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一部廃止でまもなく終着駅に 本州の北の玄関口の栄枯盛衰 津軽線 蟹田駅(青森県東津軽郡外ヶ浜町)

清水要鉄道・旅行ライター
蟹田駅

 令和4(2022)年8月豪雨による不通が続き、令和9(2027)年春の廃止が予定されている津軽線の蟹田~三厩(みんまや)間。その起点の蟹田駅は、北海道新幹線の開業まではJR東日本とJR北海道の事実上の境界駅(書類上は隣の中小国駅)として重要な役目を果たしてきた駅だった。青函トンネルの北海道側にある木古内駅が「北の大地の始発駅」なら、蟹田駅は本州側の始発駅・玄関口と言うべき存在だろう。

駅舎
駅舎

 蟹田駅は昭和26(1951)年12月5日、津軽線の終点として開業した。駅舎は開業時に建てられたもので、終着駅だけあってか同日開業の奥内駅・後潟駅・蓬田駅・瀬辺地駅よりも大柄な木造駅舎だ。同日開業の線内の駅のうち、油川駅だけはなぜかコンクリート造の駅舎だった。蟹田駅以外の駅はいずれも駅舎の建て替えが行われており、開業時の駅舎は姿を消している。蟹田駅の駅舎は津軽線の歴史を伝える貴重な生き証人と言えよう。以前は白く塗られていたが、東北新幹線新青森延伸に合わせて平成22(2010)年12月に改装され、茶色の落ち着いた色合いになった。

駅舎内 寒冷地ゆえ出入口には風除室が設けられている
駅舎内 寒冷地ゆえ出入口には風除室が設けられている

 7年後の三厩延伸で途中駅となったものの、以降も長らく単なるローカル線の主要駅に過ぎなかった蟹田駅。転機が訪れたのは青函トンネルと津軽海峡線の開通だった。昭和63(1988)年3月13日の津軽海峡線開通に伴い、蟹田駅は本州と北海道を結ぶ特急列車が行き交う駅へと大変貌を遂げたのである。盛岡と函館を結ぶ特急「はつかり」、青森と函館を結ぶ快速「海峡」が停車し、「北斗星」などの寝台特急も当駅に運転停車して乗務員の交代を行うようになった。

 寝台特急の乗務員交代駅が青森駅に変更され、「はつかり」が「白鳥」「スーパー白鳥」に再編されてからも蟹田駅への特急停車は継続され、北海道新幹線開業直前の平成28(2016)年3月21日まで続いた。

運賃表の路線図
運賃表の路線図

 北海道連絡の役目を北海道新幹線に譲り、旅客路線としては普通列車が走るだけのローカル線に転落した津軽線だが、蟹田駅が引き続き重要な駅であることは変わりなかった。津軽線は海峡線が分岐する中小国駅(厳密には新中小国信号場)までが電化されている一方、その分岐点から先は非電化のため、蟹田駅を境に運行系統が分断されていたのである。津軽線の普通列車は、基本的には青森~蟹田間が電車、蟹田~三厩間が気動車で運転されており、蟹田駅で乗換が必要となる列車が多く設定されていた。蟹田~三厩間が不通となって以降の蟹田駅は、列車と代行バスの乗換駅として機能している。

駅構内
駅構内

 駅構内は2面3線で、駅舎側の1番線が中小国方面から青森方面へ向かう上り列車、2番線が当駅始発の上り列車、3番線が中小国方面の下り列車のホームとなっている。1、3番線は専ら本州と北海道を行き来する貨物列車が通過・運転停車するためのもので、青森行きの津軽線普通列車は2番線を使用する。1番線に発着させた方が乗客にとっては便利だが、信号システムの都合で難しいのだろう。

乗務員休憩所
乗務員休憩所

 1番ホームの青森寄りには乗務員休憩所が設置されている。JR東日本とJR北海道の境界駅として乗務員の交代が行われていた蟹田駅らしい設備で、現在は代行バスの乗務員の休憩所として使用されている。構内には乗務員の宿泊所も設けられているが、こちらは現在使用されていないようだ。

北緯41度の看板
北緯41度の看板

 2・3番ホーム上には駅の所在地である蟹田町をアピールする看板が設置されている。駅の所在地は長らく東津軽郡蟹田町だったが、平成17(2005)年3月28日に平舘村・三厩村と合併して外ヶ浜町となった。

 蟹田駅の緯度は北緯41度2分17.91秒で、看板の書き方を見ると北緯41度線が旧蟹田町域を通っているかのように思えるが、実際の北緯41度線は隣の蓬田村の瀬辺地地区(津軽線だと郷沢~瀬辺地間)を通っており、蟹田町域は通っていない。ちなみに、厳密にはニューヨークは北緯40度42分、ローマは北緯41度53分なので、「だいたい北緯41度」といったところだ。

太宰治『津軽』の一節
太宰治『津軽』の一節

 看板の裏側には太宰治の随筆『津軽』の一節が刻まれている。太宰は昭和19(1944)年5月から6月にかけて故郷・津軽を旅したが、その旅の途中で蟹田にも立ち寄った。文中で太宰は自身の台詞として「蟹田ってのは風の町だね」と書いているが、事実、陸奥湾からの風が遮られることなく吹きつける蟹田の町は風が強い印象を受ける。太宰の訪問当時、津軽線はまだ開通前で、乗合バスが青森とを結んでいた。

駅構内で休むGV-E400‐13 後ろの建物は乗務員宿泊所
駅構内で休むGV-E400‐13 後ろの建物は乗務員宿泊所

 蟹田駅を発車する列車は青森方面が一日9本で、日中は3時間空く時間帯もある。かつては本州と北海道を結ぶ特急列車が頻繁に行き交った構内も、貨物列車の通過時と津軽線列車の発着時以外は静まり返っており、かつての賑わいが幻のようだ。2年数か月後には津軽線の部分廃止により終着駅となる予定だが、現時点でも普通列車は青森方面へ折り返すだけなので、事実上の終着駅と言った雰囲気だ。廃止以降も駅の雰囲気自体はあまり変わらないだろうが、電化区間しか走らない津軽線の普通列車が電車に統一されるのかどうかは気になるところだ。

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鉄道・旅行ライター

駅に降りることが好きな「降り鉄」で、全駅訪問目指して全国の駅を巡る日々。

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