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孤立する人のいない“にぎわい”をつくる こども食堂とSDGs

湯浅誠社会活動家・東京大学特任教授
SDGsロゴ(国連広報センターHPより)

こども食堂は「福祉っぽい」イメージ?

岡田武史・サッカー日本代表元監督をこども食堂にお連れした際、岡田さんは帰り際にこう言った。

「ちょっと言いづらいんだけど……

申し訳ないけど、もうちょっとみんなが『すみません』と言って入ってきて、『ありがとうございます』と言って帰っていくような場所かと思ってた」

こども食堂を訪問した岡田武史さん(左)(筆者提供)
こども食堂を訪問した岡田武史さん(左)(筆者提供)

そう。どこか参加者が肩身を狭くしているような、いわゆる「福祉っぽい」場所だと、人はこども食堂をイメージしている。

誰かからそう言われなくても、なんとなく、いつの間にか……。

しかし岡田さんがそうだったように、行ってみるとイメージは一変する。

子どもは部屋から部屋へ、所狭しと駆け回る。

お母さんたちは、子どもが勝手に遊んでてくれるので、おしゃべりに夢中。

主宰者のおじさんは、そろそろ晩酌がしたくなって、「帰れ、帰れ」と(笑)。

……こんなにぎやかな場所だったんだ。

岡田さんでなくても、初めて訪れて、そういう感想を抱く人は多い。

「にぎわいづくり」としてのこども食堂

それもそのはず。

こども食堂の大きな目的の一つは「にぎわいづくり」だから。

地域を見回して「さびしくなったなあ」と感じる人は多い。

商店街がさびれたし、人が歩いているのを見る機会が減った。子どもが群れて遊んでいる風景とか、しばらく見ていない。

地域の接点も減った。保育園のママ友やPTA・自治会役員でもなければ、地域の人たちが知り合う機会など、なかなかない

そうした中で、地域の人たちが集まる場をつくろう、みんなで食べるって楽しい、孤食対策にもなるし食育にもなる、忙しいお母さんたちにほっとできる場所を、お年寄りが地域の子たちと触れ合う機会を、

と広がっているのが、こども食堂だ。

3年で10倍、今や全国に3,000箇所を超える

にぎわいのある風景(NPO法人全国こども食堂支援センターむすびえ提供)
にぎわいのある風景(NPO法人全国こども食堂支援センターむすびえ提供)

つながりを提供する貧困対策

同時に、こども食堂は子どもの貧困対策でもある。

お金を配るわけではない。

が、交流と体験、「つながり」を提供する

親とは違う大人、お年寄りのしぐさや匂い、子どものような大人のような若者たち……。

子どもはそうした交流と体験を通じて、価値観を広げ、人生の選択肢を増やしていく

みんなで鍋をつつくって、テレビでしか見たことなかったけど、本当にあることなんだ。

コロッケを出されて「なにこれ」と言った。

「包丁ってなに?」と聞いてきた……。

「あたりまえ」の生活体験が不足している子には、なにげない日常が驚きに満ちた体験になりうる

「ふつうの子」にとっても同じだ。

私自身、「男で料理する人」に初めて会ったのは、障害のある兄のボランティアとして家に来てくれた男性だった。

私の父は、一切料理をしなかった。

あの人に会わないままだったら、「男で料理するなんてヘン」と感じる大人になっていたかもしれない。

体験って、貧困家庭の子にはもちろん、そうでない子にもとても大事だ。

「にぎわいをつくりたい。そこからこぼれる子どもを減らしたい」

地域交流拠点と子どもの貧困対策の両面をもつこども食堂は、「にぎわいをつくりたい。そこからこぼれる子どもを減らしたい」という思いで成り立っている。

特定の子を指して、「あんた大変そうだから、ごはん食べさせてやる」というのではない。

みんなで一緒に食べる中に自然に包み込む。

だから、みんなが行ける。みんなで食べられる。

そこには、輪からはじかれる人のいない形で、みんなでにぎわいを楽しみしたい、

それでこそ本当のにぎわいをつくれる、気兼ねなくにぎわいを楽しめる

という思いがある。

小さい頃、障害のある兄を混ぜて草野球をやっていた。

そのとき、車イスで私たちと同じように走れない兄をどうするかと考えて、最初に編み出した「答え」が、兄を監督にするというものだった。

でもそれは、すぐに失敗だとわかった

兄も「体よくハブられた」とわかってしまうからだ。

だから、つまらなさそうにしている。

つまらなさそうにしている人がじっとこっちを見ているというのは、盛り上がれないものだ

気になって仕方ない。

「真のにぎわいは、そこからはじかれる人がいない状態でつくれる」ーーそれは私の実感でもある。

SDGsの思いとこども食堂

そして、この思いはSDGsの思いでもある。

SDGsとは、2015年に世界中の国と地域が合意して定めた世界目標のこと。

SDGsは、「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」の略。

17の項目ごとにゴールを定め、2030年までにそのような世界を実現しようと呼びかけている。

それが、次の世代にも、次の次の世代にも、この地球が引き継がれていくために必要だ、と。

日本も、もちろん参加している。

来年の東京オリンピック・パラリンピックは、初の「SDGs五輪」にすると言っているし、

経団連は、SDGs特設サイトを設けて、取組みの推進を促している。

個々の企業にも、経営方針にSDGsを採り入れる企業が増えつつある。

そして、このSDGsのメインスローガンが「誰一人とりのこさない世界の実現」だ。

世界的に飢餓をなくし、男女平等を進め、食品ロスを減らし、温暖化を食い止める。

最貧国に生まれてしまったから、女性の社会進出が許されないから、太平洋に浮かぶ小島だから、世界の発展から取り残されても仕方ない、

――そう言わずにがんばろう、ということだ。

「開発」と言うと、ビルを建てたり橋を造ったりという土木開発をイメージしがちだが、

「development」は、人の成長、まちの活性化、地域のにぎわい、を幅広く含む。

つまり、SDGsの思いは「世界の持続可能な開発・発展・成長・活性化・にぎわい(development)は、誰一人とりのこさない世界の実現によって可能になる」という理屈になっている。

これは「真のにぎわいは、誰一人取り残さない地域の実現によって可能となる」というこども食堂の思いと重なっている

この世界の当事者として

こども食堂は、17の項目に則して言えば、

1番・貧困をなくそう

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2番・飢餓をゼロに

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3番・すべての人に健康と福祉を

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11番・住み続けられるまちづくりを

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17番・パートナーシップで目標を実現しよう

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に直接関わる。

他の12項目にもコミットしているこども食堂も、個々にはたくさんある。

だが、より重要なのは、そのメインスローガンがこども食堂の思いと重なっている、ということだ。

どうしてそうなるのか。私はこう思う。

SDGsを意識してこども食堂を始めたという人の話を、私は聞いたことがない。

「SDGs?聞いたことない」というこども食堂の運営者もたくさんいる。

でも、こども食堂を始めた人たちは、地域を見ている

地域からにぎわいが失われ、こぼれる子どもがいて、このままではうちの地域はずっとは続かないんじゃないか、子どもや孫が帰ってこられなくなるんじゃないか、次世代に自信をもって譲り渡せる地域にならないんじゃないかという危機感を抱いて、こども食堂を始めている。

そして、課題先進国・日本の地域には、世界が共通して抱える課題がいくつもある。

地域で自主的・自発的に始めたことが、世界の課題を集約したSDGsの一番大切な思いと符合する(同期する)のは、考えてみれば不思議ではない。

国連のスタッフは、この世界の現実を見ながら、この世界の現実をなんとかしようとして、一生懸命各国のとりまとめを行なっただろう。

地域の女性たちも、その地域の現実を見ながら、その地域の現実をなんとかしようとして、こども食堂を始めた。

両者に共通するのは「この世界(地域)の当事者として、自分にできることは何か?」という問いだ。

その問いの答えが結果として符合するのは、たまたまだが、必然でもある

足元を見つめて

「SDGsに絡めて何かしたいんですが、何をしたらいいか」と戸惑う企業のCSR(社会貢献)担当者や社会問題に関心の高い学生に会うことがある。

その方たちにはぜひ、足元(地域)を見ることをお勧めしたい。

地域の取組みをじっくり見て、関係を作って、思いを知れば、SDGsは遠い国連の話ではなく、身近なところで、身近な人たちが「わがこと」として取り組んでいるものだということがわかるはずだ。

そこにSDGsにつながる普遍性が宿っている

(以下、参考)

外務省SDGsページ

外務省 「持続可能な開発目標」(SDGs) について

NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ

社会活動家・東京大学特任教授

1969年東京都生まれ。日本の貧困問題に携わる。1990年代よりホームレス支援等に従事し、2009年から足掛け3年間内閣府参与に就任。政策決定の現場に携わったことで、官民協働とともに、日本社会を前に進めるために民主主義の成熟が重要と痛感する。現在、東京大学先端科学技術研究センター特任教授の他、認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長など。著書に『つながり続ける こども食堂』(中央公論新社)、『子どもが増えた! 人口増・税収増の自治体経営』(泉房穂氏との共著、光文社新書)、『反貧困』(岩波新書、第8回大佛次郎論壇賞、第14回平和・協同ジャーナリスト基金賞受賞)など多数。

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