ソウル郊外、利川市の深夜の公園。車が次々と駐車場に集まる様子が防犯カメラに映し出される。

男たちが後部のトランクから鉄パイプや野球用の防球ネットを取り出した。

武器を持った2つの集団が対峙する。2時間ほど向き合う状態が続いたが......結局、その場での話し合いで暴動には至らず。

しかし、現場にいた44人が検挙、8人が逮捕された――。

韓国警察による後の映像分析の結果、この集まりは「夜の繁華街」での縄張りを巡っての暴力団の新旧勢力対立ということが発覚したのだ。

6月3日、複数の韓国メディアがこの話題を報じた。この映像、じつは2018年のものだ。警察は1年半かけてこれを丹念に調べ上げ、検挙に結びつけた。

なぜ、何もしてないのに? 映像から彼らが韓国の暴力団だと発覚した理由。それが韓国でニュースバリューのあるものだった。

組暴(チョポク)と呼ばれる暴力団組織 

人口5170万の韓国社会にも反社会的勢力は存在する。「組暴(チョポク)」あるいは「暴力団(ポンニョクタン)」と呼ばれる勢力だ。辞書などに掲載される”正式名称”は「組織暴力輩」。利権と利益のために暴力を行使する集団で、本人たちは「乾達(コンダル)」と自称する。

各組織は、地域の中高生の不良グループ(韓国語で「一陣=イルジン」)からメンバーをスカウトする。最初は「収拾隊員」というインターン生のような立場から始まり、正式に入門が認められると「行動隊員」といういわば「平社員」となる。そこで共同生活を送りつつ、1歳~2歳年上の先輩から暴力団員としてのありよう、礼儀、法などを学ぶ。昇進すると「行動隊長」「幹部」「顧問」などとなり、その上に、ボスである「頭目(ドゥモク)」が存在する。

「地位が高い者に対しては極めて礼儀正しく接する」「民間人は狙わない」「組織同士の戦いでは死ぬ覚悟で戦う」。これらが韓国暴力団の掟だ。このうち「民間人」の話はもはや形骸化している。実際には恐喝などの被害が報じられているのだ。この際、何が恐れられているのかというと「攻撃の対象となる本人を脅すのではなく、周囲を脅す手法」。韓流ドラマや映画でもよく見られるシーンだ。

政治家と癒着し、戦う歴史

いっぽう韓国内では国内の反社会的勢力「組暴(チョポク)」について「諸外国よりも影響力が弱い」という認識もある。今年上半期に韓国で放映された超人気ドラマ「ヴィンチェンツォ」は、イタリア系韓国人のマフィアが主人公で、韓国に渡り悪を倒すという設定だ。ドラマの公式PRの冒頭部分にこんな下りがある。

「大韓民国の国民たちは安堵して言う。韓国にはマフィア、ヤクザ、三合会、カルテルのような巨大犯罪組織がなくて幸いだと」

反社会勢力は他国よりも強大ではない、と

日本統治下から1960年代まで、韓国暴力団の主流は「政治癒着型」だった。政治家の周辺で利益、利権のために暴力的な活動を繰り広げる。なかには暴力団から国会議員まで登りつめる者もいた。

70年代に入ると政治との関係が相対的に弱まり、「多角化」していく。賭博、建設、遊興、運送、流通、貿易、芸能、金融などだ。この時代は「組暴」にとって経済的にも全盛期だった。これに伴い組織間の抗争なども活発化した。

しかし80年代から衰退していく。韓国社会の経済的な成長により豊かになると、カネを巡っての「利権争い」も古いものとなっていった。さらに90年代に入ると決定的な契機が訪れた。

1990年10月13日、時の盧泰愚政権が行った「10.13特別宣言」。当時、政権を覆すクーデターのプランの存在が明らかになった。ここに反社会的勢力である「組暴」が関わっていた。特別宣言は「暴力と犯罪との戦争を宣言する」という強い内容だった。

同政権はそれまでも、「組暴」による自国人の拉致やそれに伴う人身売買などへの強い取締を行っていたが、この宣言後に検察・警察を始めとした公権力を徹底的に強化。強い姿勢で反社会的勢力の断絶の姿勢に出た。

宣言は「政権への不満から目を背けさせるもの」という批判を浴びながらも、1年間で「組暴」関連の事件200件あまりを検挙、約700人の逮捕という結果を残した。韓国では盧泰愚政権前後にも10年周期で反社会的勢力の撲滅政策が実行されているが、そのなかでもこの「10.13宣言」は大きな契機だったと見られている。

(宣言当時の映像)

組暴のある「しきたり」が…

現在では「暴力行為などへの処罰に関する法律(暴処法)」も強い効力を発揮し、反社会勢力の活動が大きく制限されている。同法第4条では暴力団の結成、活動が禁じられ、第5条では団体の利用、支援も罰則の対象となる点が記されている。また第6条ではこれらの未遂となる行為も禁じられている。

これらの厳しい法規制の結果、「聯合ニュース」は2016年1月26日に「組暴の約37%が月収100万ウォン(約10万円以下)」と報じた。

ではなぜ今回、映像に映った44人全員が韓国の暴力団「組暴(チョポク)」だということが分かったのか? ただ夜の公園に集まっただけ。2時間ほど向き合っただけで暴動は結局起きなかったにもかかわらず。

それは、カメラに映し出されたある行動からだった。

「90度のおじぎ」

これは朝鮮半島の文化では「かなり強い敬意」とみなされる。財団法人韓国典礼研究会のサイトではこう記されている。

「結婚式での新郎新婦の挨拶、亡くなった者への弔問での敬礼、先生への感謝を伝える式典、宗教儀式で行う」

つまり「日常ではめったにやらない最高級のリスペクトを示すもの」ということ。しかし、これが、韓国の「組暴(チョポク)」の間では「ごく普通」に行われる。なぜなら「格上の者に絶対服従」の掟があるからだ。

(事件現場の別のニュース画像)

今回も暴動が起きる寸前で、その話をまとめた幹部が車に乗って帰る際に…「90度のおじぎ」をやってしまった。これがすべて撮影されていた結果、暴力団員と分かり全員が検挙、ということに。

その後の取り調べで、44人のなかには夜の繁華街の縄張り争いをするなかで、一般人を50回以上恐喝した者がいることが発覚した。捜査員はさらに「新たな団体結成の動きがあることも把握できた。この情報はなかなか掴めないので大変助かった」とメディアに話しているという。

(了)

(別のニュースでも「90度のおじぎ」が話題に)