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ITの「毒」から子どもを守る~危険性を自分で考えさせる教育とは

五十嵐悠紀お茶の水女子大学 理学部 准教授

最近は、学校教育の場に持ち込まれていることも増えたLINE。

日本女子体育大学のようにLINEをうまく使っている学校もあれば、兵庫県多可町のように生徒たちのLINE依存を防ごうとしている地域もあります。使い方によっては、毒にも薬にもなるLINEとの適切な距離感、みなさんはどうお考えでしょうか?

学生との連絡にはメーリングリストよりもLINEのグループ機能

大学ではこれまで、研究室内の連絡事項などはすべて、メーリングリストを作成していました。私は学部時代、修士課程、博士課程、ポスドク(研究員)と4つの研究室を渡り歩いてきましたが、研究室配属して最初にやることは、メールアドレスをもらい、初期設定をすることと、メーリングリストへの登録。どの研究室でもそうでした。

しかし、今、私が非常勤で勤務している明治大学で、学生さんとの連絡を取るため「メーリングリスト作りたいから、メールアドレス教えてね」と紙を回そうとしたところ、学生さんから「LINEじゃダメですか? LINEのグループでもいいんじゃないですか?」という反応が返ってきました。

結局、学生さんへの連絡にはLINEのグループを作って利用しています。「トーク」機能の方は学生さん同士の活発なコミュニケーションで埋もれてしまうので、教員からの“全員に必ず読んでもらいたい連絡”の時には「ノート」機能を使うなど工夫しています。

メールよりLINEの方が距離感が近い?

反応がすぐにあるのはメールとは違ったメリットです。もちろんメールの返信がとても早い人もいます。しかし、LINEの方が、メールでは飛び交わないような「雑談」もしやすいのが特徴です。

大学では、学生と一緒にLINEグループで、たわいもない雑談を教員も混ざってすることで、その中から研究のネタが生まれたりすることもあります。日ごろ、学生が授業で聞いてみたいと思っていることを引き出したりすることもできるでしょう。もちろん、教員に聞かれたくない話もできるように、もしかしたら学生だけのグループも別途あるのかもしれませんが(笑)。

実際には、このようにして学生さんとコミュニケーションを取っていると、学生さんが常日ごろ不満に思っていることや、改善したいと思っていることなどを気軽に提案してくれる、といったこともありました。不満が募る前に「こうしたらどうでしょう?」と提案しやすい空気・環境を提供する、というのは大事なことだと思っているので、これはLINEの恩恵でもあります。

加えて、私は家族とのコミュニケーションにもLINEのグループ機能を使っています。

「自分の両親・兄弟のグループ」と「夫の両親・夫の兄弟とのグループ」。写真のやり取りをしたり、スタンプを押したり。どちらも子どもの近況報告を親に伝えるのがメインの利用法になっていますが、離れて暮らす両親が元気で過ごしている様子も垣間見ることができて、安心したりもします。特に夫の家族とのLINEグループを始めたことで、帰省時だけでなく、頻繁にコミュニケーションを交わすようになり、これまで以上に親しくなれたような気がします。

この「距離感」は、「家族」や「友達」という観点では良いでしょう。しかし、「先生と学生」や、「上司と部下」に当てはめると、距離感が近いことが必ずしも良いとは限りません。

世代によっては「距離感」が必要な場合も

スタンプのやり取りでフランクなコミュニケーションが取れるLINE
スタンプのやり取りでフランクなコミュニケーションが取れるLINE

最初に「LINE?そんなのじゃ、ダメだよ。連絡は従来通りメールにします」と言い切ってメーリングリストを作っていたら、今の学生さんとの距離感は得られなかったと思います。

こちらから「じゃあ、メーリスではなくて、LINEのグループ機能でやってみようか?」と歩み寄ることで、学生さん側にとっても「先生に相談してみようかな」「ちょっと聞いてみようかな」と気軽に相談したり、話したりできる関係が築いてこられたのではないかと思っています。

一方、学生側が、先生に対して気軽に意見が言える環境というのを好ましくない、と考える先生方もいらっしゃるのも事実です。「先生」と「学生」はある一定の距離感があるのが当たり前と考える世代では、先生「よろしくね~」 学生「OK~」なんていうスタンプのやりとりを見たら、驚愕するかもしれませんね (笑) 。

そんな中、『程よい距離感』を求めて彷徨っているのが私たち世代な気もしています。

LINEに限らず、私たちは技術に「依存」してきた

一方、LINEの問題点として挙げられる中でよくあるのが、「LINE依存」と「既読スルー」。

この記事の最初にも挙げましたが、LINEに依存し過ぎることで、夜中の2時、3時までLINEをしている学生の話、ニュース記事などもよく目にします。

読んだら即座についてしまう「既読」マークも便利である一方で、「読んだのだから返信をしないといけない!」という強迫観念にとらわれてしまうといったこともあり、よく問題視されています。

実際に、「夜9時以降は使用しない」などと家族内でルールを設けることも行われています。これは睡眠時間や勉強時間の確保といった効果のほか、「自分でも本当はLINEをやりすぎだと分かっているけど、友だちとの手前、やめられなくて……」といったような言い訳としても都合が良い人もいるでしょう。

自分自身を振り返ってみると、「依存しすぎてこれはマズい」という状況は、親やPTAなど、外から言われたり規制されたりしなくても、自分が一番気付いているんですよね。

私自身では、小学生時代のファミコン、中学生時代のプリクラやポケベル、高校生の携帯電話・PHSの登場、大学生時代のインターネットに常につながった個人のPC……。常に年長者から見れば「依存」と言われるものがあった時代を歩んできた気がします。

この記事を読んでいる年齢層の方なら、少なからず当てはまるのではないでしょうか?

子どもにネットとの接点を与えるとき、情報リテラシー教育は必須

なぜ親が「ダメ」というのか、を子ども自身に考えさせる教育が大事 From jenny downing
なぜ親が「ダメ」というのか、を子ども自身に考えさせる教育が大事 From jenny downing

もちろん、小学生低学年から自分自身で規制できるとは限りません。けれど、ダメだよ、と言われると、やりたくなるのが人の心情。何もかもを規制するのではなく、それがいいかどうか、どこまでならOKか、「自分で考える力」と「それを実行する精神力」を育てていくことが大事だと思います。

むしろ大事なのは、「インターネット越しに会話をする」ことの危険性やルールについて再確認すること。「友だちと会話する」ことが現実世界から、ネット上に移っただけ、と一見同じように思えますが、実は危険がたくさん潜んでいます。

友だちと一緒に写った写真の公開範囲や、他人の会話のコピペ。意識的・無意識的に関わらず、犯罪の被害者になる可能性や加害者として加担してしまう可能性も潜んでいます。そういった情報リテラシー教育も、合わせて必要になってくることを忘れてはいけません。

デジタルデータは編集・加工が簡単にでき、データとして劣化することがないのです。特に初めてスマホを与えられた子どもに対しては、まず家庭内でこのような話を話し合う必要があると私は思います。

今回は分かりやすく身近なLINEを取り上げましたが、その他のSNSサービスやアプリ、ゲームなども同様です。

我が家の息子も来年には小学生。小学生になるとゲーム機を「みんな持っている」状態になると聞いています。

息子にゲーム機を買い与える日もそう遠くないのかもしれませんが、親が規制するのではなく危険性についても話し合い、自分で気付き、自分で管理する能力を身に付けてほしいと願っています。

(この記事はエンジニアtype 『五十嵐悠紀のほのぼの研究生活』からの転載です。)

お茶の水女子大学 理学部 准教授

東京大学大学院工学系研究科博士課程修了.博士(工学).日本学術振興会特別研究員PD, RPD(筑波大学), 明治大学総合数理学部 専任講師,専任准教授を経て,現職.未踏ITのPM兼任.専門はヒューマンコンピュータインタラクションおよびコンピュータグラフィックス.子ども向けにITを使ったワークショップを行うなどアウトリーチ活動も行う.著書に「AI世代のデジタル教育 6歳までにきたえておきたい能力55」(河出書房新書),「スマホに振り回される子 スマホを使いこなす子 (ネット社会の子育て)」(ジアース教育新社),「縫うコンピュータグラフィックス」(オーム社)ほか.

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