イスラエル軍が停戦発効直前にシリアの国境通行所2ヵ所を爆撃、赤新月社の職員ら60人以上を殺害
シリアの国防省はフェイスブックを通じて、イスラエル軍が現地時間の11月27日午前0時5分に、レバノン領方面から、ヒムス県のダブースィーヤ国境通行所とタルトゥース県のアリーダ(タルトゥース)国境通行所を狙って爆撃を行い、軍関係者2人と民間人4人が死亡、女性、子どもを含む12人が負傷、甚大な物的損害が生じたと発表した。
イスラエル軍の爆撃は、イスラエル、レバノン両政府が米国の仲介のもとで合意した停戦が発効(27日現地時間午前4時)する約4時間前に行われた。イスラエル軍はこの爆撃について何らの声明も発表していない。だが、これまでにも、イラン、イラク、シリアを経由してヒズブッラー(第4400部隊)が続けている武器・兵站物資の「密輸」を阻止するとして、連日のようにシリア領内を爆撃しており、今回の爆撃も停戦発効前の威嚇を目的とした「駆け込み爆撃」と見ることができる。
国営のシリア・アラブ通信(SANA)や日刊紙『ワタン』は、この爆撃で、シリア領とレバノン領を隔てるキバル橋に架かる橋、具体的にはダブースィーヤ国境通行所に設置されているバイトゥーニー・マアダニー橋、キマール橋、ジューバーニーヤ橋、そしてアリーダ国境通行所の橋がことごとく破壊されたとしたうえで、多数の写真を掲載した。
被害は物的損害に限られなかった。シリア・アラブ赤新月社はフェイスブックを通じて声明を出し、この爆撃で、レバノンからの避難民に対する人道活動に従事していた職員とボランティア66人が死亡したと発表、多数の救急車輛と活動拠点に損害をもたらした爆撃を非難、すべての当事者に国際人道法を尊重し、人道支援従事者を保護するよう呼びかけた。また、シリアの保健省も、フェイスブックを通じて、アリーダ国境通行所に対するイスラエル軍の爆撃で、救急医療スタッフ3人が負傷し、車輛1輌が損害を受けたと発表した。
爆撃を受けて、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は声明を出し、「深い衝撃と憤り」を感じるとしたうえで、シリア・アラブ赤新月社の職員多数が死傷したことに対して、同赤新月社と犠牲となった職員の家族に、心からの連帯とお悔やみの意を表明した。
しかし、欧米諸国のなかで、民間人や医療スタッフの死に哀悼の意を示している国はない。シリアで停戦監視にあたるロシア当事者和解調整センターのオレグ・イグナシュク副センター長は、過去24時間に避難民2,116人がレバノンからシリアに入国したと発表した。イスラエル軍によるレバノンへの攻撃は停止したが、避難の流れはまだ止まっていない。
シリアのバッサーム・サッバーグ外務在外居住者大臣は11月27日、パレスチナ人民連帯国際デー(11月29日)に合わせて、国連のパレスチナ人民の固有の権利行使に関する委員会(1975年設置)の議長を務めるシェイク・ニアン大使に書簡を送り、そのなかで、イスラエルによるレバノン人民とレバノン、そしてシリア領内に対する攻撃をもっとも厳しい表現で非難、これを「自衛権」として正当化しようとする試みを拒否すると表明した。そのうえで、パレスチナ人民、その自決権、帰還権、エルサレムを首都とするすべての占領地を網羅する独立国家の樹立をめざすパレスチナ人を支持し、ゴラン高原を含むイスラエルによるアラブ諸国内の占領の終了を訴えるとともに、国連安保理決議第242号、第338号、第497号を含む国連のすべての決議の実施と、7月の国際司法裁判所の勧告の履行に向けて努力を結集し、イスラエルに共同で圧力をかけるよう国際社会に呼びかけた。
なお、英国で活動する反体制派系NGOのシリア人権監視団が11月27日に発表したところによると、イスラエル軍によるシリア領内に対する攻撃は、今年に入って157回(うち131回が航空攻撃、26回が地上攻撃)で、292あまりの標的が破壊され、軍関係者415人と民間人66人が死亡、軍関係者285人と民間人67人が負傷している。この数字には27日の爆撃で死傷したシリア・アラブ赤新月社の職員やボランティアや民間人は含まれていない。