします。まひろにはほかの人に見せられないような情けない部分もさらけ出すことができるから、一条天皇が彰子のところに行ってくれないんだ、何とかしてくれないか、などというような相談も言える。思えば、道長はただただ父親的な気持ちでいて、それが政治にもつながっていっただけなのかもしれないですよね」

――今後、「源氏物語」を通じてまひろとの距離が近づいていくと、倫子(黒木華)や明子(瀧内公美)との関係も気になります。

柄本「昨日も、倫子絡みの関連のシーンを撮りました。これまでも、視聴者の皆さんが見て、道長は何をやっているんだ?と思うところがあったと思うのですが、そこでも道長はやらかしています。鈍感ですよ、道長は。さきほど申し上げたように、いつまでも“三郎”のままで、それは三郎のちょっと困ったところでもあるかもしれないですが、そんなところもひじょうに楽しみながら演じております」

明子と道長 写真提供:NHK
明子と道長 写真提供:NHK

profile
えもと・たすく
東京都出身。2003年、映画「美しい夏キリシマ」でデビュー。その後の主演作に映画「17歳の風景~少年は何を見たのか」「素敵なダイナマイトスキャンダル」「きみの鳥はうたえる」「ポルトの恋人たち 時の記憶」「先生、私の隣に座っていただけませんか?」「火口のふたり」「ハケンアニメ!」「シン・仮面ライダー」など、ドラマ「知らなくていいコト」「初恋の悪魔」など。NHKでは連続テレビ小説「あさが来た」、土曜ドラマ「心の傷を癒すということ」「空白を満たしなさい」などに出演している。

大河ドラマ「光る君へ」(NHK)
【総合】日曜 午後8時00分 / 再放送 翌週土曜 午後1時05分【BS・BSP4K】日曜 午後6時00分 【BSP4K】日曜 午後0時15分
【作】大石静
【音楽】冬野ユミ
【語り】伊東敏恵アナウンサー
【主演】吉高由里子
【スタッフ】
制作統括:内田ゆき、松園武大 
プロデューサー:大越大士、高橋優香子
広報プロデューサー:川口俊介
演出:中島由貴、佐々木善春、中泉慧、黛りんたろう ほか

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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