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日本サッカー界はいま、いい意味で混沌としている

杉山茂樹スポーツライター

2試合で27人。フィールドプレイヤーは招集した25人全員を使った。「これはとてもリスキーなことだった」とはハリルホジッチの言葉だが、一方で彼は、「これが私のやり方だ」とも述べている。

何が何でも勝利を欲しがっていないところに好感が持てる。勝利は、自らの立場を安泰にする意味がある。親善試合で、監督が必要以上に勝ちを求めようとする姿は保身。点数稼ぎそのものと言えるが、日本はこれまでファンもメディアも、親善試合の勝利でさえ頓着(とんちゃく)なく喜んだ。「勝てば官軍」とばかり、結果にこだわろうとした。ペース配分を忘れ、結果至上主義に走ろうとした。その結果、ワールドカップ本番の足音が聞こえると、決まって失速。4年間をうまく使ったためしがなかったが、ハリルホジッチはそこに最大限、気を配ろうとしている。

それは、選手選考にもフェアな印象を抱かせる。出る人、出ない人がハッキリしないサッカー。日本サッカー界は今、いい意味で混沌としている。選考レースで誰が勝つか分からない状況にある。

初戦のチュニジア戦は、後半から投入した従来の中心選手である本田圭佑、香川真司、岡崎慎司の活躍が光った試合だった。彼ら3人の存在価値を改めて再認識させられたが、その思いは、わずか4日で一変することになった。

ウズベキスタン戦に3人は、そろって先発で出場した。チュニジア戦同様の活躍が期待された。しかし、そのうちの2人、すなわち本田と香川の出来は、率直に言ってイマイチだった。本田は、ブラジルW杯当時に逆戻りしたかのような元気のないプレイに終始。香川も、巨大迷路に紛れ込んでしまったような、見る側をイライラさせる非頭脳的なプレイに終始した。

両選手は日本の看板選手ながら、ともに所属クラブでは厳しい立場に置かれている。しかもミラン、ドルトムントのレベルは決して高くない。海外組の活躍は、日本サッカー界の成長を語る時、欠かせないモノになっているが、本田・香川の現在の姿は、それが頭打ちの状態にあることを示したものに見える。

マックス値はむしろ、中田英寿(ローマ)、小野伸二(フェイエノールト)、中村俊輔(セルティック)らがプレイしていた時代のほうが高かった。日本サッカー発展のためには、本田、香川を超す日本人選手の出現が急がれている。ウズベキスタン戦の両者のプレイを見ると、なおさらそう思う。

それこそが、これから3年数カ月間の一番の焦点になると思う。ワールドカップでそれなりの成績を収めようとすれば、ある程度優れた選手が必要になる。ハリルホジッチがどんなに冴えた監督でも、その采配の力には限界がある。

ポスト本田、ポスト香川――。そうした目で日本代表を眺めた時、気になる存在に見えるのが、チュニジア戦で代表デビューを飾った宇佐美貴史だ。後半27分に交代出場した彼は、ポストに当てる惜しいシュートを1本放っていた。その他のプレイもまずまず。次を期待したくなる出来だったが、この親善試合2戦には招集した選手を全員使う狙いがあったため、彼がウズベキスタン戦でピッチに立つ可能性は低そうなムードだった。

しかし、そうしたこちらの予想は外れた。登場したのは後半18分。その9分前に岡崎がマークしたゴールで、スコアは2−0。しかしながら、ウズベキスタンがじわじわと地力を発揮し、反撃ムードをみなぎらせていた時でもあった。ウズベキスタンがここでゴールを奪えば、試合は予断を許さない状況にあった。まさに試合のキーポイントで、宇佐美は投入された。この日、6度行なわれた交代の中で、最も試合の流れに即した、勝負を意識した交代だった。

その宇佐美に代表初ゴールが生まれたのは、後半38分。ウズベキスタンにゴールを許した1分後だった。ドリブルで真ん中を強引に、周囲を敵に囲まれながらも割って出て、右斜め45度からGKの逆を突いた一撃。見映えのいい鮮やかなゴールだった。

試合後の会見で、「5ゴールの中で、どのゴールが最もスペクタクルだったか?」と問われたハリルホジッチは、青山敏弘の先制弾と、柴崎岳の3点目を挙げたが、本心はどうだっただろうか。少なくとも、ポスト本田、ポスト香川の目で試合を眺めていたこちらには、宇佐美が挙げたゴールのほうが勝っているように見えた。

ハリルホジッチの本心は、次戦を見れば分かるだろう。宇佐美がそこでどんな使われ方をするか。先発を飾るのか、否か――。

宇佐美だけではない。再度招集されるのは誰か。次戦への興味は膨らむばかりだ。今回、25人選ばれたフィールドプレイヤーは、自動的に5人減ることになる。外れるのは誰か。残るのは誰か。試合後の会見でハリルホジッチは、「さらに何人か気になる選手がいる」と述べている。ハリルホジッチのことなので、彼らはメンバー入りするだろう。となれば、落とされる人数はさらに増える。

これまで、新監督が就任すれば、我々は真っ先にそのサッカーの中身について言及しようとした。戦術、サッカーゲームの戦い方の傾向について、ああだこうだと語ろうとした。だが、今回はそうした感じではない。選手をたくさん使おうとする監督の姿勢に、何より目を奪われる。

「奪ったら早く」とか、「ボールをアグレッシブに前に運べ」とか、日本の欠点をビシッと鋭く突く姿にも納得させられるが、それ以上に、新しい選手を多く使うことで生まれる活気にワクワクさせられる。テストにエンタメ性を見いだすことが出来る。

さらに言えば、記者会見で発せられるパンチの効いた言葉の数々にも好印象を抱かせる。自信の程がうかがい知れるのだ。難問山積の日本サッカー界に、彼はどれほど切り込んでいけるか。動かぬ石は動くのか。楽観的にはなれないけれど、興味深さはこれまでにないほど覚える。過去の代表監督の中で一番。思わずそう言いたくなってしまうハリルホジッチなのだ。

(集英社。Web Sportiva 4月1日 掲載原稿)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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