ワクチン接種は英国経済の起死回生策となるか(上)
英政府は2月22日に発表した新型コロナ感染拡大阻止のロックダウン(都市封鎖)を終わらせるための4段階のロードマップ(行動計画)に基づいて、6月までに日常生活への復帰を目指す一方で、リシ・スナク財務相は3月3日、下院で、ロックダウンで甚大な経済損失を受けた英国経済の復活のカギを握る2021年度(2021年4月-2022年3月)予算案を発表した。これは英国経済が300年以上ぶりの大幅マイナスとなった、昨年のどん底の成長率(マイナス9.9%)からの脱却プランだ。
新年度予算案の目玉は650億ポンド(約10兆円)の追加経済支援措置だ。感染拡大で営業休止を余儀なくされた企業への経営支援や一時帰休者への給与支援に充当される。これまでの財政支援を含めると、総額4070億ポンド(約61兆円)超に達する。一方、政府は財政均衡を回復させるため、今後数年間、企業や200万人の納税者を対象に増税措置も同時に講じる。特に、増税措置は、個人所得税の課税最低限を2026年まで凍結することや、法人税の税率を19%から25%(年間利益5万ポンド(約760万円)以上が対象)に引き上げる結果、2025年度(2025年4月-2026年3月)の税負担は対GDP(国内総生産)比34%から同35%と、1969年以来の57年ぶりの高水準となる見通しだ。
スナク財務相は3月3日、下院本会議で、「いったん景気が回復すれば、公的債務の減額に取り組む。利益を上げた大手・中堅企業や給与が上がった個人の納税額の引き上げを求めるのは公正かつ責任を負うことだ」と述べ、「パンデミック中の景気支援で景気が上向く2025年度から増税により、財政健全化を目指す」とした。来年半ばまでに英経済をパンデミックの水準に戻し、3年間で景気を安定させ、2023年度から増税により、巨額の政府債務を減額し、財政の健全化を目指すというシナリオだ。
英紙ガーディアンのコラムニスト、ケイティ・ボールズ氏は3月3日付で、「スナク財務相は新年度予算でプラグマティスト(実用主義者)であることを示した。コロナ終息後の財政健全化を果たす責任と英国の法人税の税率をG7(先進主要7カ国)中、最も低く抑えることで国際競争力を維持する必要性とのバランスをうまくとった」と評価した。実際、フランスの法人税率は30%超、ドイツと日本は約30%、イタリアとカナダ、米国は25%超と、英国を大きく上回っている。
英シンクタンクの公共政策研究所のトム・キバシ元理事はガーディアン紙の3月3日付コラムで、「スナク財務相はキャメロン政権(保守党)下で未曽有の財政赤字(2010年度当時で政府債務残高は7700億ポンド=約116兆円)解消のため、超緊縮財政に取り組んだオズボーン元財務相とは違う。一時帰休者の給与支援の延長や企業への財政支援(交付金や低金利ローン、税優遇制度など)、さらには、企業の新規設備投資の130%の税額控除(約250億ポンド(約4兆円)相当の減税措置)を発表しており、緊縮予算ではない」とした。しかし、同氏は、「大胆な対策は最大の安全策とよく言われるが、バイデン米大統領の1兆9000億ドル(約200兆円)の追加景気刺激策に比べれば、労働党も保守党も対策規模は不十分だ。英公共政策研究所は1900億ポンド(約29兆円)の財政支援策を政府に提言したが、無視された。なぜ、政府は小さすぎる財政対策が招くリスクの方を取ろうとするのか」とし、「小さすぎて経済を救えない」と批判する。(「下」に続く)