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中央銀行マネーと民間マネー

久保田博幸金融アナリスト
(写真:イメージマート)

 日銀の植田総裁はFISC創立40周年記念講演会で「決済の未来と中央銀行の役割」と題する講演を行った。

 ちなみにFISCとは金融情報システムセンター(The Center for Financial Industry Information Systems)で、金融情報システムに関連する諸問題(技術、利活用、管理態勢、脅威と防衛策等)の国内外における現状、課題、将来への発展性とそのための方策等についての調査研究を行っている。

 このなかで「決済システムを中央銀行マネーと民間マネーという視点から捉えなおしてみましょう」とあった。

 「銀行預金や電子マネーについては、中央銀行マネーと同じレベルでの制度的な信認確保の仕組みがあるわけではありませんが、預金保険や供託等により一定金額が保護されている、規制監督されている、求めに応じて現金と交換できる、といった制度的な仕組みにより、安心して利用されている」

 信認の裏付けであるが、中央銀行マネーは日本銀行法に日本銀行が発行する銀行券は無制限に通用する(強制通用力)という規定があり、さらに日本国内いたるところで利用できる体制が整えられている。

 銀行預金や電子マネーについても制度的な仕組みは整えられているが、中央銀行マネーほど盤石ではない。

 「銀行預金については利子が付される、電子マネーでは様々なポイントが付されるといった経済的な魅力や、スマートフォンなどを通じていつでも利用できるといった利便性の高さが、その利用を促していると考えられます。」

 電子マネーのポイントを利子のように捉えているのが興味深い。今後は銀行預金の利子とポイントが比較対照されることが出てくるのかもしれない。

 「銀行預金にしても、電子マネーにしても、民間主体が発行する民間マネーは、現金や中央銀行当座預金といった中央銀行マネーの存在を前提とした支払手段」

 銀行預金や電子マネーは、それ単独で存立するのではなく、現金や中央銀行預金といった中央銀行マネーの利用可能性を前提にした支払手段との指摘にも注意する必要がある。

 銀行預金も電子マネーも金融機関や発行体の信用力がその背景にあるが、最終的には「円」という中央銀行マネーの利用可能性を前提にした支払手段であり、決済にあっては中央銀行マネーの信用力が背景にある。

 「信認・信頼性に重きをおく中央銀行マネーが決済手段に用いられる決済システムは、効率性に配慮しながらも安全性や頑健性を確保するために、利用実績が十分にある技術を用いて作られ、障害などの異例時対応に備えた稼動確認を十分に行ったうえで構築される傾向にあります。」

 中央銀行マネーについては、信認・信頼性に重点が置かれる。

 「経済活動のインフラとして利用されるシステムと、社会的な影響度が相対的に低いシステムとでは、求められるシステムの頑健性や代替機能の要求水準に差が生じえます。」

 中央銀行の電子マネーを考える場合にはこの点が非常に重要になる。民間の電子マネーとは比較にならないインフラの整備が求められる。

 たしかに電子マネーは便利な面も多い。しかし、中央銀行が発行する電子マネー、いわゆる中央銀行デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)には、ここが大きな課題になると思われる。

 一時に比べ、中央銀行デジタル通貨の話題が出なくなったが、この課題がクリアー出来ない限り、その実現は難しい。とりあえず民間の電子マネーの普及は今後さらに進んでも、それが中央銀行デジタル通貨にとって変わる日が来ることは現状は考えづらい。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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