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「闇バイト」の言葉を使い、裏で広めたのは犯罪グループ その注意喚起が、犯罪グループを追い込んでいる

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:イメージマート)

詐欺だけでなく、強盗をする者たちを集めるためにも、SNS上で闇バイトの募集がなされています。

警察やマスコミが「闇バイト」という言葉を使うことへの批判をこのところ目にしますが、まったく的外れな指摘といえます。

それは詐欺などの犯罪の歴史を知らないためにでてくる誤解です。この言葉で注意喚起しないことは、逆に、裏の世界で広がっている犯罪を助長することにつながってしまいます。

「闇バイト」は、警察やマスコミが名付けたものではない

そもそも「闇バイト」という言葉は「振り込め詐欺」「特殊詐欺」「トクリュウ」といった警察が名付けた言葉ではないからです。10数年にわたって、闇バイトの募集の手口についての実態を調査してきていますが、「闇バイト」の言葉を使い始めたのは、犯罪グループの側です。

最初に犯罪未経験の募集を始めたのは「闇バイト」「裏バイト」という掲示板でした。

そこには、現在の「受け子」や「出し子」といった情報だけでなく、偽装結婚の斡旋や、銀行口座、携帯電話の売買などを持ち掛けるものまで、様々な犯罪に加担するものが書き込まれていました。

今では考えられませんが、犯人に直接つながる携帯の電話番号やメールアドレスも記載されていました。そこでテレビ番組などを通じて、犯罪グループ側に直接調査電話をかけて、その実態を暴き、絶対にそうした誘いの言葉に乗らないように注意喚起を行ってきました。時に海外の詐欺グループにつながることもあり、その場所(中国国内)も聞き出して放送した後、警察により、その場所から詐欺の電話をかけていた者たちが帰国して逮捕されたこともあります。

時とともに「闇バイト」という言葉が、裏の世界で残る

つまり「闇バイト」という、犯罪行為であることをあからさまに伝えないで募集するやり方は、犯罪者側が生み出してきたものです。時が経つにつれて「裏バイト」より「闇バイト」という言葉が使われるようになります。そしてSNSの普及により、掲示板ではなく犯罪行為に加担する募集の書き込みがSNSで行われるようになります。

近年になって、ようやく警察もSNS上の「闇バイト」の言葉が載る書き込みに対しての削除要請を迅速に行うようになり、「闇バイト」への対策も徹底されてきたわけです。

2018年頃から特殊詐欺グループによる詐欺だけでなく、手法を変えた「アポ電強盗」が出てきました。「アポ電強盗」とは、事前に資産状況を電話などで把握して、指南役の指示により複数の実行犯らが家に押し入る強盗のことで、2019年には高齢者が縛られて亡くなるという痛ましい事件も起きています。これらの実行犯の募集も、闇バイトによるものです。当時は、100万円の高額報酬での闇バイトに誘う書き込みもみられました。

ですので、警察やマスコミを通じて「闇バイト」という言葉を多くの人に伝えてもらい、多くの人が安易に応募させないために、犯罪者側で使われているこの言葉を広く知らせる必要があったわけです。もしこの「闇バイト」の言葉を使わずに、誰かが名付けた言葉で注意喚起をしたとしたら、ほとんど効果のないものとなったと思います。

注意喚起のアップデートが必要な時代に入ってきた

しかしここにきて「闇バイト」という言葉自体を犯罪者側が使わない傾向もみえてきています。それは、あまりにこの言葉への注意がなされたために「闇バイト」に手を染めないように注意する人たちが増えてきたからです。それは犯罪者側にとっては、現在進行形の詐欺や強盗などの人手を集めることができなくなる、非常に困った事態といえます。

もちろん、今も「闇バイト」という言葉自体を犯罪グループは使っていますが、一部での募集では、あからさまな高額な報酬を提示せずに「闇バイト」だと気づかせず、「ホワイト案件」などと偽るケースをよく目にするようになりました。強盗の実行犯のなかにも「荷物を運ぶ仕事」や「ホワイト案件」などという書き込みをきっかけに誘われたというケースも出てきています。

犯罪行為ではないと思わせて募集するケースも出てきていることを考えれば、ただ「闇バイトに注意」を叫ぶだけでない、新たな形の注意喚起の必要性は出てきています。

いずれにしても「闇バイトをしない、させない」といった官民による注意は間違いなく、多くの人たちへの警戒心を喚起させて、犯罪行為の募集を撲滅する一助となっている。これは紛れもない事実です。

ただし犯罪者は対策の裏をついてくるものです。今後は「闇バイト」への注意だけでなく、犯罪行為ではない「グレーな仕事」と思わせての募集をすることへの新たな注意喚起や対策が必要になってきます。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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