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インターネットの普及で変化してきた子育て界隈

五十嵐悠紀お茶の水女子大学 理学部 准教授

不幸にも起きてしまったネット託児での死亡事故。インターネットの普及に応じて、子育て界隈は随分変わってきたように思います。

子育て用品もネットで調達

昔なら、ご近所さんや親せきからおさがりをいただくといったことも多かったベビー用品。すべて購入で揃えたい人もいれば、短期間しか利用しないのでなるべくレンタルや譲ってもらうことで揃えられれば…という人もいます。

ここ数年、SNSの普及により、コミュニティ掲示板を利用して、子育てに必要なベビーベッドやベビーカーなどの大物子育て用品を「譲ってください」「譲ります」「売ります」「買います」など随分普及してきました。SNS上には地域限定コミュニティができていたり、女性専用サイトでやりとりをして、地方から宅配便で送り合ったり、というのも見かけます。

私も、ハンドルネームしか知らない人とSNSのメッセージ機能でやりとりをして、わかりやすいカフェの前や駅前などで待ち合わせをして、譲っていただいたことや、譲ったことも何度もあります。

ママさんサークル

また、「ママ友募集」といった掲示板の書き込みもよく見かけます。特に第1子を産んだばかりのお母さん方が同じくらいの月齢ママを探すのが一番多いように感じますが、初産が10代から40代まで幅広い現代。ママの年齢が同じ「1982年生まれのママさん」などといった募集の仕方もよく見かけます。インターネットが普及してきたからこそ、実現できるようになった友達の探し方、とでも言うのでしょうか。

近隣の幼稚園や保育園、小児科の情報までネットの掲示板には情報が溢れており、子育て1年目は利用しない日がないくらい、私も頻繁に利用していました。

そんな、インターネットが普及した世代で子育てをしている今、インターネットでのベビーシッター探しもその延長線上だったのではないでしょうか。とはいえ、命を預けるベビーシッターをインターネットで探して、匿名の相手と連絡を取り、住所も名前も知らないまま自分の大事な子どもを預けるとは・・・という意見も多いことはもちろん承知です。

ではどのようなサービスなら預ける側は安心なのでしょうか?

さまざまなベビーシッター事業

子どもを預かってくれるベビーシッターサービスには様々な形態があります。

通常、「ベビーシッターサービス」というと、大手会社が運営しているシッターサービスを思い描く人が多いと思います。初回登録料に加え、年間登録料を収めて、毎回同じ人が来てくれる。そんな事業。1時間2,000~3,000円程度なことが多いのではないでしょうか。大手『ピジョン』のベビーシッターサービスピジョンウェンディや、ポピンズなどが有名どころだと思います。

これらのサービスでは、病気回復期は預かってくれますが、子どもの熱が出ているときなどは不可。ところが、水ぼうそうやインフルエンザなどの感染症のときでも預かってもらえる病児対応ベビーシッターサービスもあるのです。フローレンスや、ハニークローバーなどが該当するでしょう。もちろん元気なときも預かってくれるのですが、このようなサービスは登録料も月額料も高額。しかし、絶対に自分が休めない、代わりのきかない仕事を持っている母親は特にこのようなサービスを利用していると聞きます。

様々なベビーシッター事業が、保育だけでなくその時間に教育もしてくれる「教育ベビーシッター(ナニー)」の指名ができたり、宿泊を伴う託児をお願いできたり、旅行先に同行してくれるシッターの依頼ができたり、と個性豊かなサービスを展開しています。

ボランティアで成り立っている「ファミサポ事業」

市町村によっては、「ファミリーサポート事業」がある自治体も多いことでしょう。金銭面では1時間あたり1,000円未満のことが多く、こちらは比較的ボランティアで成り立っているサービスと言えるでしょう。ファミサポ事業者がマッチングを行ってくれ、初回の面談などはファミサポ事業の方が付き合ってくださいますが、その後の預けるスケジュールや金銭のやりとりは基本的に個人同士の付き合いです。

ベビーシッターマッチングサービス

そんな中、今回事件の起きた「ベビーシッターのマッチングサービス」。これもいまだ利用したことはありませんが、存在は私も知っていましたし、登録料や年会費が必要な他のサービスと違って、地方出張のときなどに助かりそうだな、と感じてチェックしていました。

実際にこのサービスを利用している人も多いですし、助かっている人も多いのではないでしょうか?資格のあるなしについてきちんと記載してある方もいらっしゃいますし、丁寧な保育を心掛けている方もいらっしゃるように思え、このようなサイトを使っている親やベビーシッターさんすべてを非難するのは間違いだとも思うのです。

「評価」といったら聞こえは悪いですが、オークションのように、「この人よかった!またやりとりしたい!」といったマークを付けていくことができたら、その情報はより両者にとって役に立つのではないでしょうか?

大手ベビーシッターサービスを利用していてもいろいろある

一方、大手ベビーシッターサービスを利用していたら安全なのでしょうか?

子どもが二人になった頃から、我が家ではベビーシッターサービスを利用するようになりました。土日や夜間など一時保育を二人分同じ施設で予約を取るのが難しかったり、ファミリーサポートは大人1人につき子ども1人しか預けられないので2軒探さなくてはいけない、といった制約があるからです。

その中で私が遭遇した事例では、長男が4歳になった頃からでしょうか。預けている間のことをよく話してくれるようになってからは、ベビーシッターさんとどんな風に過ごしているのかがよく見えるようになってきました。

事例1

お着替え、お昼寝布団、オムツ、おもちゃ、など保育に必要だと思われるものはすべて一式リビングに出して、「寝室には入らないでください」とお願いして出かけたある日。

帰ってきて長男にどうだった?と聞いたら、

「おかあさんは、ねるへやには入らないでね、って言ったよね。なのに、シッターさんは入っちゃったんだよ。だから、ぼく、『だめだよ』って言ったの。そしたら、『うん、わかった、もういかないね』って言って、ごはんのたべるお部屋にもどってきたよ。」

それを聞いて、えーー!!!何をしに行ったんだろう????と、慌てて、紛失物などがないかどうか確かめに行ってしまいました。

事例2

また、出張先にベビーシッターさんに出向いていただき、個室を借りた上で、預けていたとき。

「館内でいっぱい遊べると思うので、館内は自由に遊んでいただいて構いません。個室も使っていただいて構いません。ただし、お外は危ないので出ないでください。」

とお願いしておきました。

お迎えの時間になっていくと、「いいお天気だったので、駅までお散歩に行ってきました~」と笑顔で言われ、「あれれれ?!」と思ったのを覚えています。

他には、預けていた数時間、「ずっとドラえもんのDVDを見ていたよ。シッターさんはずっと携帯してたよ。」という長男の証言もありました。何事もなかったから良いようなものの、一瞬目を離した隙に…という事故が多いことを考えれば、いくら大手に預けてもトラブルの元はありそうだな、と感じます。

金銭面では働いているのに赤字になることも

ちなみにこのように、ベビーシッターさんや一時保育の利用をすると、働いているのに赤字になることも非常に多いです。例えば、私は大学の非常勤講師をしていますが、1コマ90分の授業をしに行くために子どもを一時保育に預けて向かい、授業をして帰ってくると、すでに赤字。毎週の授業の準備にかかる時間を預けると大幅な赤字になる計算です。

では、赤字になるくらいなら働かないほうがいいのでしょうか? 答えはNO。長期的な目で見れば、メリットも多く、金銭面でも黒字になるのです。「未来への投資」と考えて割り切ることも必要です。

子供が小さいうちは家庭で見て、大きくなったら働く、という選択肢もあるでしょう。働かなくては生きていけないから働くといった家庭もあるでしょう。また、核家族が普及し、インターネットが普及した今だからこそこういった様々な状況が生まれているのではないでしょうか。

それぞれの家庭がそれぞれにあった選択肢を選んで、安心に子どもを育てられる環境が増えるといいですね。

お茶の水女子大学 理学部 准教授

東京大学大学院工学系研究科博士課程修了.博士(工学).日本学術振興会特別研究員PD, RPD(筑波大学), 明治大学総合数理学部 専任講師,専任准教授を経て,現職.未踏ITのPM兼任.専門はヒューマンコンピュータインタラクションおよびコンピュータグラフィックス.子ども向けにITを使ったワークショップを行うなどアウトリーチ活動も行う.著書に「AI世代のデジタル教育 6歳までにきたえておきたい能力55」(河出書房新書),「スマホに振り回される子 スマホを使いこなす子 (ネット社会の子育て)」(ジアース教育新社),「縫うコンピュータグラフィックス」(オーム社)ほか.

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