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私が「ファミマこども食堂」を歓迎する理由

湯浅誠社会活動家・東京大学特任教授
店舗のイートインスペースに掲げられた「ファミマこども食堂」のプレート(筆者撮影)

「ファミマこども食堂」始まる

コンビニチェーンのファミリーマートが、今日、「ファミマこども食堂」を実施した。

今年2月1日、「『ファミマこども食堂』を全国で展開する」と発表したことに基づく。

首都圏でテスト実施を重ねてきての、今日の開催だった。

懸念の声もあるが……

ファミマこども食堂については、一部から懸念の声があがっているという。

「ファミマこども食堂に対する世間の見方は好意的なものが目立つ。だが、貧困対策に取り組む関係者らからは、違和感や批判的な声が上がっている

(東京新聞、2月15日「こちら特報部」)

私自身、「貧困対策に取り組む関係者」の一人だが、「ファミマこども食堂」を歓迎している。

東京新聞でも、こども食堂を運営しているNPO法人「豊島子どもWAKUWAKUネットワーク」の栗林知絵子理事長は「子どもを見守る姿勢を企業が示すのは大歓迎」と話している。

また、私は「NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ」の理事長で、全国のこども食堂運営者らと日常的にコミュニケーションしているが、懸念の声より歓迎の声を聞くことの方が多い。

もし、東京新聞の報道や一部ネットの意見をもって、「ファミマこども食堂」が何か「ケチのついた取り組み」だと見られたり、せっかく関心を持ってくれた店舗のオーナーさんが「やめておこうかな」となったり、ひいては企業一般が社会貢献活動意欲を低下させるようなことが万一にでもあれば、それは子どもたちに大変申し訳ないことだし、地域・社会にとっての損失だ。

そのため、私自身の意見を述べることにした。

2つの誤解があるのかもしれない

2つの誤解があるのかもしれない。

A:ファミマこども食堂への誤解

B:こども食堂への誤解

順に述べていこう。

ファミマに子どもの見守りができるのか?

A:ファミマこども食堂への懸念は、主に2点あるようだ。

1)ファミマに「子どもの見守り」や「福祉的対応」ができるのか?

2)フランチャイズの店舗オーナーやアルバイト店員らに対する「労働強化」「強制ボランティア」になるのではないか?

1)については、まず、ファミマを含む全国のコンビニは、すでに「子どもの見守り」をやっている

子どもだけでなく、高齢者や障害者も対象に、自治体と連携して「地域見守り協定」の類を結んでいる例は多数ある。

(一例として、静岡県の「地域安心見守り協定」

見守りは「できるのか」ではなく「すでにやってるよね」ということだ。

店舗に貼られている各種見守り協定のステッカー(筆者撮影)
店舗に貼られている各種見守り協定のステッカー(筆者撮影)

もちろん、どこまで十分にできているのかについて議論はあるだろうし、きっと改善の余地もあるだろう。

だが、「やるべきでない」という意見にはならないだろうし、これについて批判があるという話も聞かない。

できる人・企業・団体が、できることを、できる範囲でやればいい、とみんなが思っているからではないだろうか。

登下校中の子どもたちの見守りに立ってくれている地域の人たちに「もっとできないんだったら、そもそもやるな」という人はいないだろう。

ファミマに福祉的対応ができるのか?

次に「福祉的対応ができるのか」だが、今度は逆にこども食堂運営者の大半は福祉分野の人間ではないという単純な事実を指摘したい。

こども食堂の運営者は「地域で孤独な子どもや大人を減らしたい」と願う、おばちゃんやおばあちゃんたちだ(おじさんやおじいさんもいるが)。

なかには民生児童委員さんや社会福祉士のようなプロの方が始める場合もあるが、それはむしろ少数だ。

今の地域の現状に「自分に何かできることはないか」と感じた人たちが、「食事をつくって一緒に食べることならできる」と始めたケースが圧倒的に多い。

そして、ファミマ店舗のオーナーはその98%がフランチャイズ経営者で、その中には元は酒屋さんやタバコ屋さんだった地域の「おっちゃん、おばちゃん」もいる。

あるオーナーさんが地域への貢献として公民館で始めた場合は歓迎されるが、自分の使えるリソースとしてファミマの看板で始めたときは歓迎されないというのは、残念な話だ。

ファミマこども食堂で出されていたおにぎりなど(筆者撮影)
ファミマこども食堂で出されていたおにぎりなど(筆者撮影)

そして、福祉分野の人たちでないから「福祉的対応ができない」かと言うと、それも違う

これは、福祉的対応とは何か、貧困問題に対する理解、に関わるので、後述する。

労働強化に結びつくのではないか?

これについては「恵方巻き」と見るか「こども店長」と見るか、だと思う。

懸念を表明する人たちは、コンビニ業界や郵便業界、その他多くの業界で散見されるような「フランチャイズと言っても対等ではなく、ときに本社から厳しいノルマを課される」という問題を、「ファミマこども食堂」にも読み込もうとしている。

たしかに、有名になった恵方巻きや特定商品のキャンペーンなど、本社がフランチャイズに過酷なノルマを押し付け、それが現場を苦しめるということは起こってはならないし、ひどい実態があれば批判・告発すべきだ。

労働強制、食品ロス、低賃金労働……これらの問題について、私は「ないだろう」と言うつもりもないし、批判を「おかしい」と言うつもりもない。

しかし、今回の「ファミマこども食堂」がその「恵方巻き」のようなケースに当たるかと言えば、違うだろうと思っている。

今回は、どちらかといえば「こども店長」に近い。

「こども店長」は、ファミマが実施している社会貢献事業で、子どもたちに「お仕事体験」を提供しようとするものだ。

「こども店長」は、フランチャイズ加盟店の手上げで実施される。

ファミマ本社は、「こども店長」を実施する店舗に補助金を出す。

「恵方巻き」と「こども店長」の最大の違いは、ファミマ本社の利潤だ。

恵方巻きは、売れば売るほど会社が儲かる。こども店長はそうではない。

勢い、前者は利益を追い求めてフランチャイズに圧力をかける傾向が生まれるだろう。

しかしこども店長には、本社にそのようなインセンティブは働かない

それが、良くも悪くも「社会貢献事業」の宿命だ。

今回の「ファミマこども食堂」は、ファミマにとっては「こども店長」の系列に属する取り組みだ。

ファミマ関係者によれば、開催した店舗に対してファミマ本社から支援金が出る

金額は非公開だが、支援金には実際に提供する食費に加えて、人件費相当額が盛り込まれている。

したがって「恵方巻き」と違い、利益追求のために「何が何でも開催しろ」とフランチャイズに圧力をかける経済的なインセンティブがファミマ本社には存在しない。

わが子のレジ打ち体験を記念撮影するおかあさん(筆者撮影)
わが子のレジ打ち体験を記念撮影するおかあさん(筆者撮影)

だとすれば、現場の「労働強制」や「強制ボランティア」になる可能性は低いと言わざるを得ない。

むしろ、食事スペース(イートインスペース)が10席以上ある全国2,000店舗で開催すると言うが、本当に2,000もの店舗で開催できるのか、その心配の方が私には強い。

以上が、Aの「ファミマこども食堂」に対する誤解だ。

こども食堂は福祉の専売特許!?

次に、Bのこども食堂への誤解に移ろう。

こども食堂に関わっている私の立場からすると、この点に関する誤解の方が、ある意味では深刻だ

こども食堂への誤解については、以下の点に尽きる。

「こども食堂は貧困対策であり、主に福祉分野のもの(専売特許)だ」という誤解だ。

まず、こども食堂は「貧困対策だけの場所」ではないし、「福祉分野のもの」でもない

こども食堂は、地域交流の促進と子どもの貧困対策の2つの側面(機能)をもつ活動であり、その多くは多世代交流型の地域交流拠点として運営されている。

参加人数の多いところは、一度に300人以上が参加するが、それは「地域にとりわけ食べるに困っている子どもが多い」ことを意味するわけではない。誰もが参加できる地域交流拠点だから、それだけの人が集まっている。

この点、ファミマが「地域のこどもたちや近隣の皆さまが、共に食卓を囲みコミュニケーションできる機会を提供することで、地域の活性化につなげてまいります」と謳っているのは、こども食堂の実態と意義をよく理解した表現だ。

多世代交流、地域交流を通じて、地域活性化に資するというのは、まさに多くのこども食堂が求めている点だからだ。

子どもと食事を介して、参加した家族同士の間に会話が生まれる(筆者撮影)
子どもと食事を介して、参加した家族同士の間に会話が生まれる(筆者撮影)

こども食堂の担い手は多様

また、こども食堂は「福祉分野のもの」などではない。

こども食堂の担い手は多様だ。

近年では自治会長やお寺の住職、PTA関係者、個人の飲食店(営利事業者)が行うこども食堂も増えていて、担い手の多様化が顕著だ。

福祉分野にかぎらず、より多様な人たちが参画しているのが、こども食堂が2年間で2,000箇所以上増えた最大の要因だ。

それはこども食堂の豊かさの証であって、本来あるべきこども食堂からの「逸脱」ではない。

「自発性と多様性」がこども食堂の生命線であり、そこには企業が自ら、それぞれの態様でこども食堂を展開することも含まれている

もちろん、子どもを集めて親に高価な商品を買わせようといったような悪意をもって開催されるこども食堂は論外だが、「地域のこどもたちや近隣の皆さまが、共に食卓を囲みコミュニケーションできる機会を提供することで、地域の活性化につなげてまいります」という趣旨で開催される「ファミマこども食堂」を、「自発性と多様性」が生命線のこども食堂の“仲間”から排除する理由は、何もない

それは多くのこども食堂の趣旨でもあるからだ。

福祉分野の人じゃなければ福祉的対応ができない!?

同時に「貧困対策だけではない」し、「福祉分野のものでもない」からといって「福祉的対応ができない」と決めつける理由もない。

子どもの育ちにプラスになることが、ここで言う「福祉的対応」なのだとしたら、福祉分野以外の者でも「福祉的対応」は可能だ

「福祉的対応」には、経済的に大変な子を公的サービスにつなげるという面もあれば、じっくり話を聞く中で本人の気持ちの整理を手伝うという面もあれば、地域の人たちとの多様な交流やさまざまな体験を通じて、人生の選択肢が広がることを支えるという面もある。

子どもや人々のよりよき暮らし、よりよき生(Well-being)を実現するのが「福祉」だとすれば、それは本来、福祉分野で働いてそれでメシを食っている人たちだけのものであるはずがないし、あってはならない

こども食堂は、何度行こうがお金をくれるわけではない。

その意味では、こども食堂は経済的な貧困対策としては無力だ。

しかし、そこには関わってくれる大人がいて、子どもたちがその人たちからいろんなことを感じ取るのだとすれば、こども食堂は「つながりの貧困」や「心の貧困」に対して有効であり、それも立派な「福祉的対応」であり「貧困対策」だ。

こども食堂の取り組みだけで、子どもや家庭を取り巻くすべての問題が解決すると思っているこども食堂関係者は、おそらく一人もいない。

多くの人たちが「これくらいしかできないが、これくらいならできる」という思いで始め、そして続けている。

そしてその取り組みの輪が、今や全国に3,000とも3,500箇所ともいう規模で広がっている。

こども食堂は「貧困対策だけの場所」ではないし、「福祉分野の人たちによる取り組み」でもない。

でも、子どもの育ちを応援しよう、地域のにぎわいを取り戻そうという人たちが、自分のできる範囲で、自発的に、創意工夫を発揮して、多様に展開し、「福祉的対応」をしている

「ファミマこども食堂」が、忙しいお母さんたちに、子どもと向き合ってゆっくり食事できる時間を提供し、そして子どもたちに、ふだん行くコンビニの冷蔵庫の裏側を見られたり、レジ打ちなどの体験を提供してくれるなら、それが何かのきっかけになって親子の関係が変容したり、仕事というもののイメージを変える子どもがいるかもしれない。

一人でもいい。そのような子や家庭が出れば、「ファミマこども食堂」の取り組みは成功だ、と私は思う

それが世の中を1ミリでも進めるということだから。

多くの人・団体・企業の協力があってこそ

こども食堂は、多くの人・団体・企業の協力があって、運営されている。

企業と連携・協働している事例は全国各地にあり、挙げ始めればキリがない。

農協(JA)や生協はもちろん、ファミマだけでなくセブンイレブンもローソンも、食品メーカーも金融系の企業も、こども食堂を直接・間接に支えてくれており、こども食堂運営者のほとんどは、そのことをありがたく受け入れている。

そしてそれは、企業の不都合に目をつむることとイコールではない。

「是」を「是」とし、「非」を「非」とすれば、それでいい。

ファミマさん、こども食堂の世界にようこそ!

3歳の子に一生懸命話しかけていたスタッフがいたので、後で聞いてみたら、彼の子も3歳だとか(筆者撮影)
3歳の子に一生懸命話しかけていたスタッフがいたので、後で聞いてみたら、彼の子も3歳だとか(筆者撮影)
社会活動家・東京大学特任教授

1969年東京都生まれ。日本の貧困問題に携わる。1990年代よりホームレス支援等に従事し、2009年から足掛け3年間内閣府参与に就任。政策決定の現場に携わったことで、官民協働とともに、日本社会を前に進めるために民主主義の成熟が重要と痛感する。現在、東京大学先端科学技術研究センター特任教授の他、認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長など。著書に『つながり続ける こども食堂』(中央公論新社)、『子どもが増えた! 人口増・税収増の自治体経営』(泉房穂氏との共著、光文社新書)、『反貧困』(岩波新書、第8回大佛次郎論壇賞、第14回平和・協同ジャーナリスト基金賞受賞)など多数。

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