食の街に大本命。「鳥かど」出身の大将が軍鶏1本で挑む新境地【髙はし/東京】
今回、冒険するのは東京・日本橋の「髙はし」。2022年10月にオープンするや否や、舌の肥えたグルメをうならせている。店主の髙橋さんは「鳥しき」の姉妹店「鳥かど」で焼き場を託されていた実力派。とはいっても古巣とは異なる道を歩んでいる。独立の準備中に惚れ込んだという地鶏・丹沢滋黒軍鶏で魅せる焼鳥だ。
焼き上がる音、立ち上る煙……
日本橋高島屋の裏手。ひっそりと佇むビルの2階に10席だけのカウンター。その奥ではもうもうと煙が上がっていた。そう、これだ、これこれ。最近の高級焼鳥は煙が立たず手元も見えない焼き台を使う店が多いけど、焼鳥は煙だってごちそう。できることなら、ずっと眺めていたいくらいだ。
「髙はし」の料理は焼鳥を軸としたおまかせコース1本のみ。まずは鶏肉で鶏肉を包むという個性的な前菜・バロティーヌとレバパテを肴に乾杯だ。昨年のオープン当初はむね肉のたたきが前菜に出されていたけど、このバロティーヌの方が断然、印象深い。ビールでもワインでも、どの酒もしっかり受け止めてくれる。
扱う鶏は神奈川県の地鶏・丹沢滋黒軍鶏。期待の1本目は抱き身(むね肉)だ。皮はバリッと、それでいて肉はしっとりとパサつきなく。いやぁ、文句のない最高の仕上がり。この1本を食べただけで、続く串にも胸が躍るというもの。深く色づいた砂肝も生命力溢れる味わい。噛めばザシッ! と音が弾け飛ぶようだ。
地鶏の濃さを生かした〝かしわ〟
そして、かしわ。これがうまいのなんの! 軍鶏の肉は脂がそれほどのっていないものの、その分、肉に濃いうまみがぐっと詰まっている。聞けば「週替りで丹沢滋黒軍鶏の雄と雌鶏が入ってくるんです。今日は雄鶏ですね」と髙橋さん。
噛んだ瞬間に伝わる雄鶏のもも肉の濃いうまみ。弾力も雌取りとはまったく違う。まるで上質なアンガス牛でも食べているかのような深いコクに、もうノックアウト。扱いの難しい雄鶏もきっちり仕上げてくるあたり、髙橋さん、流石としか言いようがない。
さらに、肉厚なぼんじりは開いて外はカリッと香ばしく焼き上げて。雄鶏ならではのムチィッと爆ぜるような弾力。かしわに続いて出されたものだから、序盤だというのにもうクライマックス気分。これはシビれるなぁ。
ささみ(わさび)とハツ(生姜)
脂をリセットするように、ささみのさび焼き。これがまた絶妙なタイミング。昔はさび焼きから始まる焼鳥屋が多かったけど、こと地鶏を扱う店においてはその限りじゃない。むしろ、コースに緩急を付けるネタとして重宝。
一方のハツは爽やかに生姜を添えて。お。わさびから生姜の流れ。コースも折り返し地点といったところだ。口はさっぱりとする一方で、食欲は増すばかり。そうさ、この夜はまだまだ終わらない。
地鶏の白子はとろり、とろけて
ここで、白子焼き。白子というとフグや真だらを連想しがちだけど、いやいや、地鶏も負けていない。魚介の白子に比べれば膜が張ってたり独特の風味をもっているものの、炭火で焼けばふっくら、とろり溶けるように仕上がるんだ。
これも、雄鶏ならではのお楽しみといったところ。たっぷりの香味野菜をのせて、いっそう香り高く。あぁ、困った。また酒が進んでしまう……。
〆の親子丼は白身もうまい
なんだかんだ20品近く食べてもう満腹。はち切れそうな腹をさすりながら「親子丼は別腹」と言い聞かせる。「髙はし」の親子丼はかつお出汁も効かせた王道の1杯だ。
何がニクいかといえば「白身」の生かし方。親子丼は黄身と白身を完全に混ぜ合わせない方がうまい(と思っている)。味わいにコントラストがつき、何口目も飽きがこないわけだ。丹沢滋黒軍鶏の焼鳥を堪能して、親子丼で締める……。この満足感といったらない。
「髙はし」という焼鳥を確立
群雄割拠する東京焼鳥シーン。毎月のように新店が生まれている。そうしたなかで頭一つ抜けるような焼鳥屋を育んでいくのは至難の業だと思う。髙橋さんも古巣「鳥かど」と同じく伊達鶏のおまかせストップの人気店を作ることもできただろうけど、それは選ばなかった。
「最初は地鶏と銘柄鶏でバランスを取っていましたが、目指している味を追い求めたら丹沢滋黒軍鶏1本になりました」
髙橋さんは自分だけの焼鳥を創り上げたかったんじゃないかと思う。実際、昨年のオープンからたった半年足らずで「髙はし」の味を確立させている。これは参った。まだまだ、うまくなりそうだ。