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敗戦を糧に逆転で叡王獲得!豊島竜王は羽生九段の挑戦を受ける竜王戦へ

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
記事中の画像作成:筆者

 21日、第5期叡王戦七番勝負第9局が行われ、豊島将之竜王(30)が永瀬拓矢叡王(28)に勝って通算4勝3敗2持将棋(1千日手)とし、叡王を獲得した。

 今期叡王戦は第2局と第3局で連続して「持将棋」で引き分けとなり、第9局までもつれこむ歴史的なシリーズとなった。

 豊島竜王が中盤の折衝でペースをつかむとそのままリードを拡大し、スキのない指しまわしで圧倒した一局だった。

作戦

 本局は先手番の豊島竜王が得意の角換わりを選択。

 第8局に続き、豊島竜王は序盤の駒組みから主導権を握るべく積極的な指しまわしを見せた。

 前局では豊島竜王の速攻に屈した永瀬叡王は、本局では慎重な駒組みで仕掛けを封じにかかる。

 ただ、この展開こそ豊島竜王の理想とする展開だったか。

 永瀬叡王が慎重な駒組みで手を損した分、自玉を固めることに成功した。

 これはこれで定跡化された展開ではあるが、重圧のかかる最終局で自玉が安全なのは心強い。

 実際、玉の安定度が勝負に大きな影響をもたらした。自玉が薄い永瀬叡王は指し手の選択が難しく、中盤の折衝でミスが出てしまったのだ。

 角換わりの先手番では、豊島竜王はテーマ図とされる局面へ向けて淡々と駒を進めることが多かった。

 しかし第8局で今までと違う速攻をみせたことで永瀬叡王に重圧をかけ、本局では速攻をチラつかせて一転して守りを固める。

 そこまでが豊島竜王の描いたプランだったのかもしれない。

敗戦を糧に

 今シリーズで何度も見られた永瀬叡王の逆転術も本局では発揮できなかった。

 それも豊島竜王の守りが安定していたからだ。

 豊島竜王はこの七番勝負では永瀬叡王の粘りに手を焼き、何度も逆転の憂き目にあった。

 シリーズ前半から中盤にかけて、らしさを見せていたのは永瀬叡王だった。

 しかし追い込まれてからの第8局、第9局と、豊島竜王らしさが存分にみられた。

 先手番での強さ、というのもある。

 それにも増して、ゲームプランの組み立ての巧さが光った。

 この巧さは将棋界でNo.1の戦略家として知られる渡辺明名人(36)を彷彿とさせるものだ。

 叡王戦七番勝負と並行して行われ、渡辺明挑戦者に敗れた第78期名人戦七番勝負において、豊島竜王が会得したものだったのかもしれない。

 敗戦を糧にして生まれた逆転奪取だった。

大勝負続く将棋界

 七番勝負が第9局までもつれこむ異例のシリーズは全局見応え充分だった。

 最後に勝ち負けがつくのは勝負の常だが、戦い抜いた両雄にファンは惜しみない賛辞を送るであろう。

 名人戦七番勝負と並行して戦っていた豊島竜王にとって、この3ヶ月は濃密なものであったことは想像に難くない。

 しかし2週間後には新たな戦いが始まる。

 羽生善治九段(49)の挑戦を受ける第33期竜王戦七番勝負の防衛戦が開幕するのだ。

 世間ではタイトル獲得通算100期をかけた羽生九段への応援の声も多いだろう。

 羽生九段も並々ならぬ意欲でこの七番勝負へ臨んでくることは間違いない。

 ただ豊島竜王も状態は確実に上向いている。本局をみる限り、特に先手番での強さは充実している。

 どのような七番勝負になるのか、非常に楽しみだ。

 そして本日(22日)、羽生九段は王将リーグで藤井聡太二冠(18)と対戦している。

 竜王戦七番勝負へ向けての充実ぶりをはかる意味でも、この一戦に注目したい。

 初防衛とはならなかった永瀬王座だが、休む暇はない。

 24日には、こちらも防衛戦となる第68期王座戦五番勝負第3局が行われる。

 久保利明九段(45)の挑戦を受けて、現在1勝1敗。

 この第3局はシリーズの流れを決める大きな勝負だ。

 大きな勝負が続く将棋界に引き続きご注目いただきたい。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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