ウクライナ空軍、対空戦車「ゲパルト」で夜間にイラン製軍事ドローン「シャハド」迎撃
2023年9月にウクライナ空軍が夜間に対空戦車「ゲパルト」でロシア軍のイラン製軍事ドローン「シャハド」を迎撃する動画を公式SNSで公開していた。
2022年2月にロシア軍がウクライナに侵攻。2022年10月に入ってからロシア軍はミサイルとイラン政府が提供した標的に向かって突っ込んでいき爆発する、いわゆる神風ドローンの「シャハド136(Shahed136)」、「シャハド131(Shahed131)」で首都キーウをはじめとしたウクライナのあらゆる都市を攻撃しており、2023年9月になってもイラン製軍事ドローンでの奇襲がおさまっていない。「シャハド」のような攻撃ドローンは深夜や早朝など一般市民も寝ており、暗闇で視界が悪く、迎撃する兵士の脳が昼間ほど働いていないときに複数で奇襲をしかけてくる。
ウクライナ軍はドイツ政府が提供した対空戦車「ゲパルト」でもイラン製軍事ドローンを迎撃している。「ゲパルト」は対空戦車なので攻撃ドローンだけでなくミサイルも迎撃している。
▼ゲパルトでイラン製軍事ドローン「シャハド」を迎撃(ウクライナ空軍公式SNS)
ドイツ国防省は2022年4月にウクライナ軍にドイツのクラウス・マッファイ・ヴェクマン社が製造している対空戦車「ゲパルト」50台を提供することを発表した。国防大臣のクリスティーネ・ランブレヒト氏(当時)は「今、まさにウクライナ軍が上空からの攻撃に対する防衛に必要としている兵器です」とコメントしていた。ドイツ政府が発表した6月の武器供与リストにもゲパルトが含まれていた。
2022年7月にドイツから対空戦車「ゲパルト」3台が到着すると、ウクライナのオレクシー・レズニコウ国防大臣もSNSで「ウクライナの上空の防衛が強化されます」とドイツに感謝を伝えていた。ドイツのショルツ首相は2022年11月にウクライナに防空システムを引き続き提供して支援していくことを明らかにしていた。ショルツ首相は2022年8月にはドイツ北部のオルデンブルク近郊で「ゲパルト」の操縦訓練を受けるウクライナ兵を視察していた。
上空のドローンを機能停止したり、上空で爆破するためのシステムや兵器はゲパルト以外にもウクライナ軍には多く提供されている。上空のドローンを迎撃するのは、電波を妨害(ジャミング)してドローンの機能を停止させるいわゆる"ソフトキル(soft kill)"と、対空機関砲のように軍人が持って上空のドローンを爆発させる、いわゆる"ハードキル(hard kill)"がある。対空戦車のゲパルトは明らかにハードキルである。
民生品の監視・偵察ドローンは攻撃してこないので、電磁波などのソフトキルや軍人が対空機関砲などで撃墜することも容易だ。だが、大量のドローンがかなりのスピードで突っ込んできて爆発するような攻撃ドローンは人間の軍人が迎撃するのは非常に危険であるので、対空戦車の方が適している。
一方で、ロシア軍のイラン製軍事ドローンは大量に毎日ウクライナのあらゆる場所に攻撃をしかけてくるが、対空戦車ゲパルトの数は限られている。全てのイラン製軍事ドローンやミサイルの迎撃には対応できない。そのため、危険ではあるが日々の大量のイラン製軍事ドローンの攻撃に対しては、ウクライナ兵がドローンが飛来しているところまで車で走っていったり、ビルの屋上などで構えて機関銃や地対空ミサイルで迎撃してウクライナ国土を防衛している。攻撃ドローンは大量に無人でいっきに攻撃でき破壊力も強いため攻撃側が圧倒的に優位である。
また地対空ミサイルシステムや防空ミサイルだけでなく対空戦車のような大型システムで監視ドローンを攻撃して爆発させるのはコストもかかるし、大げさかと思うかもしれない。しかし監視ドローンこそ検知したらすぐに破壊しておく必要がある。監視ドローンで敵を検知したらすぐに敵陣をめがけてミサイルを大量に撃ち込んでくる。監視ドローンとミサイルはセットで、上空の監視ドローンは敵からの襲撃の兆候である。また部品を回収されて再利用されないためにも徹底的に破壊することができる"ハードキル"の方が効果的である。そして攻撃ドローンだけでなく、安価な監視ドローンも徹底的に破壊しておいた方がトータルでのコストパフォーマンスは高い。上空からの攻撃に対する防衛は非常に重要であり、ミサイルだけでなく攻撃ドローンへの対策も安全保障の観点からも急務である。
▼ウクライナでの「ゲパルト」の操縦訓練の様子を伝えるメディア