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侍ジャパン金メダルおめでとう!これを節目にして今後の野球界発展のために。

上原浩治元メジャーリーガー
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

東京五輪の野球日本代表「侍ジャパン」が公開競技だった1984年ロサンゼルス五輪以来となる金メダルを獲得した。正式競技になってからは初めての快挙だ。アテネ、北京と五輪2大会を戦った立場からも、金メダルという結果を出した選手たちに心から「おめでとう」を言いたい。

 決勝を見ていても、先発の森下暢仁投手のカーブは初見で攻略するのは難しかった。開幕前に予想したとおり、初戦、準決勝という大事なところは山本由伸投手が先発マウンドに上がった。重圧をはね返す見事な投球だった。

 2012年に常設化された侍ジャパンはこれからもシーズンオフに海外との試合や国際大会へ出場し、23年には5回目を迎えるワールド・ベースボール・クラシック(WBC)での活躍も期待される。ただ、五輪という舞台に金メダルの「先」が今のところ、ないのが寂しい。ご存じの通り、2024年パリ五輪は野球が実施競技からの除外が決まっている。メジャーリーガーが参加せず、サッカーなどが盛んなヨーロッパには野球のスタジアムがほとんどない。ヨーロッパへの普及が進まないと、五輪での常時開催のハードルははてしなく高いだろう。

 私見を言わせてもらえば、東京五輪の金メダルを一つの節目として、日本代表の在り方を変えてもいいのではないかと思う。プロの派遣はWBCに特化し、五輪復帰に向けた日本代表は社会人や大学・高校などアマチュアで編成してはどうだろうか。WBCは25年に第6回が予定され、参加国・地域数も回を追うごとに増えている。全員とは言えないが、現役メジャーも参加する。

 一方で、アマは2000年シドニー五輪からのプロ解禁以降、大きな目標を失った。当時は五輪が最高峰の大会になるという機運もあったが、メジャーがWBCを創設した以上、これから先に五輪に野球が復帰してもメジャーの参加は現実的ではない。それなら、日本も五輪代表をアマに返上してもいいのではないかと思う。アマ選手にとって、プロの門をたたくチャンスは高校3年、大学4年、あとは社会人になった後の2~3年の大きく3回しかない。しかし、五輪という舞台があれば、プロ以外にも目標ができる。かつての野茂英雄さんや古田敦也さん、小久保裕紀さんのように五輪で活躍して「鳴り物入り」でプロに入ってくる選手がいれば、ドラフト会議なども盛り上がると思うが、どうだろうか。

 もう一つは、野球の底辺拡大にそろそろ、行政も本気で立ち上がってほしい。公園でのキャッチボール禁止、バットの素振り禁止と何でもダメで、気づけば野球人口は著しい減少傾向にある。野球というのはルールが複雑で「進塁打」や敬遠などは、みんなが野球を知っているから見ていても面白い。しかし、2000年代には当たり前だった地上波中継もほとんどなくなっている。金メダルを取ったときだけ、「よくやった」「感動をありがとう」では困る。今の日本代表は子供のころ、まだまだ野球をできる環境があったはずだ。それでも、私の時代のように空き地でいつでも野球ができたかと言えば、そうではないかもしれない。野球をめぐる環境はどんどん悪くなる。キャッチボールができる公園、子供たちが思い切りバットを振れる広場を野球が「国民的スポーツ」というのであれば、国や行政の人たちに本腰を入れて環境整備に取り組んでほしい。東京五輪の金メダルのレガシーとは何か。「オールジャパン」でやるべき答えは明らかなはずだ。

元メジャーリーガー

1975年4月3日生まれ。大阪府出身。98年、ドラフト1位で読売ジャイアンツに入団。1年目に20勝4敗で最多勝、最優秀防御率、最多奪三振、最高勝率の投手4冠、新人王と沢村賞も受賞。06年にはWBC日本代表に選ばれ初代王者に貢献。08年にボルチモア・オリオールズでメジャー挑戦。ボストン・レッドソックス時代の13年にはクローザーとしてワールドシリーズ制覇、リーグチャンピオンシップMVP。18年、10年ぶりに日本球界に復帰するも翌19年5月に現役引退。YouTube「上原浩治の雑談魂」https://www.youtube.com/channel/UCGynN2H7DcNjpN7Qng4dZmg

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