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なぜレアルは不調なのか?エムバペの適応と必要な時間…アンチェロッティの試行錯誤。

森田泰史スポーツライター
ドリブルするエムバペ(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

エンジンが、なかなか、掛からない。

リーガエスパニョーラ第19節、レアル・マドリーは敵地サン・マメスでアトレティック・クルブと対戦した。終始、アトレティックのプレッシングに苦しんだマドリーだが、最後まで攻撃の糸口をつかめず。アウェーで手痛い敗戦を喫している。

■エムバペの適応

そのアトレティック戦で、再び、批判を浴びることになったのがキリアン・エムバペだ。

エムバペは、アトレティック戦でPKを失敗。チャンピオンズリーグ・グループステージ第5節のリヴァプール戦に続いて、PKのキックを成功させられず、「戦犯」扱いされる羽目になった。

エムバペは、今夏、フリートランスファーでパリ・サンジェルマンからマドリーに移籍した。この数年、幾度となく、マドリー移籍の可能性が取り沙汰されていたが、いずれも実現には至らなかった。それが2024年夏に、ついに実現したのだ。

本拠地サンティアゴ・ベルナベウで行われたエムバペの「お披露目」には、およそ7万5000人のマドリディスタが駆け付けた。「自分の運命はマドリー とサインすることにあったと思う。それが唯一の選択肢だった。多くのオファーを受けた。だけどパリを去ると決めた時、行くのはマドリーしかないと考えていた」とは当時のエムバペの言葉だ。

だが、実際、マドリーでエムバペを待ち受けていたのは厳しい試練だった。

適応に苦しむエムバペ
適応に苦しむエムバペ写真:ロイター/アフロ

エムバペはパリSGで、公式戦308試合に出場し、256得点108アシストをマークした。決定力は折り紙付きだ。無論、そこが期待されて、マドリー移籍が決まった経緯がある。

エムバペは、マドリー加入後、公式戦19試合に出場して10ゴールを記録している。まったく、悪いスタッツではない。むしろ並のストライカーであれば、称賛される数字だろう。だが「レアル・マドリーの9番」という文脈で考えた時、異なる見方が出てくる。

また先のリヴァプール戦のように、マドリーでは「ここぞ」というところで力を発揮することが求められる。ミラン戦、ボルシア・ドルトムント戦、バルセロナとのクラシコ…。その点においても、ここまでのエムバペは”落第”だ。少なくとも、及第点以上のパフォーマンスを披露したとは言えない。

■パリ・サンジェルマン時代との相違点

エムバペは、パリSG時代、基本的に「王様」だった。一時、ネイマールとの定位置争いでゴタゴタはあったが、基本的には、周りの選手たちはエムバペのためにプレーしていた。

もちろん、エムバペ自身、その信頼にゴールで応えていた。チームメートがゲームをつくり、エムバペが仕上げる。そのダイナミズムは、間違いなく機能していたのだ。

しかし、マドリーでは違う。エムバペが欲しいタイミングで、いつもボールが来るわけではない。ヴィニシウス・ジュニオール、ロドリゴ・ゴエス、ジュード・ベリンガム…。マドリーのアタッカー陣には、自身で局面を打開できる選手が揃っている。

彼らはエムバペを使わなくても、フィニッシュワークに参加できる。事実、昨季はチャンピオンズリーグとリーガエスパニョーラでタイトルを獲得しており、エムバペがいなくともゴールを奪えるのは実証済みだ。

■ミドルクライシス

エムバペは、現在、25歳だ。この12月に、26歳を迎える。

フットボーラーで26歳というのは、キャリアの中盤だ。ここで「ミドルクライシス」に襲われる、というのは、ない話ではない。

リオネル・メッシは26歳の頃、少し苦しんでいた。2013−14シーズン、メッシはリーグ戦で28ゴールをマーク。12−13シーズン(リーグ戦46ゴール)、14−15シーズン(リーグ戦43ゴール)と前後のシーズンと比べ、得点力が落ちていた時期だ。

メッシはバルセロナで若くして栄光を手にしていた。エムバペもまた、19歳でフランス代表の主力としてロシア・ワールドカップの優勝を経験。若い頃に、ビッグタイトルを獲得している選手だ。

加えて、エムバペの場合、そのタイミングでビッグクラブ移籍が重なった。文化、習慣、言葉、環境…。多くの物事が、ピッチ内外で変化する。

メッシでさえ、苦しんだ。エムバペが同じように苦しんだとしても、おかしいことではない。

■ヴィニシウスとの関係

また、いまのマドリーには、ヴィニシウスというエース級の選手がいる。

まず、エムバペとヴィニシウスとの関係性、というのがある。この数年、ヴィニシウスは、チームメートとマドリディスタからの愛と信頼を勝ち取るに値する結果を残してきた。以前は、単にテクニックの高いドリブラーだったが、決定力が加わり、マドリーのエース番号である7番を背負うにふさわしい選手になった。

さらに、ヴィニシウスは左ウィングを主戦場としている。エムバペがプレーしたいポジションと、被っているのだ。

ヴィニシウスはリーガ第14節のレガネス戦で負傷した。その折、エムバペに左ウィングのポジションが回ってきた。リヴァプール戦やアトレティック戦は、エムバペにとって、自身の真価を示す絶好の機会だった。

だがエムバペのパフォーマンスは上がらなかった。マドリーには黒星がつき、スペインメディアとマドリディスタのフラストレーションは溜まる一方となった。

リヴァプール戦でPKを失敗したエムバペ
リヴァプール戦でPKを失敗したエムバペ写真:ロイター/アフロ

忍耐ーー。これが必要なのは、確かだ。

ただ、耐えている間に、シーズンが終わってしまっては、元も子もない。今季はバルセロナの調子が良い。チャンピオンズリーグでも、グループステージで24位に位置する状況というのは看過できない。マドリディスタの堪忍袋の緒が切れる前に、何かしらの解決策を講じる必要がある。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『WSK』『サッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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