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トランプを支持する少数派セレブ、ハリウッドでキャリアはどうなるか

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
デニス・クエイドはトランプ支持を表明(写真:ロイター/アフロ)

 アメリカ大統領選挙まで、あと3週間。戦況は接戦状態で、どちらの陣営も油断はできない。

 圧倒的に民主党支持者が多いハリウッドのセレブリティも、できるかぎりのことをしようと一生懸命だ。テイラー・スウィフトがインスタグラムでカマラ・ハリス支持を表明したインパクトは絶大だったが、ロブ・ライナー、マーク・ハミル、チェルシー・ハンドラーなども、頻繁にソーシャルメディアでメッセージを送り続けている。

 オプラ・ウィンフリーが主催したハリスのためのオンライン集会には、メリル・ストリープ、ジュリア・ロバーツ、ベン・スティラー、クリス・ロック、トレイシー・エリス・ロスらが出席。アメリカ時間21日には、ニューヨークでのハリスのイベントにアン・ハサウェイが登場し、歌声を披露した。ほかにもコメディアンたちがハリスのためにオンラインイベントを行って成功しているし、ロバート・デ・ニーロ、ジェニファー・ローレンス、ジョージ・クルーニー、バーブラ・ストライサンドら数多くの超大物が、ハリス支持を公言している。

 その一方で、堂々とトランプ支持を表明するハリウッド俳優も、少数派ながら存在する。そのひとりは、DCのスーパーヒーロー映画「シャザム!」に主演したザカリー・リーヴァイだ。

トランプ支持の表明は「キャリアの自殺行為」か?

 ロバート・F・ケネディ・Jr.が選挙から撤退した後、ケネディ・Jr.に追従してトランプ支持に回ったリーヴァイは、先月末、ミシガン州でのトランプの集会に出席。“完璧な世界”ならばケネディ・Jr.が大統領なのだがと強調しつつ、「この国は今ハイジャックされています。その人たちはこの国を崖から突き落とそうとしています」、「僕はみなさんと一緒にトランプ(前)大統領を支持します。一緒にこの国を取り戻しましょう」と、支持者たちに呼びかけた。

 リーヴァイは4年前、「トランプを支持しない。彼は下品で、冷淡で、ナルシシスティックで、思いやりに欠ける」とツイートしている。だが、トランプとハリスの二択になった以上、彼が「崖から突き落とそうとしている」と呼ぶリベラルな候補者より、保守であるトランプを選んだということだ。そんな彼は、「あなたたちもご存知かと思いますが、ハリウッドは、すごくリベラルです。これは僕のキャリアにとって自殺行為かもしれません」とも付け加えている。

写真:REX/アフロ

 もちろん、彼がトランプを支持したことはハリウッド関係者に喜ばれはしないだろう。しかし、たとえこの先、彼のハリウッドでのキャリアが振るわなかったとしても、これが直接の原因とは思えない。

 リーヴァイが最後に出たメジャースタジオ作品「シャザム!〜神々の怒り〜」は、昨年、最もがっかりの結果に終わった大作のひとつだ。ボックスオフィスは赤字、レビューサイトRottentomatoesの評価も49%。最悪の映画に贈られるラジー賞にも、作品を含む4部門で候補入りする不名誉を得ている(ただし、リーヴァイはノミネートされていない)。不振の続くDCのユニバースは、一から仕切り直しされることになり、リーヴァイがまたこのキャラクターでビッグスクリーンに戻ってくることはない。

 今年夏にアメリカ公開された「Harold and the Purple Crayon」も、ほとんど話題にならなかった。この後にも作品は控えるが、Amazonプライム・ビデオが製作する1本を除けば、すべてインディーズだ。もちろんそれが悪いという意味ではない。むしろインディーズには優れた作品がたくさんある。だが、リーヴァイは、ロサンゼルスではなくテキサスに住んでもいるし、すでにハリウッドにどっぷり、べったりの俳優ではないのである。こんな形で保守層にアピールしたのは、キャリアの自殺行為どころか、新しいファンを取り込んだという意味でプラスだったのではないかという声も聞こえる。

違う候補者を支持するクエイド父子

 もうひとりは、リーヴァイと「American Underdog」(2021)で共演したデニス・クエイド。8月末にアメリカで公開されたロナルド・レーガンの伝記映画「Reagan」に主演したクエイドは、先週土曜日、カリフォルニアのコーチェラで行われたトランプの集会に出席し、「20世紀の大統領で一番好きなのはレーガン、21世紀ではトランプ」と、トランプを持ち上げた。彼はまた、「法と秩序の国か、国境を開放した国か。どちらを選びますか?」と、集まった支持者たちに問いかけている。

 このクエイドの発言に対して、ソーシャルメディアには、「法律を破って有罪判決を受けたトランプが法と秩序の象徴だって?」など、揶揄するコメントが寄せられた。さらに、「これでデニス・クエイドのキャリアは終わったね」という投稿も見られる。

 しかし、クエイドの場合も、キャリアが終わるとまではいかないだろう。クエイドはこの後も撮り終えた作品が複数あり、これから数年、姿を見かけることになるのはたしかだ。それに、彼はすでに70歳である。

 やや影響があるとすれば、賞レースではないか。クエイドは、今年のカンヌ映画祭とトロント映画祭で上映され、好評を得たデミ・ムーア主演の「The Substance」で、女性に対して明らかに年齢差別をする嫌な男性の典型を、実に痛快に演じている。2002年の「エデンより彼方に」以外、ほとんど賞レースとはかかわらずに来た彼にとっては久々のチャンスなのだが、彼がトランプを支持しているとわかった今、「あれは演技ではなく地のままだったわけだ」と思われてしまうかもしれない(実際、そういった書き込みを見かける)。

ジャック・クエイドはデニス・クエイドとメグ・ライアンのひとり息子
ジャック・クエイドはデニス・クエイドとメグ・ライアンのひとり息子写真:REX/アフロ

 ところで、クエイドの兄ランディ・クエイドもトランプ支持者。しかし、2番目の妻メグ・ライアンとの間に授かった息子ジャック・クエイド(『ザ・ボーイズ』『オッペンハイマー』)は、ハリスの支持者だ。彼は、「ザ・ボーイズ」の共演者たちと一緒にハリスのための寄付金集めオンラインイベントも主催している。

 人柄の良さが感じられ、スキャンダルもないジャック・クエイドへの好感度はもともと高かったのだが、トランプ集会でのデニス・クエイドの発言を受け、ハリス支持者はソーシャルメディアに「あなたがお父さんやおじさんみたいでなくて良かった」、「どうしてこんな普通の子に育ったんだろう」などといったコメントを書き込んでいる。

 とは言え、それでキャリアアップできるほどハリウッドは甘くない。本人もそんなことは考えてもいないだろう。政治への思想が違うこの父子が見つめるのは、3週間後の大統領選だ。果たしてどちらが笑い、どちらが泣くことになるのか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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