2週間前に出産した私が200km離れた学会に子連れで参加できたワケ~ロボットがつなぐ未来

11月26~28日の3日間、インタラクティブシステムとソフトウエアのシンポジウム『WISS』が静岡県・浜松市で開催されました。

今年の委員長、ウエアラブルの伝道師こと、神戸大学の塚本昌彦教授の計らいで初めて『WISS』に遠隔操作ロボットが導入されました。

2週間前に出産した娘と一緒に、自宅から遠隔操作をして学会に参加
2週間前に出産した娘と一緒に、自宅から遠隔操作をして学会に参加

私はこの学会に毎年参加してきましたが、開催の2週間前に出産をしたばかりなので、今年は不参加の予定でした。しかし、インターネット越しに遠隔操作して参加できるのならと、このロボットを使って自宅から学会に参加させていただくことにしました。

今回私が使用したのは、iPresenceという会社からご提供いただいた『Double Robotics』という遠隔操作ロボットです。

このiPadを乗せた自立型ロボットは、操作がとても簡単。ロボットの移動に使うのはPCの十字キーのみです。上下キーで、ロボットを前進させたり後退させたりし、左右キーでロボットの首を左右に操作します。もう1つ、操作画面上にあるボタンをクリックすることでロボットの首の高さを上下に変更することができます。

「臨場感」を味わえる遠隔会議ロボット

実際にその場にいなくても会議に出席したり、オフィスを歩いたりしているような感覚になれる「遠隔会議用ロボット」はここ数年で、立て続けに各社が実用化・製品化にこぎつけています。

掃除機ロボット『ルンバ』で知られるアイロボット社が、シスコシステムズと共同で、ロボット型テレビ会議プラットフォーム『Ava 500』を発表したり、米Suitable Technologies社では、独自開発のカメラを搭載した『Beam』を開発・発表したりしています。

これらに共通しているのは、自分の身長とほぼ同じぐらいの高さで、車輪がついており、首の部分にはディスプレイが存在する、そういった形状であることです。

遠隔地とのコミュニケーションと言えば、テレビ電話が挙げられますが、TV電話が初めて人々の前に現れたのは1970年に開催された大阪万博だと言われています。その後、携帯電話でテレビ電話ができるようになり、Skypeの登場、スマートフォンの普及でより一般市民に受け入れられるようになったのではないでしょうか。

私もこれまで、「Skypeを利用したTV会議への参加」や、Ustreamなどに代表される「ストリーミング聴講による学会参加」などは体験してきました。しかし、今回初めて、ロボットという「実態を伴った存在」として会場に存在することを体験したことで、現地で学会に参加している方とまるで同じ空間にいるかのような臨場感を味わうことができ、その体験にびっくりすると共に興奮しました。

遠隔コミュニケーションは、初見の人には抵抗感も

デモを見せてもらっています
デモを見せてもらっています

学会のデモ会場では自由に会場内を動き回り、発表者に1対1で説明をしてもらうことができました。

こちらから質問をしたり、それに答えてもらったり、実機のデモを見せていただいたり。実際に現地に行くのと同様、研究の説明を聞くことができました。

また、招待講演のあとの質疑応答の時間には、質問のマイクに並んでみました。

遠隔操作なので、前方のマイクに向かって歩いて行く際、前に並んだ人との間隔がつかみにくく、後ろからぶつかってしまうというハプニングもありましたが、無事に質問し、講演者から意見を聞くことができました。

iPresenceロボットを用いて質問もしてみました
iPresenceロボットを用いて質問もしてみました

大きな違いを感じたのは、休憩時間や懇親会の時間もつながっていたこと。通常のオンラインストリーミング聴講では、例えば前半の講演が終了次第、「それでは休憩に入ります。次は予定通り15分後に再開します」などと生中継も切断され、その間、こちらもトイレ休憩をしたり、コーヒーを淹れてきたりと1人で休憩をすることになります。

しかし、ロボットを利用して、休憩時間も現地と接続できていたため、自由に会場を動き回ることができました。

現地で休憩時間になると、人の流れが会場の右後ろに流れているのを見て、その流れについて行ってみると、コーヒーコーナーで現地の参加者がたむろしているところに行くことができました。

現地の参加者と先ほどまでのセッションの話で盛り上がったり、研究者と近況報告をしたり。

もちろん、ロボット自体の話も多かったのですが、まるで現地にいるかのように、休憩時間までも現地の人と会話をすることができました。会議やシンポジウムも大事だが、休憩時間や懇親会でのディスカッションも大事というのはどの業界でもよくある話なのではないでしょうか。

3日間開催されたうちの最初の2日間をロボットを使って参加させていただいたのですが、こういった遠隔参加を体験してしまったあと、3日目をロボットなしでストリーミング聴講+Twitterでの参加をしたところ、これまでと違った喪失感と言いますか、妙に寂しく、物足りなく感じました。

ちなみに、こういった遠隔参加は、初めて参加する学会では難しいと思います。今回、ロボットが学会会場にいる状況を現地の参加者は「楽しかった」、「面白かった」と言ってくださり、実際に写真もたくさん撮ってくださっていました。

しかし、私自身が例年参加している学会だったので、こちらの楽しさも、現地の人の楽しさも増したのだとは思います。現に、話しかけてくださったのも常連の方々で、知らない人から話し掛けられたことは、ほぼゼロに近い状況でした。

遠隔コミュニケーション自体が基本的に「双方が顔見知りであることを前提」にしているものが多いことからも、これは想定される事態でした。今後、双方共に知らない人同士での遠隔コミュニケーションも増えていくと共に、それを支援する仕組みも研究されていくのでしょう。

テレプレゼンス技術がもたらす「実体」が会議を変える

こういった遠隔地のユーザーとまるでその場で対面しているかのような臨場感を提供する技術をテレプレゼンス技術といいます。

慶應大学の舘教授は1980年代からテレプレゼンス技術を使ったロボットの研究をされています。テレイグジスタンス・ロボットである『TELESAR V』では、視覚、聴覚、および触覚までをも遠隔地に伝えることができ、人々を時間的・空間的制約から解き放つものとして期待されています。

私が使用させていただいたiPresenceロボットは、見ることと聞くこと、自由に歩き回ることはできますが、触ることや食べることはできませんでした。

さすがにソフトクリームを食べることはできず
さすがにソフトクリームを食べることはできず

デモ会場ではソフトクリーム製造機のデモもされており、「先着33名が食べることができる」と宣伝されていたので、私も並んでみたのですが、もちろん食べることはできませんでした(笑)。

しかし、触覚を伝えるインタフェースや匂いを伝えるインタフェースなども、国内外でさまざまな研究者によって研究されているのです。

また、大阪大学の石黒浩教授は、遠隔操作型のアンドロイドの研究で世界的に有名で、ロボット工学だけでなく、認知科学や脳科学と広い領域に携わっていらっしゃいます。日本科学未来館での展示や、タカシマヤなどのデパートでの一般展示などで見たことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

遠隔操作ロボットといえば、原子力や宇宙開発、被災地での救助活動や医療現場といった特殊な状況を想定しての研究開発も忘れてはなりません。

人間が入れない場所でも入っていくことができるような小型ロボット、空中を自由に飛ぶことができる飛行ロボット、アームを操作することで遠隔地から物を動かしたりすることができるロボットなど、想定される特殊な状況に応じて、いろんな形状の遠隔操作ロボットが研究・開発されています。

遠隔会議用ロボットが急速に発展したのは、ネットワークの高速化や、ディスプレイの低価格化、タブレット端末の普及などが要因とも言われています。

また、子育て世代の女性の社会進出や男性の育児休暇取得、在宅ワークや遠隔地との会議に現地に行かずに出席する必要性など、働き方が多様化してきたことも市場に受け入れられるタイミングとマッチしたのではないでしょうか。

「学会くらい行けばいいじゃないか」と思われる方も多いかもしれません。しかし、子育て中の女性研究者にとっては、こういった「学会に参加ができない」という状況が、研究を推進する上でのネックの1つなのです。

遠隔操作ロボットを用いて参加し、1対1で研究のディスカッションや懇親をする。そういった学会の参加の仕方が1つの解決策になるのかもしれません。

先輩の遠隔地からの会議参加を可能にしていたAIBO
先輩の遠隔地からの会議参加を可能にしていたAIBO

実は、私が修士課程の学生だった時、研究室のOBの先輩が遠隔地から研究室ミーティングに週1回、参加していました。この際、ただネットワーク越しに参加するだけでなく、AIBOを操作して、質問があると、AIBOがむくっと起き上がり、挙手する、といったことをしていたのです。

Skypeではなく、そこにAIBOとして先輩の実体があるということが、ミーティングに良い雰囲気をもたらしていたのを覚えています。これが2005年のことなので、今から約10年前には技術は出来上がっていたのですね。

さて、10年を経た今、こういった遠隔操作ロボットを使用して会議に出席する、という行為は普及するのでしょうか。

(この記事はエンジニアtype 『五十嵐悠紀のほのぼの研究生活』からの転載です。)