Yahoo!ニュース

Twitter、Facebookが大統領を黙らせ、ユーザーを不安にさせる理由

平和博桜美林大学教授 ジャーナリスト
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

「ツイッター大統領」とも呼ばれたトランプ氏のアカウントが永久停止されたことが、支持者だけでなく、みんなを不安にさせる――専門家の間で、そんな懸念の声が上がっている。それはなぜか?

ツイッターは1月8日、トランプ大統領のアカウントを「さらなる暴力扇動のリスク」を理由として永久停止した、と公式ブログで明らかにしている。

死者5人を出したトランプ氏支持者らによる米連邦議会議事堂占拠の騒乱をめぐり、ツイッターは6日にトランプ氏のアカウントを一時的に停止。7日夜に再開した直後の永久停止措置となった。

すでにフェイスブックも、アカウント停止の無期限延長を表明しており、少なくとも20日のバイデン新大統領就任式までは継続する、としている。

ソーシャルメディアに対しては、前回大統領選でのフェイクニュース氾濫をきっかけに、コンテンツ管理強化を要求する圧力が高まり続けていた。さらに議事堂占拠の深刻さを踏まえて、今回の措置には一定の理解が示されている。

その一方で、米大統領を上回るパワーを、ソーシャルメディアが持っていることへの懸念も広がっている。さらに、専門家や人権団体からは、このような判断の不透明さに対して危険性を指摘する声も出ている。

プラットフォームは、判断を誤ることが少なからずあるからだ。

ソーシャルメディアは国際的なインフラのように機能しながら、ある日突然、アカウントが停止されたり投稿が削除されたりしても、その判断の透明性や説明責任が果たされているかどうかは、どこまで行ってもはっきりしない――。

これまで繰り返し指摘されてきたソーシャルメディアの問題点が、トランプ氏への永久停止措置をきっかけに、改めてクローズアップされている。

●歯止めのない権力の行使

数カ月の間、トランプ大統領はソーシャルメディアのプラットフォームを使って、選挙結果に対する疑いの種をまき、有権者の信頼を損ない続けてきた。今、トランプ氏のアカウントを永久停止したい気持ちは理解できる。だがそれはすべての人々に、フェイスブックやツイッターのような企業が歯止めのない権力を行使することへの懸念を抱かせることになる。数十億人の言論にとって不可欠となったプラットフォームから、自分たちも削除されるのではないかと。特に今の政治状況を考えれば、そのような判断が容易にできるようになっているのだから。

米自由人権協会(ACLU)の弁護士、ケイト・ルーエン氏は、トランプ氏のアカウント停止を受けて、そんな声明発表している。

その影響は、トランプ氏よりも、特に社会的なマイノリティの人々に対して大きくのしかかる、とルーエン氏は指摘する。

トランプ大統領の場合、人々とコミュニケーションを取ろうと思えば、自身のプレスチームやFOXニュースを活用することもできる。しかし、黒人やヒスパニック、そしてLGBTQのアクティビストのように、ソーシャルメディア企業に監視されてきた人々には、そんな選択肢はない。ソーシャルメディア企業には、すべての人々に対して、透明性のあるルールの適用をしてほしいというのが、我々の願いだ。

ルーエン氏が指摘する懸念の発端は、ツイッターが8日午後6時21分(東部時間)に出した、トランプ氏のアカウントに対する永久停止の声明だ。

トランプ氏(@realDonaldTrump)のアカウントからの新たなツイートとそれにまつわるコンテクスト、特にそれらがツイッター上とツイッター以外でどのように受け止められ、解釈されているかについて詳細に検討した結果、さらなる暴力扇動のリスクのために、アカウントを永久停止しました。

声明は、そう述べている。

ツイッターが問題視したのは、トランプ氏が8日午前9時46分と午前10時44分に投稿した2本のツイートだ。

ツイッターの声明では、この中でトランプ氏が、20日のバイデン新大統領就任式には出席しないとしていることから、就任式が“安全な”攻撃対象と受け止められかねないとし、「米国の愛国者たち」などの表現が議事堂占拠をした支持者らの擁護と受け取られている、などと指摘。その上で、こう述べている。

将来的な武装デモの計画はすでにツイッター上やそれ以外で拡散し始めており、その中には2021年1月17日に再び連邦議会を襲撃するという企みも含まれている。

これらのことから、この2本のツイートが議事堂占拠のような暴力行為を再燃させる引き金になりかねないとし、トランプ氏のアカウントの永久停止を決めた、としている。

ツイッターの永久停止措置に対してトランプ氏は、個人アカウントとは別にある米国大統領の公式ツイッターアカウント(@POTUS)を使って、このように反論している。

ずっと言い続けてきたことだが、ツイッターは表現の自由の禁止へとどんどんと突き進んできた。そして今夜、ツイッターの社員たちは民主党や急進左派と連携して私のアカウントをプラットフォームから削除し、私を沈黙させた――さらに私に投票してくれた7,500万人の偉大な愛国者の皆さんのこともだ。ツイッターは私企業だが、通信品位法230条(プラットフォーム免責)の恩恵なしには長くは存続できないはずだ。いずれそうなる。他の様々なサイトとも交渉をしてきた。いずれ大々的な発表をすることになるだろう。近い将来、我々独自のプラットフォームをつくる可能性も検討している。我々は沈黙しない。ツイッターは表現の自由とは縁もゆかりもない。

これらのツイートも、間もなくツイッターによって削除されている。

●8,877万人のフォロワー

トランプ氏のアカウント停止前(1月8日午前11時26分現在、東部時間)のツイッターのフォロワー数は8,877万人。これは、どのような規模なのか?

Twitterのデータより筆者作成(トランプ氏を除き、東部時間1月11日午後4時現在)
Twitterのデータより筆者作成(トランプ氏を除き、東部時間1月11日午後4時現在)

1月11日午後4時(東部時間)現在、最も多いフォロワー数は、前大統領バラク・オバマ氏の1億2,800万人だ。

以下、いずれも人気歌手のジャスティン・ビーバー氏の1億1,369万人、ケイティ・ペリー氏の1億916万人、リアーナ氏の1億42万人、サッカー選手のクリスチアーノ・ロナウド氏の9,040万人が並び、トランプ氏のフォロワー数はこれに次ぐ。そして、トランプ氏に次ぐフォロワー数があるのがテイラー・スウィフト氏(8,804万人)だ。

ユーチューブ(7,276万人)やツイッター(5,889万人)の公式アカウントや、メディアとしては最多のCNN速報(6,024万人)をはるかに上回る。

ニューヨーク・タイムズ(4,880万人)、FOXニュース(2,004万人)、ワシントン・ポスト(1,719万人)といったメディアがまったく及ばない影響力と言える。

トランプ氏のアカウントを除くフォロワー数のトップ20には、オバマ氏以外の政治家としてはインド首相のナレンドラ・モディ氏(6,479万人)が入っているぐらいだ。

トランプ氏のツイートをデータベース化している「トランプ・ツイッター・アーカイブ」によると、2009年5月4日の最初のツイートから2021年1月8日のアカウント永久停止までのツイート数は5万6,571件。

リツイート、「いいね」とも最も多かったのは、大統領選前の2020年10月2日に夫妻で新型コロナ陽性だったことを明らかにしたツイート(リツイート40万9,000件、「いいね」187万件)だった。

2番目にリツイートが多かったのは2017年7月2日の動画投稿で、顔の部分がCNNの人物にトランプ氏がラリアットを見舞う動画で29万3,000件。次いで前回大統領選の投開票日、2016年11月8日の「今日は米国を再び偉大な国にする日だ!」で28万1,000件だった。

また、自らに批判的なメディアへの攻撃の定番となった「フェイクニュース」と書き込んだツイートは、979回に上った。

現職の米国大統領の権力と、ツイッターのフォロワー数を基盤にした発信力。その両方が相まって、トランプ氏の独特の存在感を支えていた。

そして、大統領の座を降りる前に、その発信力も失うことになったわけだ。

●相次ぐプラットフォームによる抑制

1月6日午後に起きた連邦議会議事堂占拠をめぐる、相次ぐソーシャルメディアの動きは、そのインパクトの大きさを物語る。

同日夜にはフェイスブック、ツイッターとも議事堂占拠をめぐるトランプ氏の声明動画などを非表示にするとともにアカウントの一時停止を表明。

ツイッターは翌7日夜にいったん停止を解除。トランプ氏は政権移行受け入れ表明の動画を投稿していた。そして、翌8日朝に投稿した2本のツイートが、今回の永久停止の引き金となった。

フェイスブックはCEOのマーク・ザッカーバーグ氏が議事堂占拠翌日の7日午前、「利用継続を認めることは、リスクが大きすぎる」とし、停止措置を無期限延長とし、少なくとも就任式完了までは継続する、と表明した。

※参照:FacebookとTwitterが一転、トランプ氏アカウント停止の行方は?(01/08/2021 新聞紙学的

これに続く動きもある。

ツイッター、フェイスブックからのトランプ支持派の移行先となっていた新興ソーシャルメディア「パーラー」のアプリについて、グーグル、アップルの両社が9日、それぞれアプリストアからの削除を表明した。

さらに、アマゾンも11日、同社の規約違反を理由として「パーラー」のウエブホスティングを停止した。これに対して「パーラー」は同日、その撤回を求めてシアトル連邦地裁に提訴している。

●「表現の自由」とプラットフォームの責任

ユタ大学教授のロンネル・アンダーソン・ジョーンズ氏は、ニューヨーク・タイムズのインタビューに、今回のソーシャルメディアの対応が、トランプ氏が主張するような「表現の自由」の問題ではない、と述べている。「表現の自由」が規制するのは政府だけだ、と。

誰かの言論を制限するあらゆる事案を“表現の自由(修正憲法1条)問題”と呼ぶのが流行ってしまっている。明らかにこの種の問題を理解しているはずの人々でさえ。しかし憲法の表現の自由が縛っているのは政府の行いだけで、ソーシャルメディア企業も出版社も政府ではない。実際にこれらの企業は表現の自由のおかげで、望まぬ言論を尊重せよと政府が要求してくることもないわけだ。

ソーシャルメディアには、差別などの人権侵害でない限りは、ユーザー(客)を選ぶ権利がある、ということだ。

だが、「表現の自由」の問題ではなくとも、世界最大の権力者ともいえる現職の米国大統領を抑え込むことができるソーシャルメディアのパワーに懸念を指摘する声は、前述のACLUのケイト・ルーエン氏だけではない。

同じニューヨーク・タイムズの記事の中で、ワシントン大学セントルイス校教授のグレゴリー・P・マガリアン氏もこう述べている。

たとえ嫌悪するような人々であっても、幅広い思想が聞き届けられることを私は望む。そして特にツイッターは、公共の議論に対して懸念を引き起こすほどのパワーを持っている。

ダートマス大学教授のブレンダン・ナイアン氏も、トランプ氏への永久停止は正しい判断だとしても、プラットフォームが行使するパワーには不安を覚えるとし、ツイートでこう述べている。

誰もプラットフォームを利用する権利など持ってはいない。一方、プラットフォームが誰かを追放することはできる。それがフェイスブックなどを、極めてパワフルな存在にしているのだ。しかもそういった判断はしばしば、ソーシャルメディアの幹部たちが行き当たりばったりに下すのだ。

ネットの人権擁護団体、電子フロンティア財団(EFF)はフェイスブック、ツイッターによるアカウントの一時停止をうけた7日に出した声明で、ツイッターやフェイスブックなどのトランプ氏のアカウント停止の判断は、表現の自由や、善意による有害コンテンツ削除への免責を定めた通信品位法230条に基づく、コンテンツ管理権限の正当な行使だと指摘。その一方で、このように述べている。

プラットフォームが監視の役割を担うことについては、常に懸念がつきまとう。そのため、我々はそのような判断をする場合には、「人権フレームワーク」を適用するように主張し続けている。

そしてEFFは、ACLUのルーエン氏と同様、すでに強力な権限を持つ政府関係者などと、一般ユーザーとのダブルスタンダードを行わないよう求めている。

EFFがここで述べている「人権フレームワーク」とは、EFFやACLU財団、民主主義とテクノロジーセンター(CDT)などが共同で2018年に「サンタクララ原則」として公開した、コンテンツ管理についての提言だ。

この中では、コンテンツ管理の透明性と説明責任について、3つの原則を掲げている。

1つはコンテンツ削除やアカウント停止のデータの公開。2つ目は、これらの措置の理由についてのユーザーへの具体的な告知。そして3つ目が、削除や停止に対しての、ユーザー側からの異議申し立ての手立てを設けること。

この3つの原則を盛り込むことで、ソーシャルメディアの行き過ぎや誤った判断への対策の第一歩としたい、という趣旨だ。

●プラットフォームは判断を誤る

プラットフォームはコンテンツ管理の判断を誤る。だからこそ、透明性や説明責任が必要になる。

フェイスブックは2016年、ベトナム戦争時にナパーム弾の爆撃から逃げ惑う裸の少女を捉えたピュリツァー賞受賞の報道写真「ナパーム弾の少女」の投稿を、「全裸」を理由に削除。この写真を投稿し、削除に抗議をしたノルウェーの作家のアカウントを停止にしたほか、このことを報じた新聞「アフテンポステン」や同国首相、アーナ・ソールバルグ氏の投稿まで削除する騒ぎとなった。

※参照:フェイスブックがベトナム戦争の報道写真”ナパーム弾の少女”を次々削除…そして批判受け撤回(09/10/2016 新聞紙学的

そのような体験は筆者自身にもある。

2019年、AIリスクをテーマとした座談会の記事を紹介したフェイスブックの投稿が、「コミュニティ規定違反」を理由に、非表示にされるという出来事があった。

※参照:「AIリスク」の指摘は「規定違反」?フェイスブックが投稿を非表示した理由は(05/08/2019 新聞紙学的

1年半ぶりに同じ投稿を確認したところ、今度はこんなメッセージとともに、筆者本人にも閲覧ができない状態になっていた。

Facebookより
Facebookより

このコンテンツは現在ご利用いただけません

所有者がシェア先を一部の人のみに限定しているか、プライバシー設定が変更されたか、コンテンツが削除された、などの理由が考えられます。

もちろん閲覧制限や削除などを、筆者自身が行ったことはない。やったとすれば、フェイスブックだ。

プラットフォームが判断を誤る、という点は、十分に考慮に入れておく必要はあるだろう。

(※2021年1月12日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)

桜美林大学教授 ジャーナリスト

桜美林大学リベラルアーツ学群教授、ジャーナリスト。早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPTvs.人類』(6/20、文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

平和博の最近の記事