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失業率には表れない 一日で昨年度1年分、二ヶ月でリーマン時3年分の2倍超 緊急小口貸付の現場

湯浅誠社会活動家・東京大学特任教授
社会福祉協議会の窓口には相談者が殺到している(写真:アフロ)

失業率は2.6%だが……

2.6%。

今日、4月の失業率が発表された。

3月の2.5%に比べて増えたとはいえ、0.1ポイント。アメリカの14.7%(4月)に比べるとはるかに少ない。コロナ感染者数同様、日本は失業も低く抑えられているようにも見える。

ただし、ニッセイ基礎研究所の分析にもあるように、1)そもそも「分母」である労働力人口減が、「分子」である就業者数の減少幅を小さく見せている面があったり、2)失業してはいないが、仕事に出ていない「休業者」が400万人増と、2.6%という数字に表れない要因にも注意する必要がある。

そして今日、「2.6%」ではつかみきれない暮らしの痛み具合が、よりクリアに見えるもう一つのデータが発表された。

一日で昨年度1年分を超える

・平日一日あたりの件数が120件。昨年度の年間件数91件を一日で超える

・実施二ヶ月の件数は2,665件。リーマンショック時三年間の件数1,158件の二倍以上

そんなショッキングなデータが並ぶ現場がある。

生活に行き詰まった人たちが当座の生活費(上限20万円)を借りる「緊急小口資金等の特例貸付」の現場だ。

今日、この貸付の実施主体である滋賀県社会福祉協議会(滋賀県社協)が、コロナ危機の下で特例貸付が実施された3月25日以来の実態を「現状レポート」にまとめた。

申込者の年代は、30〜50代の勤労世帯が4分の3、

自営業が4割(4月)を占める、と言う。

(30代女性・飲食業)客足が遠のき売り上げが激減した。当面の生活苦のため借入を申し込みます。

(40代男性・運送業)妻がパートに出ているがコロナの影響で臨時休業になり子どもを見てもらえず、仕事に行くことが難しく給料が減ってしまいました。子どもが自宅にいるために食事や生活面での出費が増えたので貸付を希望します。

(60代男性・農業)台風で農業施設が壊滅的な被害を受け収入が激減。なんとか農業を続けるよう本年もがんばってまいりました。順調に生育し出荷まであとわずかのところへコロナの影響で納入先ストップです。すべて廃棄となりました。何卒農業を続けさせていただきたくお願いいたします。

事例紹介には、利用者の切実な声が並ぶ。

「生活困難爆発」

滋賀県のコロナ感染者発生数は、多くはない。4月こそ週あたり21人、32人、24人と増加の兆しを見せたが、5月に入ってからは週あたり1人、2人、2人、1人と、新規感染者はごく少数に止まっている。

他方、貸付件数は3月23日以来、週あたりで4→68→240→423→465→264→679とうなぎのぼり。

2つのグラフを並べてみると、「感染爆発」を抑えこむ一方で、「生活困難爆発」とも言うべき事態の起こっていることがわかる。

(滋賀県社協提供。右グラフは総合支援資金貸付件数)
(滋賀県社協提供。右グラフは総合支援資金貸付件数)

約3割には子どもも

また滋賀県社協のレポートには「5月以降は、派遣労働者を含む常勤雇用者からの申込も増加傾向。失業ではないが日数が激減という状況が多くみられる」という指摘もある。

先に紹介したニッセイ基礎研究所のレポートは休業者の急増に注意を促しているが、休業を強いられた人たちの生活困難が、現場にはすでに表れ始めているということだ。

さらに気になるのは「貸付を受けた世帯のうち、小学生以下の子どもがいる世帯が29%(約770世帯)」という実態だ。

あたりまえだが、多くの働く人たちの先には、その人たちが食べさせなければならない子どもがいる。

”復興格差”を懸念

緊急小口貸付の全国の件数は28万1434件(5月23日まで。厚労省発表)。

滋賀県の件数の105倍だ。

今回、このような内訳を出したのは滋賀県社協が全国初で、他県の実態はわからない。

だからこそ、このデータは数字の向こうでどんな人たちのどんな暮らしがあるのか、それを想像するための貴重な手がかりとなっている。

全国で緊急事態宣言が解除された。

「第2波」を懸念しつつも、経済や暮らしは徐々に“復興”していくだろう。

しかしそのときに“復興格差”が生まれることを、私たちは過去に繰り返し経験してきた。

今回がそうならないという保証は何もない。

復興期は、快復のスピードに個人差が出るだけに、緊急事態宣言下で「みんなが大変」な時期に比べて、より一層「取り残され感」が深まりやすい。

滋賀県社協は、この実態を受けて、困窮世帯の子どもたちにプレゼントを送れるよう「140万県民ひとり50円ファンド」を呼びかけている。

「みんなが大変」だった時期を忘れず、暮らしの厳しい人たちに目を向け続ける――それも私たちの「新しい生活様式」の一部にしたい。

(注)

1、滋賀県社協のレポートは以下でご覧になれます。

http://www.shigashakyo.jp/uploads/6987ca3f48dbcb7f2b67947513b05ad6-1.pdf

2、筆者は滋賀県社協のアドバイザーを務めています。

(5月30日16:39滋賀県社協レポートの一部データ修正に伴い、リンク先を変更)

社会活動家・東京大学特任教授

1969年東京都生まれ。日本の貧困問題に携わる。1990年代よりホームレス支援等に従事し、2009年から足掛け3年間内閣府参与に就任。政策決定の現場に携わったことで、官民協働とともに、日本社会を前に進めるために民主主義の成熟が重要と痛感する。現在、東京大学先端科学技術研究センター特任教授の他、認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長など。著書に『つながり続ける こども食堂』(中央公論新社)、『子どもが増えた! 人口増・税収増の自治体経営』(泉房穂氏との共著、光文社新書)、『反貧困』(岩波新書、第8回大佛次郎論壇賞、第14回平和・協同ジャーナリスト基金賞受賞)など多数。

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