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北京五輪出場 韓国の「メガネ先輩」は平昌の後どう過ごしていたのか?

(写真:ロイター/アフロ)

18日までオランダで行われていたカーリングの北京五輪最終予選。大会最終日に女子韓国代表(チーム・キム/江陵市庁)が北京五輪代表出場権を獲得した。

プレーオフで日本(ロコ・ソラーレ)に敗れた後、ラトビアと対戦。8-5で勝利し、最後の出場枠を得たのだ。

同予選に参加していた男子代表など韓国勢すべて予選敗退するなか、女子代表が唯一の北京五輪出場権獲得となった。

「出場確定」記事の反応は…

「チーム・キム、ラトビアを下し女子カーリング北京行き…平昌の栄光を再び」(SPOTV)

この見出しの記事が、現地大手ポータルサイト「Daum」のデイリーアクセスランキングで41位に。これが最高位だった。韓国時間18日夜のニュースだった影響や、翌19日にはサッカーのソン・フンミン(トッテナム/イングランド)がリバプール戦で活躍したこともあり、他のニュースに押されたかたちとなった。

そこには平昌後の4年間の苦境も影響している。はっきり言って明るい話題は少なかった。氷上でのトレーニングもままならぬ苦境に陥っていた。

「ヨンミ~」の掛け声で大人気に 

平昌五輪で銀メダルを獲得した後、彼女たちは「田舎町の同じ高校出身の4人によるストーリー(チームは5人構成で、うち一人は別地域出身)」により韓国で社会的な人気を得た。

日本でも「めがね先輩」の存在が知られるようになったが、韓国ではその日本漫画由来のニックネームよりも、「チーム・キム」の名や「ヨンミ~」の掛け声で有名になった。

チーム全員の姓が「キム」。ただしチーム名の由来は「メガネ先輩」ことスキップのキム・ウンジョンが由来だ。リーダーたる彼女のチーム、ということ。「チーム・キム」とは、日本の「ロコ・ソラーレ」と同じチーム登録名で、所属は「慶北体育会(体育協会)」だった。

また、リーダー格の「メガネ先輩」が競技中に、白熱した様子でチームメイトを呼ぶ姿も大人気に。

「ヨンミ~」

  • ヨンミ~ が国民の人気語に、と報じた当時の「KBS」

これが、韓国ではちょっぴり昔風のありふれた名前ということもあり、彼女たちの代名詞に。五輪の試合中継ではマイクを通じて慶尚北道のいい感じのなまりも伝わった。「田舎の仲間同士が世界の舞台で戦っている」姿が感動を呼んだのだ。「ヨンミ~」のフレーズは、本当に記事の見出しや冒頭部分でも多く使われた。

2018年、五輪後に苦境が始まる

では、2018年2月の平昌五輪後どうしていたのか。

同年3月に世界選手権に出場。五輪出場国の多くが欠場するなか、韓国の「チーム・キム」も本来は出場の予定はなかったが、国内でのカーリング人気を受け、予定を変更。しかしここでは準決勝敗退に終わっている。

さらに8月には国内でも敗退を喫する。「チーム・キム」として出場した韓国選手権の決勝戦で春川市庁に敗退。韓国ナンバーワンの座から滑り落ちた結果、チームは韓国代表の権利も失ってしまった。

そしてこの年の10月、大きな出来事が起きる。

幼少期から過ごした地元慶尚北道義城(ウィソン)郡にあり、平昌五輪時も所属先だった「慶北体育会」に対する不満を暴露したのだ。

そこまでの行き過ぎた指導体制や暴言に対する不満を伝える会見を開催。「美しい田舎町のストーリー」の破綻は、メディアの大きな注目を集める騒動となった。

この騒動により、地元の貴重なトレーニング施設であるウィソンカーリングセンターは年末までクローズ。またこの時期、スキップである「メガネ先輩」が妊娠(2018年7月7日に結婚)のためチーム活動を休むこととなった。

翌2019年はメガネ先輩の活動休止などもあり、7月国内選手権を3位で終えるなど全体的に低調な流れに。12月に復帰後、スコットランドでの国際大会に優勝したのが数少ない成果だった。

コロナ時代 連盟のゴタゴタに巻き込まれ…

2020年はより厳しい時間となった。

新型コロナの影響が大きく及び、氷上トレーニングすら出来ない状態が続いた。

そんななか、7月に国会で記者会見を再び開いた。2018年に不正を追求した慶北体育協会のスタッフが、何の説明もなく復職しているという点を訴えるためだった。

苦境のなか、11月にはメガネ先輩も復帰したチーム編成で韓国選手権に優勝。見事に韓国代表の資格を取り戻したかに見えたが…翌2021年10月頃までかなり苦しい時期を過ごすことになる。

大韓カーリング連盟がすぐに「チーム・キム」の韓国代表資格を認めなかったのだ。これは連盟側が「チーム・キム」のイム・ミョンソプコーチに下した資格停止処分が理由だった。2020年に「偏った選手選出で韓国選手権に一部選手を出場させなかった」という点に対するものだった。

イムコーチ側は事実無根として処分の撤回を求めてきたが、連盟側は「2021年1月に新会長選挙があり、その判断にも委ねなければならない」と回答をせず。時間稼ぎをされたような状態となった。

2021年1月14日に新会長が選挙により決まったが、まだゴタゴタが続いた。連盟側の会長選挙管理委員会が「不正選挙」として無効を主張。訴訟にまで持ち込まれた。

結局「チーム・キム」の韓国代表資格問題は、2月の連盟側の「1年限定の代表資格認定」によりひとまず解決した。

一時は「サークル」の状態に 

しかし、同月にもまた厳しい出来事が起きる。

所属の慶北体育会(体育協会)との再契約が失敗に終わったのだ。体育協会側の理由は「年俸の水準が合わなくなった」。これは「チーム・キム」のみならず、同体育協会所属の冬季五輪種目選手の多くに当てはまったことだという。協会側は「現状維持ライン」を全選手に提示したが、平昌五輪の活躍によりブランド力の上がった選手たちは首を縦に振らなかった。

2021年2月、北京冬季五輪1年前にしてメガネ先輩率いる「チーム・キム」は、自主活動するサークルのようなかたちとなってしまった。所属先はなし。サポートもなし。所属先のみならず、連盟からのサポートもほぼなくなってしまった。

ただし、この状態はなんとか1ヶ月程度で終わらせることができた。

平昌五輪の開催地となった江原道の中心地、江陵市の市役所が救いの手を差し伸べたのだ。3月4日にチーム全員を迎え入れ、江陵市庁の女子カーリング部を創部することを発表したのだ。

その後もコロナ禍でトレーニング環境はなかなか整わなかった。今回の北京五輪出場権獲得の際、韓国メディアはこぞってこう報じた。

「オランダに行く前、チームとしてしっかりと準備が出来たのは、実質2ヶ月だった」

前回の平昌五輪での「地方の小さな町からの美しいストーリー

」から、今回は「主張して望む立場を得るアスリート像」へ。北京の舞台でモデルチェンジした彼女たちはどんな姿を見せるだろうか。

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。フォローお願いします。https://follow.yahoo.co.jp/themes/08ed3ae29cae0d085319/

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