15日14時を最後に、「DHCコリア」がオンライン上の”グッバイセール”での購入受付を終えた。韓国撤退が伝えられてきた日本化粧品ブランドの実質上の「現地営業終了」だ。あとはセール商品の配送業務や清算などが残る、というところか。

今回の韓国撤退は、現地でどう報じられているのか。そして何を見るべきか。

DHCは2002年4月に「DHCコリア」を設立し化粧品販売事業を開始。有名女優を起用したテレビCMや、今では少なくなった「電話注文」の手法で一躍認知度を上げた。日本語をそのまま使った「すべすべDHC」という広告コピーでも知られ、「ディープクレンジングオイル」などが大ヒット。「ファイナンシャルニュース」によると「一時は年間100億ウォン(約9億3600万円=2021年9月15日のレート基準)売り上げを記録した」。

いっぽう近年は、同社吉田嘉明会長や日本法人の子会社が運営するYouTubeチャンネルでの”嫌韓発言”が韓国でも報じられてきた。差別的表現をここで繰り返すのは控えるが、外見に関する発言や、日本国内での競合会社の広告モデルを「全員韓国系」とする内容などが複数回あった点を韓国メディアは指摘している。

そういったなかでの今回の撤退について、韓国の一部メディアでは2019年8月に始まった「NO JAPAN運動の勝利」とまで報じている。

注目すべきは「正面衝突」だった点 

9月1日夜に韓国内で第一報が報じられたこのニュース。多くの媒体が報じた2日の韓国大手ポータルサイトでの「デイリーランキング」ではじつのところ、50位以内にも入らなかった。

はっきり言って日本企業の韓国撤退関連で話題となった「ユニクロのソウル明洞中央店閉店決定」(2020年12月5日)よりも関心度が低い。

「”ソウルの原宿”と言われる街で、一番目立つ場所にあった店が撤退したわけで、そのインパクトと比べれば少し落ちますね…イメージは『00年代にTVのCMで有名になったブランド』ということです。CMで使われた電話注文の際の番号『7575333』の記憶もありますね」(筆者の取材に応じたソウル在住の50代男性)

近年は「韓国国内の市場でもKビューティーが人気で、JビューティーたるDHCは押され気味だった」(マネートゥデイ)とも報じられている。

とはいえ、注目すべき点は前述の通り「NO JAPAN」関連の報道があった点、そして「嫌韓」という日本側からの動きがあった点だ。2つの流れが”衝突”した出来事でもあるのだ。ユニクロの件ではいうまでもなく、後者が存在しなかった。

2019年8月から関係がより悪化する日韓関係では、じつのところ「真っ向からぶつかる」という事象は多くはない。日本による「ホワイト国除外」では韓国は「徴用工判決の報復を経済という別ジャンルでやるべきではない」と抗議。しかし日本はあくまで「韓国の貿易管理体制が緩いから」と返した。またその発端となった徴用工判決では、日本側は韓国裁判所からの通告を「ほぼスルー」している。

参考記事:「NO JAPAN不買運動が原因?」 ユニクロ”韓国進出の象徴”明洞店が閉店へ 韓国内のリアルな反応(筆者による)

現地主要メディアの報道ぶり

9月2日に発表となった同社の韓国撤退を、現地主要メディアはこんな見出しで伝えている。

「嫌韓の発言で自ら首を絞めたDHC、韓国撤収決定」(最大手の経済紙「毎日経済」)

「嫌韓を助長 日本の化粧品企業DHC、19年目にして韓国撤退」(国内最大の通信社「聯合ニュース」)

「”絶壁頭で韓国系を区別” 嫌韓発言の日本企業DHC、結局(韓国から)撤収」(保守系大手紙「朝鮮日報」)

「企業も善人でこそ生き残る」(革新系大手紙「ハンギョレ新聞」/6日の同タイトルの有識者コラムを掲載)

なかにははっきりと「NO JAPAN運動」の影響と断定するメディアもあった。

「NO JAPANの勝利…”すべすべ”日本のDHC、嫌韓の対価大きく」(「マネートゥデイ」)

「嫌韓の発言が物議 DHC韓国事業から結局撤収…”NO JAPANの力”」(「スポーツ京郷」)

関連ニュースを報じるJTBC。「嫌韓・妄言にふけったDHC、19年目にして韓国撤収」

NO JAPAN運動、その具体的内容とは? 

国内大手メディアの見出しにこそは使われなかったが、今回の撤退は2019年8月からの「NO JAPAN運動」と関連性があったと韓国では見られている。引き金となったのは、日本のDHC子会社が運営するYouTubeチャンネルでのこの主旨の発言だった。

「韓国は元々熱しやすく冷めやすい国。日本はじっとしておこう」(2019年8月12日)

まさに韓国側の「NO JAPAN運動」に対する発言だった。

その後の展開から、ある点を知ることができる。「NO JAPAN運動(日本製品の不買運動および日本に旅行に行かない運動)」の実態だ。じつは2019年8月以降、日本でもこの点はあまり報じられてこなかったのではないか。

「JTBC」によると、まず12日から韓国の主要なオフラインでの化粧品販売業者が売り場に同社製品を置くことを取りやめた。

まさに「売り場からの追い出し」があったその日、JTBCは当時のソウル市内のドラッグストア店長のコメントを紹介した。「本社の方針で取りやめた。おそらく全国の他の売り場でも同じだと思う」

またオンラインでも化粧品業界の販売サイトで一斉に「DHC」の検索ワードで検索結果が出ない処置がなされた。

さらに広告モデルも出演を取りやめた。

また「時事ウィーク」はこういった点も「NO JAPAN運動」の一環だったとしている。

「DHC会長の過去の嫌韓発言も蒸し返された。吉田会長は2016年からサイトを通じ「在日(在日韓国人・朝鮮人)は祖国に帰ってほしい」などと嫌韓発言を行ってきたことで知られる」

こういった動きのなか、板挟みの状態になった存在もいる。今回撤退を決めたDHCの韓国現地法人だ。2019年8月13日、キム・ムジョン代表が公式サイトに「謝罪文」として苦しい心情を吐露した。

「DHCコリアは代表を含めすべてのスタッフが韓国人であり、みなさんと同じ感情で放送の内容を確認しました」

「物議を醸していることに深くお詫びします」

「DHCコリアは(日本)本社のDHCが運営するDHCテレビにいかなる関与もしておらず、またこのチャンネルに出演したすべての出演陣の発言に対して同意しません」

「韓国人を卑下する放送内容の中断を要請します」

いっぽうで大手経済紙「毎日経済」などが、吉田会長による「韓国メディアは卑下しているというが、事実に基づく正当な批判」という主旨の発表内容を紹介している。

意外な”後日談” 「愛用してきたから…」

2019年8月からの「NO JAPAN運動」開始から約2年で撤退の決まったDHCコリア。

ところが、この話には意外な後日談があった。同社サイトでの「閉店セール」が大盛況となっていたのだ。

2日に始まったオンラインセールでは、50%割引などを実施。「ニューシス」の調査によると「4日後の9月6日にして全体の80%が売り切れ」。化粧品(コットンなどの小物を除いたもの)に関して言えば、2種類を残してすべて売り切れとなった。

最後のセール中だったDHCコリアのサイト
最後のセール中だったDHCコリアのサイト

同メディアは、オンライン上の顧客のこういった反応を紹介している。

「50%なんだからサイトにアクセスして買わないと」

「不買運動(NO JAPAN)が始まって忘れていたけど、以前は使っていたので最後に買った」

「相手の悪口を言いながらも買ってる自分が笑える」

「何を塗っても肌の内側の乾燥がキツくて苦労してきたが、DHCは20年間愛用してきた。クリーム、クレンジングオイル、クレンジングフォームなどなど…。嫌韓があったから別の会社を使わないと、と思っているけど子どもたちも愛用しているので、なかなか代わりを見つけられない」

15日14時を最後に「商品は存在しません」という表記に切り替わった
15日14時を最後に「商品は存在しません」という表記に切り替わった

もちろん今回の撤収騒動に対して寄せられる言葉は「さよなら。戻ってくるな」「悪口言いながらも金儲けって何事?」 といった厳しいものが大多数だ。

それでも商品は高く評価されていたのだった。DHCコリア側は今回の撤退についてサイトを通じ「良い製品とサービスにより顧客の皆様に満足いただこうと努力してきましたが、残念ながら(韓国)国内の営業を終える決定をすることとなりました」とだけ通告。いっぽう、中央日報系のテレビ局「JTBC」は撤退をこう報じた。

「DHCは韓国から撤収する具体的な理由を明らかにしませんでした。しかし結局イメージ面での打撃と売上のダウンが影響を及ぼしたと見られます」

もったいない。