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ドイツの輸出大ヒット商品「クリスマスマーケット」 人気の秘密を探る現地レポート

シュピッツナーゲル典子在独ジャーナリスト
ヴィースバーデンのクリスマスマーケット (c)Axel Unbehend

 日本でもここ10年ほどですっかり定着したクリスマスマーケット。フランクフルト国際観光会議社(Frankfurter Tourismus und Congress GmbH)は、同マーケットを世界市場へ売り込み大成功を収めている。輸出王国ドイツの大ヒットとなったこの商品の人気の秘密を探った。

クリスマスマーケット大ヒットの理由

エクスペディア・ドイツによると、伝統イベント「クリスマスマーケット」が世界的に人気を博す理由は13のポイントだという。さて、いくつご存知だろうか。

1.クリスマスツリー

2.ツリー用デコレーション

3.アドベントカレンダー(キリストの降誕を待ち望む12月1日から24日までのカレンダー)

4.クリスマスマーケット

5.グリューヴァイン(ホットワイン) 

6.レーブクーヘン

7.シュトレン

8.ソーセージ・ヴルスト

9.クリスマスソング

10.クルミ割り人形とクリスマス・ピラミッド

11.クリストキンド (幼いイエスやエンジェルを含む表現)

12.ニコラウスチョコ

13.クリスマスプレッツヒェン(クッキー)

ニュルンベルクのレープクーヘン・筆者撮影
ニュルンベルクのレープクーヘン・筆者撮影

 少し前の統計だが、2013年の調査によれば、ドイツで開催される伝統的なクリスマスマーケットは1450もあるそうだ。

 クリスマスマーケットの年間訪問客数は、8500万人。1回の訪問で一人当たりの支出は11.50ユーロ(約1500円)。ドイツ人は足繁くクリスマスマーケットに通うので、最終的には個人の支出がこの数倍になる。全体の収益は、10憶5000万ユーロ以上(1400億円)だという。

 ドイツでこれだけ経済効果のあるクリスマスマーケットは、輸出された各国でもそのオリジナル性と集客の成果をあげる商品として、人気を集めているのだろう。

いくつあってもまた買いたくなってしまうクルミ割り人形やクリスマス・ピラミッド・筆者撮影
いくつあってもまた買いたくなってしまうクルミ割り人形やクリスマス・ピラミッド・筆者撮影

 ドイツのクリスマスマーケットは、商品販売の場として中世後期から始まったようだ。そして現在の形式となったのは20世紀中ごろからでそのほとんどが屋外で繰り広げられている。

 欧州のクリスマスは、元はといえばイエス・キリストの生誕を祝うものだ。キリストの到来という意味のアドベント(待降節)は、キリストの降誕を待ち望む期間のことを指し、4週間ほど継続する。この期間には4つの日曜日が含まれる。 

 クリスマスマーケットは、このアドベントにあわせて開催される。だが、多くの国では、歴史的背景より消費戦線に押されてプレゼント交換が話題の中心となり、サンタクロースに注目が集まるようになった。

 ドイツでは毎年10月の最終日曜日から冬時間に突入する。日が短くなり4時ころから暗くなる。長い夜、そして灰色で寒い冬が延々と続くなかで、暗いイメージの街にクリスマスマーケットのきらびやかな明かりを見つけると、大人も子供も心が躍り、うきうきする。

 石畳の道を歩き疲れてすっかり冷たくなった手足を温めるホットワインのおいしさ、そしてスパイスの香り。肉やソーセージをグリルした匂いがキーンと張り詰めた寒気と一緒に漂って鼻をくすぐる。そんな時飲食する一品は屋内のそれとはやはりひと味違う。

ドイツのバウムクーヘンは、クリスマスや慶事といった特別なときに食べる焼き菓子だ・筆者撮影
ドイツのバウムクーヘンは、クリスマスや慶事といった特別なときに食べる焼き菓子だ・筆者撮影

 ドイツでは8月からクリスマス用スイーツの準備開始、9月にはスーパーの店頭がじわじわとクリスマスモード一色となる。2017年のクリスマスマーケットは11月下旬から12月23日ごろまで。

 ここで本場ドイツの雰囲気を知っていただくために、クリスマスマーケットをいくつか紹介したい。

オーデンの森ミッシェルシュタット・ケーキ世界チャンピオンの焼くプレッツヒェン

ミッシェルシュタット市長舎前のかわいい天使たち・この前でチーズと言って写真を撮る人が後を絶たなかった 筆者撮影
ミッシェルシュタット市長舎前のかわいい天使たち・この前でチーズと言って写真を撮る人が後を絶たなかった 筆者撮影

 

 ミッシェルシュタットと言っても、多くの人は一体どこにあるのか想像できないだろう。この街はヘッセン州フランクフルトから南東約80キロにあり、電車でおよそ1時間ほどのオーデンの森の中にある。人口約1万7千人のメルヘンに出てくるようなかわいい木組みが目立つ小さな街だ。

 オーデンの森はドイツ南西部のヘッセン州、バイエルン州、バーデン・ヴュルテンベルク州にまたがる標高300mから600m程の山が連なる低中山地。大自然に囲まれた森の中に小さな街が点在する。そのため、アクセスしにくいスポットもあるが、おとぎの国に舞い込んだような小さな街がいくつもある。夏はサイクリングやハイキングに、そして冬はクリスマーケットが絶大な人気を誇る地だ。

 その一つがミッシェルシュタットだ。今年のクリスマスマーケットは、12月1日から23日まで。100以上のスタンドが立つ。

5人の聖歌隊と1484年築の市庁舎・筆者撮影
5人の聖歌隊と1484年築の市庁舎・筆者撮影

 ミッシェルシュタットのハイライトといえば、木組みの家並みとケーキの世界チャンピオンが経営する店コーヒー・サイフェルト。

出来立てケーキを手にするベルントさん・ケーキの名前を聞くのを忘れた!・筆者撮影
出来立てケーキを手にするベルントさん・ケーキの名前を聞くのを忘れた!・筆者撮影

 この街でコーヒー店を営業するケーキマイスター世界チャンピオンのベルント・ザイフェルト氏にお話を伺った。

 ベルントさんは、1997年、2015年にケーキ部門で世界チャンピオンに輝いた国内外スイーツ業界の著名人。毎週木曜日の午後ヘッセンテレビ放送の番組でスイーツを担当する人気者だ。

 ベルントさんの店カフェ・ザイフェルトは、ミッシェルシュタットの市庁舎から歩いてすぐ、ブラウン通り17番地の木組みの家だ。店内は思ったより小さいが、多種多様のスイーツがところ狭しと並ぶ。

 店主手作りのケーキやプレッツヒェンはイタリアやスペインから直輸入した高級ナッツやフルーツを使った品質も味も個性豊かな品々だ。

店内で買ってコーヒーを飲みながら食するベルントさんお手製のプレッツヒェンはいくつあってもすぐなくなる・筆者撮影
店内で買ってコーヒーを飲みながら食するベルントさんお手製のプレッツヒェンはいくつあってもすぐなくなる・筆者撮影

 「9月上旬から準備にかかり、下旬から順々につくり始めます。プレッツヒェンは25種類ほど焼きます。この時期ならではのシュトレンやバウムクーヘンも人気商品です」

 品質管理の行き届く範囲で、というこだわりからベルントさんの店舗はミッシェルシュタット1店のみ。クリスマスシーズンになると、地元のほか、隣町エバーバッハ、ウィースバーデンのマルクトのスタンドでも当店のスイーツを販売しているという。

 ベルントさんの趣味は地元コーラス部で歌うこと。ギターも弾くそうだ。毎年クリスマスにはコーラス部の一員として、仲間と一緒にクリスマスソングを歌うという。もしかしたら、街のどこかでベルントさんの歌声を聞くことが出来るかもしれない。

ワインの街リューデスハイムでホットワイン

アルコールが苦手なら、ジュースを用いたホットワイン風のあたたかいジュースをどうぞ・筆者撮影
アルコールが苦手なら、ジュースを用いたホットワイン風のあたたかいジュースをどうぞ・筆者撮影

 リューデスハイムといえば、ワインの産地としてご存知の方も多いだろう。フランクフルト中央駅から電車に乗ることおおよそ1時間10分で到着する。

 この街を含む「ラインガウ」一帯は、白リースリングの醸造が盛んな地域。ユネスコ世界遺産のライン渓谷中流上部に位置する。

ラッシュアワーのような人ごみのつぐみ横丁にて・筆者撮影
ラッシュアワーのような人ごみのつぐみ横丁にて・筆者撮影

 そしてリューデスハイムといえば、つぐみ横丁。わずか145メートルほどのこの通りは飲み倒れ横丁とも呼ばれるほど、小さなワイン酒場が軒を連ねる必見のスポット。

 人口1万人にも満たない小さな街に年間3百万人もの観光客が訪れるそう。クリスマスシーズンのつぐみ横丁も人が多くて歩けないほど混雑する。今年のクリスマスマーケットは、11月23日から12月23日まで開かれる。

 1944年の空爆で、つぐみ横丁はそのほとんどが破壊されたが、50年代に現在あるワインバーやレストラン、お土産店が再建され今に至る。

 クリスマスマーケットにはお馴染みのスイーツやソーセージ、手編みの手袋や帽子など、15カ国からのお土産や商品を販売するスタンドがところ狭しとたつ。

 ホットワインを飲みながら、マーケットを回ると時間がたつのも忘れるほど。

高級保養地ウィースバーデン カジノのクリスマスツリー

カジノ内のクリスマスツリーに圧倒された・筆者撮影
カジノ内のクリスマスツリーに圧倒された・筆者撮影

 ヘッセン州の州都ヴィースバーデンは、古代から温泉地として知られており、文豪や音楽家の愛した高級温泉保養地。ブラームスはこの街で第三交響曲を完成させ、ワグナーは楽劇「ニュルンベルクのマイスターシンガー」の作曲に勤しんだ。

 また、ロシアの文豪ドストエフスキーもこの街に長期間逗留し、カジノでルーレットに夢中になり大敗した苦い経験をした。

 その時の体験を元にして、彼はロマン長編小説「賭博者」を書き上げた。

 カジノに足を踏み入れると、大きなクリスマスツリーが入場客を迎え入れる。クリスマスツリーのデコレーションはごくシンプルだが、カジノという独特な雰囲気に設置されているからだろうか、とてつもなく優雅で豪華に見えた。

 今年のクリスマスマーケット11月28日から12月23日まで開催される。シュロス広場、市庁舎、マルクト教会などにマーケットは分散しており、オリジナリティ溢れるデコレーションやクリスマス用料理なども数多い。

 クリスマスマーケットの雰囲気を盛り上げてくれるコーラスやキリスト降誕劇、コンサートなどプログラムが充実している。もうひとつの目玉は、ヴァルマーダムに設置されたアイススケートリンクだ。ちなみにヴァルマーダムはカジノから南へ歩いて10分ほどの州立劇場前に広がる公園一帯の名前である。

ヴァルマーダムでスケートを楽しむ人たち (c)Paul Mueller
ヴァルマーダムでスケートを楽しむ人たち (c)Paul Mueller
カジノは裕福なセレブの集まる場所 正面玄関前のクリスマスツリーは一般人でも楽しめる(c)Wiesbaden Marketing GmbH
カジノは裕福なセレブの集まる場所 正面玄関前のクリスマスツリーは一般人でも楽しめる(c)Wiesbaden Marketing GmbH

古城が見守る街ハイデルベルクのピラミッド

ライトアップされた古城前にて 日中とはまた違った趣ある風景だ 筆者撮影
ライトアップされた古城前にて 日中とはまた違った趣ある風景だ 筆者撮影

  

ホットワインのカップもお土産に人気だそう 筆者撮影
ホットワインのカップもお土産に人気だそう 筆者撮影

 古城をひと目みたいと世界中の観光客が目指すこの街は、筆者の自宅から近いということもあり、最後に是非紹介したい。

  

 旧市街の中心ハウプト通りにあるクリスマスマーケットは、ビスマルク広場、大学広場、マルクト広場など6地点にある。南北にまたがるこの通りは欧州で一番長い歩行者天国で長さ1.8キロメートルに及ぶ。

 ハウプト通り沿いの屋台は130ほど設置されており、日中も楽しいが、暗くなり始めた魅惑的な雰囲気がたまらなく素敵だ。何とか時間を見つけて、夜の古城へ行くのもいいだろう。城から眺めるライトアップされた街並みはことのほか美しい。

いつ来てもハイデルベルクのクリスマス・ピラミッドは素敵だ 筆者撮影
いつ来てもハイデルベルクのクリスマス・ピラミッドは素敵だ 筆者撮影

   

 なかでもハウプト通りにある聖霊教会横マルクト広場に聳え立つクリスマス・ピラミッドは、ハイデルベルクのハイライトの一つ。ここで販売されているホットワインを買って、ちびちび飲みながら雑談に花を咲かせる人が絶えない。

 ハイデルベルクのクリスマスマーケットは、2017年は11月27日から12月22日まで開催される。

参考記事・ドイツの輸出大ヒット商品「クリスマスマーケット」

在独ジャーナリスト

ビジネス、社会・医療・教育・書籍業界・文化や旅をテーマに欧州の情報を発信中。TV 番組制作や独市場調査のリサーチ・コーディネート、展覧会や都市計画視察の企画及び通訳を手がける。ドイツ文化事典共著(丸善出版)国際ジャーナリスト連盟会員

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