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新型コロナ:改めてふり返る5つの特徴と5つの対策

坂本史衣聖路加国際病院 QIセンター感染管理室マネジャー
(写真:アフロ)

2020年11月29日現在、全国から報告される1日あたりの新規感染者数が2000人を超える日が続いています。重症者数も増加しており、流行地域の医療資源が逼迫しているとの声も聴かれるようになりました。このような状況を受けて、政府の分科会の尾身会長は衆議院厚生労働委員会において「個人の努力だけに頼るステージはもう過ぎた」と発言されています。

これまで日本では、大きな波を2つ経験し、今は3つめの、過去最大の波を乗り越えようとしているところです。正直なところ、私も医療者として、また何より生活者として、「もう疲れた、もうたくさんだ」と思うことは何度もあります。ただ、過去2回の波を乗り越えられたのは、感染者が増加に転じるたびに、自主的に感染を防ぐような行動を選択してきた(私を含む)生活者の力によるところが大きいと感じています。

個人の努力「だけ」に頼るステージはとうに過ぎています。ただ、個人の努力はこれからも必要です。当然のことながら、すでに疲れてしまって余力のない方も多いでしょう。ただ、まだもう少し頑張れそうだという方がいれば一緒に頑張りたいと思い、この記事を書いているところです。

頑張るというのは、過剰でもなく、過小でもない、「必要最小限かつ効果的な対策」をこれからもコツコツと続けることです。それが感染予防につながります。法的強制力をもってロックダウンを行った欧州の国々では、現在感染者数が減少に転じています。素晴らしい成果です。日本では多くの人々の自主的な行動変容で感染者数を減らすことができれば、それも同様に素晴らしいことだと思います。

では、前置きが長くなりましたが、本題に入ります。対策を先に、特徴を後に書いています。後半を読まない方のために、一つだけ大事な新型コロナの特徴を先にお伝えします。新型コロナは症状が出る前に感染性を発揮します。そのため、目の前の一見元気そうな人から感染することがあるということを知っておくことが重要です。二次感染例の40~45%は、(症状が現れる直前の)無症状者から感染していることが分かっています。

5つの対策

1 リスクが高まる5つの場面を知り、これらを可能な限り避ける。

これまでのクラスターの分析などから、感染するリスクが高い場面が分かってきました。これらを避けることで、感染のリスクをかなり下げることができます。5番目は少しわかりにくいかもしれませんが、仕事がひと段落してホッと一休みをするときに、休憩室や喫煙室、職員食堂などで起こりやすい場面です。たとえば、マスクを外してお弁当やおやつを食べたり、飲み物を飲んだり、たばこを吸いながらお喋りをするといった状況です。また、寒くなると換気も不十分になりがちですが、重要な対策です。

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https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html

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https://corona.go.jp/proposal/pdf/cold_region_20201112.pdf

2 同居者以外の人の顔が近づく(目安として1~2メートル以内)ときは、お互いにマスクをつける

屋内でも屋外でもです。飛沫を飛ばしたり、浴びたりすることを防ぐことにつながります。マウスガード、フェイスシールドのみはあまり役に立ちません。またウレタンのマスクも飛沫を通しやすいことが分かってきました。不織布がベストですが、2層以上の布製のマスク(できるだけ目の詰まったもの)でもほぼ同じような効果があるようです。

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国立大学法人豊橋技術科学大学 Press Release 2020年10月15日

3 家庭の「外」での感染をできる限り防ぐ

家庭内ではお互いの距離が近く、接触する時間も長いので、予防が難しくなります。新型コロナは症状が出る前から感染性が出現するため、症状が現れたときにはすでに同居者が感染しているということが良くあります。上の対策1と2を参考に、家庭の外、つまり職場や友人、知人と会う場面で感染を防ぐことに注力することをお勧めします。

4 手を洗う場面を決めておく

後半で述べていますが、接触感染は主要な感染経路ではありません。そのため、手からうつることを過度に心配する必要はありませんが、手が汚染されている可能性が高い場合や、顔に触れる前にはきれいにした方がよいでしょう。推奨される手洗いのタイミングを以下に挙げました。手洗いについてはこちらの記事をご参照ください。

  • 帰宅時
  • 職場に到着時
  • 食事・調理の前
  • トイレ・おむつ交換のあと
  • 動物や動物のエサや排泄物に触れたあと
  • ゴミ出しのあと
  • 手が目に見えて汚れているとき
  • 病気の人の世話をする前後
  • 傷の手当をする前後
  • 外出先で顔に触れる前

5 具合が悪いときは休む

後半に新型コロナで見られることがある症状を紹介しています。37.5℃以上の発熱や咳がない場合でも、感染の可能性が否定できない症状があります。「これくらいで休めないし、全然働けるよ」と思えるような軽い症状もあります。ですが、人と人はつながっています。自分は重症化しやすい人には会わないから大丈夫だろうと思っても、自分が会う人にはハイリスクの人との接点があるかもしれません。疑わしい症状が見られたら、ひとまず人と接しないことが感染の拡大を防ぎます。

5つの特徴

特徴1 症状が現れる前から感染性がある

新型コロナの感染性のピークは症状出現の約2日前から、出現直後にかけてです。症状が現れたあとは10日ほどで感染性が消失すると考えられています。重症な方はもう少し長くなることがあります。一見元気な人でも、感染性を発揮している場合があるというのは、新型コロナのやっかいな特徴です。

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新型コロナウイルス感染症の感染性の推移

特徴2 軽症な場合は感染していることに気づきにくい

新型コロナでよくみられる症状は以下の通りです。風邪やインフルエンザに似ているので、“これがあれば間違いなくコロナだ!”と断言できる症状はありません

また、特に持病のない若い人は軽症のことがあります。例えば、発熱といっても37.0℃を少し超える程度の微熱しかない、あるいは、のどの痛みや下痢(ノロウイルス感染症のような激しい下痢ではないことが多い)しかみられない人もいます。症状が軽いと、感染していることに気づかずに、職場や家庭内で重症化しやすい人にも接してしまうことがあります。これも新型コロナのやっかいな特徴です。

最もよく見られる症状

  • 発熱
  • 息苦しさ

その他の症状

  • のどの痛み
  • 関節痛・筋肉痛
  • 倦怠感
  • 匂いや味が分からない
  • 鼻水・鼻づまり
  • 結膜炎
  • 頭痛
  • 下痢、嘔気・嘔吐

特徴3 主に飛沫感染、次に接触感染、換気の悪い場所では空気を介した感染も

感染を防ぐ上で、感染経路を知ることはとても重要です。そのため、この部分の解説は少し長くなりますが、太字の部分だけを拾い読みしていただいても構いません。あるいは、感染経路に関するこちらの記事をすでに読んでくださった方は、ここは読み飛ばしてください。

新型コロナの主要な感染経路は飛沫感染です。

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 筆者作成

人が息をしたり、声を出したり、咳やくしゃみをするときには、口や鼻から水分を含む微粒子が放出されます。これが飛沫です。飛沫は数メートル先まで飛んで、落下します。飛ぶ距離は人の体格、声の大きさや気流などの諸条件で変わりますが、大部分は発生源から2メートル前後に落下すると考えられています。感染者の近くで会話をすると、飛沫に含まれるウイルスを吸い込んだり、飛沫が目に入ったりして感染することがあります。互いの距離が近く、接する時間が長いほど、感染するリスクは上がりますし、人数が多いほど、感染する人が増える傾向があります。また、同じ箸を使う、回し飲みをするなど飛沫で汚染された食器や飲料を介して感染することもあります。

飛沫感染に比べると、汚染された環境表面に触れた手で、顔の粘膜に触れることによる接触感染はよくみられる感染経路ではないというのが現在の専門機関の見方です。髪の毛や皮膚から体内にウイルスが侵入することはありません。

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 筆者作成

換気の悪い空間では、空気中を漂うウイルスを含む微粒子を吸い込んで感染することがあります。この微粒子は、飛沫の水分が乾燥してできたもので、非常に軽くて小さいため、気流に乗って、より長い時間、より長い距離を漂うことができます。ただ、このような経路による感染は頻繁に起きているわけではなく、感染性のある人が閉鎖空間に30分以上、場合により数時間滞在した場合に起きています。特に、換気の悪い場所で、大声を出す、歌う、運動をする場合は、空気中の微粒子の濃度が上昇する考えられています換気は重要な感染対策です。

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 筆者作成

特徴4 感染者の約2割から複数人に感染して広がる

新型コロナは、1人の感染者から一度に複数人が感染する形で社会に広がります。ただしこのような形で感染させるのは、感染者の約2割程度であって、約8割の人は二次感染を起こしません。どの感染者がこの2割に該当するか知る方法はありません。

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https://vis.sciencemag.org/covid-clusters/より引用

特徴5 重症化や後遺症のリスクがある

高齢者や基礎疾患のある方には次のような重症化のリスクがあります。また、若い方であっても、回復後に倦怠感(だるさ)や息苦しさ、味覚・嗅覚障害といった症状が続くことが分かってきています。

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年齢階級別死亡数(2020年8月5日時点で死亡が確認された者の数)

診療の手引き第3版 

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重症化のリスク因子 診療の手引き第3版 

今回もお読みいただきありがとうございました。新型コロナの予防にウルトラCはありません。できる範囲で基本的な対策をコツコツと、皆様と一緒に続けていきたいと思います。

聖路加国際病院 QIセンター感染管理室マネジャー

専門分野は医療関連感染対策。1991年 聖路加看護大学(現 聖路加国際大学)卒業、1997年 コロンビア大公衆衛生大学院修了。2003年 感染管理および疫学認定機構Certification Board of Infection Control and Epidemiologyによる認定資格(CIC)を取得し、以後5年毎に更新。日本環境感染学会理事、厚生労働省厚生科学審議会専門委員などを歴任。著書に「感染対策40の鉄則(医学書院)」、「基礎から学ぶ医療関連感染対策(南江堂)」など。※記事は個人としての発信であり、いかなる組織の意見も代表するものではありません。

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