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それでも増えつづけるこども食堂 コロナ禍でわかった居場所の本質

湯浅誠社会活動家・東京大学特任教授
こども食堂全国箇所数調査2020結果のポイント」より(むすびえ提供)

こども食堂5,000箇所を超える

こども食堂が全国で5,000箇所を超えたことがわかった*1。

昨年から1,300箇所増えていた。

2020年2月以降のコロナ禍にかぎっても約200箇所増えた

なぜか。

コロナ禍の多様な被害の中で

11月、日本小児科学会(予防接種・感染症対策委員会)が出したレポートには、コロナ禍によって起こる様々な問題に、子どもたちが深刻な被害を受けている、と書かれている。

日本小児科学会「小児のコロナウイルス感染症2019(COVID-19)に関する医学的知見の現状(第2報)より
日本小児科学会「小児のコロナウイルス感染症2019(COVID-19)に関する医学的知見の現状(第2報)より

その深刻な被害は、さまざまな形で表れてきている。仕事やアルバイトをなくした人も多いだろう。家でのDV被害も増えたと聞く。

自殺した人は、5ヶ月連続で前年より増えている。

こども食堂をしている人たちは、そんな痛みをひしひしと感じとっているからだ。

つながりつづけようとする人たち

では、彼らは何をしてるのか。

食事を出している、宿題を見ている。しかし何より、その人たちは「つながりつづけよう」としている。

食事も勉強も重要だが、キッカケであり、目的は「つながりつづけること」だ。

そこに、関わる人、参加する人の安心感が生まれる。

居場所は「ありのままの自分でいられる場所」と言われる。居場所を居場所として成り立たせている背景には、この「つながりつづけよう」とする意思がある。

それが居場所の本質だということが、コロナ禍ではっきりした。

緊急事態宣言下、学校も閉鎖、イベントもすべて中止だった。

そんな中でも、こども食堂の人たちは動き続けた。

居場所を開けられなければ食材や弁当を配布した。

地元スーパーと交渉して駐車場を借り、即席のドライブスルー弁当配布を行った団体があった。

文通を始めた団体もあった。

どんな状況下でも、つながりつづけようとする意欲を失わなかった

食材配布用に用意された食材(グランマ宇和島提供)
食材配布用に用意された食材(グランマ宇和島提供)

痛みを自分ごととして感じるから、こども食堂の人たちは動きを止めなかった。

そして、新たにそんな居場所は昨年よりも1,300箇所以上増えた。

つながりは暮らしに不可欠

今年の夏、私は帰省しなかった。今度の正月もあやしい。

実家の母親は79歳。昨年から要介護だ。

しかし幸い母親は地域のつながりがあって、私は心配しつつも「何かあったら連絡してもらえるだろう」と思える。

もし、母が誰とも確かなつながりがなかったら、と考えるだけで不安になる。

同じような心配をしている人が、今、全国に多くいるのではないかと思う。

誰かとつながっていることは、暮らしに不可欠であることが、今回のコロナ禍でよく分かった。

人々は、そのことを実感し、行動している。

こども食堂を始めとする地域の居場所は、暮らしに必要不可欠な場だ。

ソーシャル・ディスタンス、フィジカル・ディスタンスが叫ばれる今だからこそ、もう一度「つながりつづけること」の意味と価値を考える年末にしたい。*2

*1:筆者が理事長を務めるNPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえの調査による。

こども食堂全国箇所数調査2020結果

*2:密を避けつつ「つながる」ためには、準備と工夫がいる。むすびえでは、日本小児科学会理事らの制作協力の下、「こども食堂向け新型コロナウイルス感染症対策 安全・安心自己点検シート」と「こども食堂感染症対策宣言ステッカー」を制作し、厚労省等からの後援を得た。

こども食堂感染症対策宣言ステッカー(むすびえ提供)。自己点検シートで全項目にチェックがつくと、このステッカーを掲示できる。
こども食堂感染症対策宣言ステッカー(むすびえ提供)。自己点検シートで全項目にチェックがつくと、このステッカーを掲示できる。

社会活動家・東京大学特任教授

1969年東京都生まれ。日本の貧困問題に携わる。1990年代よりホームレス支援等に従事し、2009年から足掛け3年間内閣府参与に就任。政策決定の現場に携わったことで、官民協働とともに、日本社会を前に進めるために民主主義の成熟が重要と痛感する。現在、東京大学先端科学技術研究センター特任教授の他、認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長など。著書に『つながり続ける こども食堂』(中央公論新社)、『子どもが増えた! 人口増・税収増の自治体経営』(泉房穂氏との共著、光文社新書)、『反貧困』(岩波新書、第8回大佛次郎論壇賞、第14回平和・協同ジャーナリスト基金賞受賞)など多数。

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