「難民が怖い?」若者が風刺劇場で今の社会風潮を笑う 政治ネタたっぷりのノルウェー高校文化
この時期、ノルウェーの首都オスロの高校では、毎夜大きな笑い声が響く。レヴィーという催し物は、オスロで育まれる高校文化で、高校生が社会や大人を皮肉る演劇だ。約2時間、音楽やダンスと共に、高校生が次々と笑いを題材としたネタを披露する。
このレヴィーの特徴は、高校生が社会風潮や大人の言動を、皮肉たっぷりに茶化すことにある。事実がベースとなっているので、会場からは笑いの渦がおこる。演劇のレベルが高いので、劇場関係者が将来の俳優をスカウトしようと目を光らせる時期でもある。
今年は複数のレヴィーを鑑賞しているのだが、どの高校でも、欧州の難民問題や、ノルウェーの政治家が必ず取り上げられている。特徴的なのが、国内では難民の波を懸念する声が高まる一方、若い高校生たちは、難民申請者の増加をそこまで恐れていないことだ。複数の高校でインタビューしたが、誰もが「ノルウェーはもっと受け入れてもいいと思う」と口を揃える。
オスロにあるフォス公立高校でも、難民申請者を取り扱うシーンが展開された。
「よそ者怖いソースはいかがですか?」
レストランで客がメニュー選びに迷う隣で、店員が提案する。
「よそ者怖いソースはいかがですか?」
「奉仕活動シャーベットはどうでしょう?」
反対・不安派による「よそ者怖い」と、なんとかしようと動く賛成派の「奉仕活動」は、難民問題において話題となっている言葉で、ノルウェーでニュースを見ているものなら、誰もがすぐにピンとくる。
難民問題であたふたする国内の現状を、高校生が皮肉にみているのが明らかな演出だった。
裕福層エリアに、受け入れ施設!?
オスロ市では、金持ちが多く住む西部モンテベロ地域に、難民申請者の受け入れ施設を設けることを市議会が検討している。難民反対派は一斉に「怖い!」と抗議していたのだが、それも高校生たちによって笑いのネタにされてしまった。
会場に現れたのは、一人のノルウェー人女性。難民申請者の波を怖がっているが、そのような発言をすると「人種差別者」と思われやすいノルウェー社会での、息苦しさを訴える。彼女の発言は、移民・難民に反対の進歩党の政治家がよく口にする表現ばかりなので、会場では最後に大きな笑いと拍手で包まれた。
強調しておくと、高校生や観客は、この「難民怖い」派の定番の言い分を、人種差別的だと鼻から笑っているのだ。
この演説シーン後、舞台ではスクリーンで、フェイスブックに投稿されていた難民反対派の実際のコメントが次々と映し出された。難民申請者を「ゴキブリ」と表現している投稿もあった。
スピーチは、フォス高校の劇場ではユーモアたっぷりに笑いのネタにされてしまったが、この内容は難民反対派や進歩党にとっては、定番の正しい言い分である。なにより、国内では、こちらの言い分を主張する進歩党の支持率は、急上昇している。
総監督の高校生ヴィルヘルム・ストーランさん(18)に、「あきらかに左翼に傾いた劇場だったけれど、進歩党派や保守・右翼系の高校生はいないの?」と聞いたところ、「この学校にはまずいないよ。もともと政治活動に積極的な高校で有名なんだけれど、左翼ばかり」。
政治において中立的であるようにという指示は学校からされていないという。レヴィーでは、その時々の政権や政治家を批判し、笑いのネタにすることが定番なので、「中立的に」ということは元々どこの高校でも重視されない傾向にある。教員も口出ししないことがルールだ。
「たくさん難民申請者がくることが大きな課題だというのはわかるけれど、紛争地から来ているのだし、もっとオープンに受け入れてもいいと思う」と話すストーランさん。難民申請者の波を怖いと感じるかと聞くと、「怖くないよ」と即答した。
Photo&Text:Asaki Abumi