なでしこジャパンがフィンランドに圧勝。トライアンドエラーでチームの土台を固めた欧州2連戦の成果
鮮やかなゴールラッシュに、スタジアムは静まり返った。
なでしこジャパンは27日、フィンランド女子代表と対戦し、5-1で快勝した。5-0で勝った24日のセルビア戦に続き、ヨーロッパ遠征を2連勝で終えた。
フィンランドは、FIFAランキング29位(日本は13位)。来月に欧州女子選手権を控えており、日本との戦いを最終調整の場と位置付けていた。そのモチベーションの高さは、試合中の監督や選手たちの表情や球際の迫力からも見て取れた。
日本はセルビア戦から6人スタメンを入れ替えてこの試合に臨んだが、難しい立ち上がりとなった。30度を超える暑さや、アウェーの独特の雰囲気も影響したかもしれない。
その中で、今回の遠征では初先発のMF遠藤純が輝きを見せる。前半13分、左サイドで相手DFに1対1を仕掛けると、左足のクロスが相手のオウンゴールを誘って先制に成功した。
しかし、その後は高い位置からのプレッシングがはまらず、逆に裏のスペースを狙われる嫌な流れが続いた。18分、カウンターからMFエングマンに突破を許し、試合は振り出しに。その後もセットプレーからピンチを迎えるなど落ち着かない展開のまま、1-1で前半を折り返した。
「サイドで幅を使って攻撃の起点を作ろう、と(ミーティングで)強調してゲームに入りました。ただ、そちらに針がふれてしまい、両ワイドが開きっぱなしになっていたり、サイドバックと中盤が両方とも開いたりしていました。(自分の指示に対して)みんなが意識を高く持ってやってくれたのですが、距離感が遠くなって前線が孤立するなど、我々の強みである(選手同士の)関わりが持てませんでした」(池田太監督)
後半開始から、池田監督はFW植木理子、MF長谷川唯、MF猶本光の3名をピッチに送り出す。すると、攻守の歯車が噛み合うようになり、流れを引き寄せた。
47分、右サイドでDF清水梨紗と長谷川、MF宮澤ひなたのホットラインが威力を見せる。清水のクロスに左サイドから走り込んだ遠藤が右足で決めた。さらに、58分には遠藤のコーナーキックを植木が得意のヘディングで合わせたボールをDF高橋はなが押し込んで3-1。高橋は「自分が(ボールに)触らなくても入っていたので、植木選手のおかげです」と振り返ったが、これが嬉しい代表初ゴールとなった。
74分には、セットプレーの流れから宮澤が放ったクロスを相手がクリアミス。ファーサイドでそのボールを植木が胸トラップし、豪快なボレーで4点目。試合終了間際には、植木のパスを受けた長谷川がエリア内で仕掛けて倒され、PKを獲得。GKの逆をつく完璧なキックでゴールラッシュを締めくくった。
【明確なテーマで臨んだ攻守の成果】
守備のスイッチが入った後半は、攻撃面でもさまざまなパターンのフィニッシュを見せた。個人に目を向けると、この試合で3点ずつに絡んだのが、遠藤と植木だ。
遠藤は今季、アメリカのエンジェル・シティFCで左サイドを主戦場として活躍している。自身のプレーの変化について、「1対1の局面で仕掛ける回数が増えた」ことや、「積極的に足を振ってシュートを打つようになった」ことなどを挙げていたが、この試合ではその進化の一端を見ることができた。
植木は、アジアカップから5試合連続6得点と記録を更新。セルビア戦に続き、抜群の存在感を示した。中でも光ったのがヘディングの巧さだ。身長は162cmで、海外選手とマッチアップすると小柄に見える。だが、ボールの落下地点をいち早く見極め、駆け引きから鋭い動き出しで先手を取ることができる。ヘディングの得点力はWEリーグでも証明済だが、アジア勢だけでなく、ヨーロッパ勢からも点を取ったのは頼もしい。「交代する選手はたくさんいると思うので、いい意味でペース配分しないで常に全力を出したい」と、全力の守備もチームを助けた。
セルビア戦とフィンランド戦の2試合で10ゴール1失点。無得点に終わった昨年11月のヨーロッパ遠征から、コンビネーションの積み上げを示したなでしこジャパン。テーマを細部まで突き詰めて今回の遠征に臨み、さまざまな収穫と課題を手にしたようだ。
2試合を通じてトライしたのは、「前から奪いに行った時の成功体験の引き出しを増やす」(池田監督)こと。セルビア戦では、その守備が90分間を通じて機能していた。
欧米は、4-3-3や4-1-4-1のシステムを使う国も多い。日本の基本フォーメーションは4-4-2。中盤のミスマッチから、W杯や五輪では主導権を握られてしまうことがあった。今回、4-3-3のセルビアに対してはボランチを一列上げる形で対応し、最後まで前からの守備が安定。センターバックのDF南萌華は、練習からトライアンドエラーを積み重ねて臨んだことを明かしている。
「ボランチをアンカーのところに(押し)出すことで、センターバックとボランチのスペースを空けるリスクがある(ことを理解した)中でトライしています。練習の紅白戦でもそのスペースを使われる場面がありましたが、そこをしっかりと修正して試合に臨めたことで、(熊谷)紗希さんのところでセカンドボールを取れるシーンがありました。90分間、声をかけながら集中してやっています」
一方、フィンランド戦は前述したように、前半は攻撃の狙いがうまくはまらず。チャレンジとリスクは常に隣り合わせだが、エラーを早い段階で修正できるようになれば理想的だ。
得点パターンはクロスに合わせる形が多く、取り組んできた成果が結実。メンバーが変わっても同じようにチャンスが作れるのは、クロッサーと受け手のポジショニングなど、共通認識が浸透しているからだろう。先に点を取れれば2点、3点とゴールを重ねられる「勢い」も、このチームの強みではないだろうか。
ただW杯で対戦する強豪国に対してどれぐらい戦えるのか、現在地を確認する上でも、ランキング上位国とのマッチメイクに引き続き期待したい。
【次の大会は東アジア・E-1選手権】
2試合の起用から考えると、GKは山下杏也加、最終ラインはDF熊谷紗希とDF南萌華、DF清水梨紗が軸。一方、左サイドバックは先発が流動的だ。今回はDF宮川麻都、DF三宅史織、DF宝田沙織の3選手が起用されたが、左サイドハーフの顔ぶれによってもコンビネーションの最適解は変わるため、今後も組み合わせは模索していく形になるのだろう。
ボランチは、池田監督体制下ではほとんどの試合で先発してきた長野のゲームコントロールが安定している。相手がアジア勢でもヨーロッパ勢でも、試合の中で相手との間合いをすぐに調整できるのは魅力だ。サイドは激戦区だが、長谷川と宮澤を中心に、MF杉田妃和や遠藤らがチャンスを得ている。前線はここまで、結果という面では植木が頭ひとつ抜けている。
土台が安定してきた中で、今後は、相手の力量や状況に応じた戦い方の引き出しを増やしていくことも、池田監督は示唆している。
7月下旬には、東アジア・E-1選手権に臨む。日本は19日に韓国、23日にチャイニーズタイペイ、26日には、アジアカップ優勝の中国と戦う。インターナショナルマッチデーに開催される大会ではないため、国内組が中心となることが濃厚。ただし、所属クラブとの交渉次第で海外組も招集できる可能性があるという。
熊谷は、「代表チームとして活動できる時間が限られているので、個々がそれぞれのチームでやれることを増やして、また、代表に戻ってきたいと思います」と、個々の成長を誓った。
WEリーグの各チームは7月上旬に始動する。代表選手たちがしのぎを削る新シーズンのWEリーグにも注目したい。