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金融教育を国家戦略に?、それで資産所得倍増など可能なのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:西村尚己/アフロ)

 金融庁が8月末にまとめる2022事務年度の金融行政方針の全容が明らかになった。民間金融機関などが進めてきた金融教育について、「国全体として体制を検討する」と明記し、国家戦略として推進するよう提言する(29日付日本経済新聞)。

 金融庁は若者の投資環境を促すため少額投資非課税制度(NISA)の恒久化を要望しているが、「金融リテラシーの向上」も国民の資産形成に欠かせないと判断した。

 通常、株式や投資信託などの金融商品に投資をした場合、これらを売却して得た利益や受け取った配当に対して約20%の税金がかかる。これに対し、NISAは、NISA口座(非課税口座)内で、毎年一定金額の範囲内で購入したこれらの金融商品から得られる利益が非課税になる、つまり、税金がかからなくなる制度である。イギリスのISA(Individual Savings Account=個人貯蓄口座)をモデルにした日本版ISAとして、NISA(ニーサ・Nippon Individual Savings Account)という愛称がついている(金融庁のサイトより)。

 一般NISAは、株式・投資信託等を年間120万円まで購入でき、最大5年間非課税で保有できる。つみたてNISAは、一定の投資信託を年間40万円まで購入でき、最大20年間非課税で保有できる。ジュニアNISAは、株式・投資信託等を年間80万円まで購入でき、最大5年間非課税で保有できる。

 さらに金融庁は2023年度税制改正要望で、NISAの恒久化と非課税期間の無期限化を求める方針を固めた。

 金融庁が狙う資産所得倍増プランのトップにこのNISAの抜本的拡充が挙げられている。これについてはおおいに結構、是非進めてほしいと思う。しかし、これはあくまできっかけにすぎないものとなる。

 民間金融機関などが進めてきた金融教育について、「国全体として体制を検討する」と明記し、国家戦略として推進するよう提言するともある。

 民間金融機関などが進めてきた金融教育は結果として、営業の一環となりかねない。リスクのある商品に対し、手数料収入を得たいがために、それを勧誘するためのセミナー等も行われている。それは金融教育の一環ではないかもしれないがセミナーという言葉自体、金融教育と捉えかねない。

 このため「中立的立場」で金融教育を推進する体制は必要である。しかし、それを誰がどのように行うというのであろうか。

 金融教育は学習指導要領を改訂し、中学・高校の授業に盛り込まれている。しかし、現実問題、いったいどのような教育が行われているのか。

 金融教育について、その根幹をなすものに「金利」がある。その金利はファンダメンタルズに基づいて形成されるはずだが、いまの日銀が行っているのは、教科書通りのものなのか甚だ怪しい。そもそも金利のつかない世界での金融教育が成り立つのであろうか。

 投資のリスクには価格変動リスク、流動性リスク、信用リスクが存在する。あまたある金融商品のそれぞれのリスクの尺度の説明はかなり困難である。ましてや仕組み債など販売する側のプロでも適切なリスクの把握はできていないはずである。それを個人に販売していること自体、金融教育どころではない。

 投資の世界で安定的に利益を得ることは実はかなり困難である。金融教育の初歩の初歩がこれだと思う。プロが運用しようが、AIが運用しようが、むしろ負けることの方が多い。本当に儲かるプロは10%程度というのが私がこの世界で生きてきての実感である。

 ましてや投資で資産を倍加させるなど、これができるのはほんの一部であろう。むろん全体の株価が倍増すれば、その割合は増加するかもしれない。しかし、株価の右肩上がりがいつまでも続くのかはわからない。現在の米国市場などをみるとリセッション懸念も出るなどしているのではないか。

 私も金融市場の端っこにいるが、日本で果たして適切な金融教育が可能なのか。まして投資で資産を大きくするなどできるのか。それよりも個人が仕組み債を買っては行けない程度の知識が最低減必要になることも確か。ただし、それは資産を増やすためではなく、資産を守るために必要な知識となる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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