新型コロナが命に関わるALS舩後氏の国会欠席。歳費返納を主張する音喜多氏の発言の問題は

(写真:REX/アフロ)

難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)当事者で、参議院議員の舩後靖彦氏が、新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえ、呼吸系に影響が出る同感染症にかかれば命にかかわるとして、10日の国会審議を欠席したとのニュースがありました。

NHK NEWS WEB れいわ 舩後議員 感染拡大で国会欠席「命にかかわる」2020年3月10日 19時29分

ALSに限らず基礎疾患のある方は、新型コロナウイルスにかかると重症化しやすく、特に感染に気をつけたい立場の方々です。

そうした中、同ニュースに対して、舩後氏と同じ参議院議員である音喜多駿氏が、舩後氏の国会審議欠席に対して「歳費は返納されないと、国民の納得を得るのは厳しい気も」という意見をTwitterで投稿しています。

れいわの国会議員お二人は、本日も本会議を欠席。致し方のない事情だと存じますが、その分の歳費は返納されないと、国民の納得を得るのは厳しい気も。またこれを契機に、国会も前向きにリモート出席や遠隔採決を検討すべきですね。

出典:音喜多駿氏のTwitter投稿

結論からいうと、国会の出席・欠席と議員の歳費は紐付いておらず、法的にも根拠がなく、また社会や障害当事者への影響を鑑みても不適切な見解と私は考えます。以下、順に法律上の歳費の位置付けや、同発言への見解を記述します。

「欠席分の歳費返納」は、法的根拠・正当性のない発言

そもそも、国会議員に支払われる「歳費」とは何で、法律上どのように定義されているのでしょうか。

まず、日本国憲法第四十九条で「両議院の議員は、法律の定めるところにより、国庫から相当額の歳費を受ける」との条文があり、これに基づき制定された「国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律」(以下、歳費法)が、歳費についての具体的なルールを定めています。

国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律

第一条 各議院の議長は二百十七万円を、副議長は百五十八万四千円を、議員は百二十九万四千円を、それぞれ歳費月額として受ける。

第二条 議長及び副議長は、その選挙された日から歳費を受ける。議長又は副議長に選挙された議員は、その選挙された日の前日までの歳費を受ける。

第三条 議員は、その任期が開始する日から歳費を受ける。ただし、再選挙又は補欠選挙により議員となつた者は、その選挙の行われた日から、更正決定又は繰上補充により当選人と定められた議員は、その当選の確定した日からこれを受ける。

出典:国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律

歳費法では現在のところ、国会議員に対して支払われる「歳費」は月額単位で定められており、国会審議の出席・欠席回数とは紐付いていません。

また、公職選挙法では、国庫への返納は寄付行為とみなされ禁止されています。仮に音喜多氏の意見を受けて舩後氏が「歳費を返納しよう」と思って自由に返納できるものではありません。それを可能にするには法改定が必要でしょう。

唯一、日割りの規定があるのは4条2項ですが、これは選挙の当選タイミングなどによってはわずかな日数での在任期間に対して歳費が満額支払われることが問題となったため設けられた決まりであり、疾患等による国会審議の出席・欠席とは関係がありません。

第四条の二 第二条、第三条又は前条第一項の規定により歳費を受ける場合であつて、月の初日から受けるとき以外のとき又は月の末日まで受けるとき以外のときは、その歳費の額は、その月の現日数を基礎として、日割りによつて計算する。

出典:国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律

「国民の納得」のために歳費の返納?その民意はどこから

音喜多氏は同ツイートの中で、舩後氏の欠席分の歳費は返納されないと「国民の納得を得るのは厳しい気も」とも述べています。

音喜多氏も舩後氏も、民主主義の日本において選挙で選ばれ国民の代表として働く議員ですから、国民の意見を意識することは大事です。しかし、であるならばなおさら、民意を踏まえた議論を通して、必要ならば歳費法の改正を検討するのが、立法府で働く国会議員の役割ではないでしょうか。

歳費に限らず、法によってその職務が規定されている国会議員でありながら、現時点での法律がどうなっているのかを踏まえずに、まだ具体的な議論もなされていない段階で「国民の納得」を理由に私見を補強しようとする行為は、些か問題ではないかと思います。

なぜ重度障害のある議員の欠席だけを問題とするのか

そもそもなぜ音喜多氏はこのタイミングで、ALSという重度障害のある舩後氏の審議欠席だけを問題視し、歳費返納を主張されたのでしょうか(同ツイートの中では「れいわの国会議員お二人は」と、木村英子議員も欠席したように述べていますが、木村英子氏は質問に立つ時間のみ出席し質疑を行ったとのことで、事実誤認があります)。

これまでも疾患や入院等で国会審議を欠席した議員はいましたし、音喜多氏ご自身も、今後いつ予期せぬ事情で国会審議を欠席せざるを得なくなるかわかりません。

国会議員に支払われる歳費の法的性質としては、職務遂行上必要となる出費について弁償するものであるという説と、国会議員の職務に対する報酬であるとする説がありますが、いずれにせよ国会議員の職務や、職務による価値貢献は、国会審議への出席・欠席だけで測れるものではないと私は思います(もちろん国会審議への出席や質疑が重要な役割の一つであることは間違いありません)。

疾患・障害の有無や体調不良がある方も含めて、選挙で選ばれた国会議員の方々が国民の代表としてのさまざまな職務に専念するための歳費を、時給・日給感覚で増減することを良しとすることは果たして適切なのか、ということをまず議論するべきだと思います。

自然災害や感染症、「非常事態」に弱い立場の人が切り捨てられない社会システムを

今回の新型コロナウイルスに限らず、自然災害や感染症流行といった非常事態には、舩後氏・木村氏両議員のように障害・疾患のある方はより一層困難な状況に置かれやすくなります。それは、記事の冒頭で述べたような重症化リスクだけではありません。

国民の誰もが不安を抱えている状況では、弱い立場にある人たちがスケープゴートにされたり、「非常時」のリソース制約を理由に、なし崩し的に支援や補償を切り捨てられたりといったことが起こりやすくなるのです。

こうした状況でも、いや、こうした状況であるからこそ、障害・疾患のある方が、自分自身の心身の安全を守りながら、議員としての仕事を続けられるためにはどうしたら良いかを考えるべきでしょう。

今回、新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえて国会審議を欠席した舩後氏ご本人も「国民の負託にこたえるために、質疑を行いたいと考えていたが、医療関係者からの助言も踏まえ、欠席という苦渋の決断をした」と、悩みながらの決断であったことがうかがえます。

音喜多氏がツイートの後半で述べた国会のリモート出席や遠隔採決は、良いソリューションだと思いますので、ぜひ積極的に議論・検討を進めていただければと思います(しかし同時に、症状によってはリモート出席も厳しい場合があるということも知っていただければ幸いです)

これを機会に、音喜多氏にはぜひ、障害のある方を含め、多様な特性のある方が議員として活動できる国会運営や法のあり方を描いていただくことを期待します。

私は、新型コロナウイルスに関して、障害・疾患のある方を含め、情報が届きにくい方や個別のサポートを必要としている方向けの情報をまとめたサイトを立ち上げ、運営しております。こちらもよろしければご参照ください。

「とどけるプロジェクト - 新型コロナウイルス・一斉休校 情報が届きにくい方のサポート情報 不安との付き合い方・心のケア」