「介護」と「働く」が併存する時代へ。重度障害者への就労中の支援拡充に期待

(写真:Motoo Naka/アフロ)

重度障害者への就労中の支援拡充、検討進む

厚生労働省が、日常生活で常時介護が必要な、いわゆる「重度障害者」への支援拡充の検討を進めています。重度障害のある人が、食事や排せつ、移動といった普段の生活のための介護を継続して受けるための「重度訪問介護サービス」は、これまで「個人の経済活動」である通勤時や職場での支援を対象外としてきました。

先の参議院選挙で、重度の障害のある当事者である舩後靖彦氏と木村英子氏が当選したこともきっかけに、制度改正を求める声が高まっています。

厚労省は、職場で過ごす時間や通勤時の介護も公的支援の対象とする制度改正を行い、障害者の就労機会の拡大を目指す方針で、遅くとも来夏までに、場合によっては前倒しも含めて、具体策を取りまとめる予定とのことです。

参考:時事ドットコムニュース「重度障害者、就労中も支援へ=通勤、職場での時間対象-厚労省」2019年10月15日13時33分

この記事では、そもそも「重度訪問介護」とはどういったサービスなのかをおさらいしつつ、制度改正が求められるようになった背景、重度障害のある人の就労可能性拡大についてお話します。

24時間365日の途切れのない支援、「重度訪問介護サービス」とは?

重度訪問介護とは、障害者総合支援法に基づき、障害者が利用できるサービスの一つです。常時介護が必要な重度の身体、知的、精神障害のある人がサービスの利用対象で、自宅にヘルパーが訪れ、排せつや入浴、食事など長時間の訪問介護サービスを提供します。利用者の自己負担は1割(月額の自己負担上限は3万7200円)で、残りは公費で賄われます。

重度訪問介護サービスは、重度の障害のある当事者の方々の運動と、行政との粘り強い交渉の上に成立したサービスです。介護保険の訪問介護サービスと違い、長時間連続して利用でき、利用者が寝入った後の夜勤の見守りも含めて、1日24時間365日途切れることなく支援を受けることができます。また、自宅での介護だけでなく、「移動介護(外出支援)」も認められています。一人のヘルパーが車椅子を押しながら、もう一人のヘルパーが言葉の読み取りをしたり、身体の調整をしたり、痰の吸引をしたりして、身体のケアを受けながら外出の用事を済ませることができます。

参考:川口 有美子「国会議員誕生で議論沸騰…『重度訪問介護』の何が問題? 篠沢教授とれいわ新選組」2019年9月22日

自力での食事や排せつができなかったり、定期的に痰の吸引等が必要な重度の障害のある人でも、重度訪問介護があることで、家族に負担をかけずに自宅での自立した生活を送ることができます。日本の重度訪問介護は世界でも珍しい、非常に個別性の高い介護サービスだと言えます。

しかし、そんな重度訪問介護でも支援の対象外とされる領域がありました。それが、通勤時や職場での支援です。

これまでの厚労省障害福祉課の見解は、就労は「個人の経済活動」にあたり、その支援は、障害者差別解消法で求められる「合理的配慮」として職場の事業主が行うべきだというものでした。公費を財源とする重度訪問介護で通勤等の支援を行うと、事業主の支援が後退するおそれがある、というロジックです。

先日当選した舩後靖彦氏と木村英子氏の議員活動についても、当面の間、彼らがその一員として活動をする組織である参議院が、介護費用を負担することになりました。(「合理的配慮」については別の記事で詳しく解説したので、参考にしてください。)

参考:鈴木悠平「れいわ2議員の介護負担を巡って。社会の側にある障害と『合理的配慮』」2019年8月1日9時28分

しかし、職場による「合理的配慮」の範疇で重度障害のある人の介護をまかなうことの問題も同時に指摘されてきました。

「合理的配慮」は、職場や学校等、障害のある人が活動する組織や事業主にとって「過重な負担」でない範囲で調整や支援を行いましょう、というものです。そのため、職場や議会が負担することを当たり前としてしまうと、資金に余裕がある職場でしか重度障害者が働けなくなる懸念があります。

車椅子で移動する人のためのスロープを用意するとか、聴覚過敏のある人のために座席配置を工夫するとかいった合理的配慮は、比較的安価に実現可能でしょう。しかし、継続して介護が必要な重度障害のある方の介護費用を、職場が継続してまかない続けることは、かなりの金銭的負担となります。

実際、2018年度の厚労省の障害者雇用実態調査では、身体障害者を雇う事業所の中で、配慮事項で「通勤」を挙げたのはわずか22%に留まるとの結果でした。

どこまでを公費負担とするかは確かに難しい問題ではありますが、こうした課題に対応するための制度改正の検討が必要な時期に来ていることは間違いないでしょう。

「介護を受ける」と「働く」が重なる時代がやってきた。

制度改正を巡る議論が活発化したのは、舩後氏・木村氏の当選をきっかけにした参議院での対応や、それに応じた世論の高まりが大きなきっかけでしょう。ただ、彼らの当選以前から、制度改正に至る社会的な変化はすでに進んできていたとも言えます。

医療やテクノロジーの発達に伴い、現実として「重度障害」かつ「働ける」人たちの数が増えてきたこと、またそうした人たちにスポットが当たるようになってきたことが、近年の大きな変化でしょう。

現在注目されている事例のひとつが、オリィ研究所が開発した分身ロボット「Orihime」による、自宅にいながらにしての就労です。先日も、障害のあるスタッフが自宅にいながらにしてロボットを操作し、カフェでお客さんにドリンクを提供する公開実験イベント、「分身ロボットカフェDAWN」が期間限定で開かれました。

分身ロボットOrihimeによる「カフェ接客」の様子(筆者撮影)
分身ロボットOrihimeによる「カフェ接客」の様子(筆者撮影)

もちろん、ロボット以外にも、チャットやビデオ通話など、すでに一般に普及したインターネットサービスを活用することでも、障害のある方の就労可能性は格段に広がってきています。

現状ではこうしたテレワークであっても、給与を受け取る「就労」という形態になれば、重度訪問介護サービスの利用対象外となります。重度障害のある方は、たとえテクノロジーによって物理的に「働ける」ようになっても、謝金を受け取らずボランティアとして働くか、働いている間は介護ヘルパーを断り、トイレや水分摂取などを我慢したり、ヘルパーの代わりに家族に介護してもらったりといった対応を余儀なくされるのです。

こうした事例から示唆されることは、「介護を受ける」ことと「働く」が重なる、併存可能な時代がやってきたということです。

これまでは、重度障害のある人たちのほとんどは、働きたいと思っても働けない状況にありました。そうした時代においては、重度障害のある人たちの支援については、就労はスコープに入れず、日常生活のケアだけで十分である、というような発想、逆にいうと、自力で働けるような人たちには重度訪問介護は必要ないという発想が、暗黙の前提となっていたのかもしれません。つまり、「介護」と「就労」の分離です。

ですが、「支援を受けながら働く」ということが、実態として可能になってきた現在、「介護」と「就労」の重なりを、法律論としてもしっかり捉えていくべき時が来ているのだと思います。

厚労省による支援策の検討では、高収入の重度障害者にどの程度自己負担を求めるか、雇用主のいないフリーランスへの支援はどうするか、個別企業の経済活動への支援に税金を使うことへの理解をどう得るかといった、さまざまな論点が挙がっているとのことです。

障害のある方の就労可能性を広げる上で、制度改正は大きなインパクトをもたらします。実際の制度設計を検討される方々は、難しい課題に取り組まれていることと思いますが、今後の展開を期待しています。