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文在寅大統領「日本の資産売却望ましくない」発言 韓国ネット上の反応 静かななかにも”バトル”あり

2021年の新年記者会見に臨む韓国の文在寅大統領(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

18日の韓国・文在寅大統領による「日本関連の資産売却は望ましくない」発言。恒例の同国大統領による新年記者会見から飛び出したものだ。

近年の日韓関係で最大の問題点となっている「徴用工判決」そして「慰安婦判決」について、はじめて文在寅大統領からの”立場表明”として注目すべきものがあった。

一次的な報道は他記事に譲るとして、ここでは「韓国のウェブ上での反応がどうだったか」について紹介する。韓国内での関連のストレートニュースに対するコメント欄を覗いてみよう。

韓国内で大きくはない反響…その背景は?

国内最大のポータルサイト「NAVER」での反響ははっきり言って「大きくなかった」というところだ。10本ほどの関連記事が掲載されたのみ。12月上旬の「ユニクロ明洞中央店の閉店へ」は64本だったから、これと比べてもはるかに少ない。

同ポータルサイト、該当記事の検索結果の画面キャプチャ。
同ポータルサイト、該当記事の検索結果の画面キャプチャ。

文大統領による「望ましくない」発言は、前述の通り恒例の新年記者会見の一部だった。そこに「小さな反響」の背景がある。

韓国内の報道はこの会見内容全体に及ぶものが多かった。大統領出身政党の「ともに民主党」から出た「李明博・朴槿恵両前任大統領への特赦案」や、昨年からの「法相・検察間の混乱」への言及が注目を集めた。はっきり言って日韓関係はそれらに「押された」のだ。

しかし、そういったなかでも目を引く現象はあった。

最も反応が多かった「日本特派員発の記事」 

18日に国内最大の通信社「聯合ニュース」が以下の見出しで記事を発信した。

日本メディア『文大統領、資産売却回避策を模索の可能性』(と報じる)」

東京のキム・ホジュン特派員による記事だ。この話題関連のストレートニュースでもある。今回の10本ほどの記事のなかでは、これに対する反応が最も多かった。

同ポータルサイトには記事の最後に5つのアイコンが示され、読者の反応が分かるようになっている。

「いいね、興味深いね、悲しいね、怒っています、後続記事に期待、だ」

NAVER 該当画面のキャプチャ
NAVER 該当画面のキャプチャ

このうち、”怒っています”への反応が12。絶対数としては非常に少ない数字だが、それでも今回の関連報道のなかでは一番反応が多かった。

また関連の話題のストレートニュースとあって、コメント欄にはこの「徴用工判決」「慰安婦判決」、それに伴う「韓国内の日本資産売却」に関する反応が一番多かった。

あくまで、このNAVERのコメント欄はもともと「保守が強い」「革新系が巻き返しを図っている」そして「過激すぎる発言にはNAVER側からブロックがかかる」点を予め断ったうえでご紹介を。

「65年に終わった話」「それは日本の主張を言っているだけ」

以下、韓国内の読者からのリアクションが最も多かった順で紹介する。

尹美香と市民団体である正義連は(元慰安婦側から)横領したカネを受け取っていながら、おばあさん一人あたり10億(ウォン)ずつ賠償させるというのは最上のビジネス戦法だ。おそらくは(団体が)盗んだお金は一人あたり10億(ウォン)も軽く超えるだろう。外交問題を解決し、正義を具現して賠償を10倍もらえば最高ではないか。

保守派からの意見と思われる。強い論調だが、これは韓国内で慰安婦問題について2015年末の「日韓合意」以外のポイントがあることを示している。いうまでもなく支援団体のトップを務めてきた国会議員、尹美香氏関連のスキャンダルだ。昨年9月14日、元慰安婦への準詐欺罪(痴呆状態を利用し、寄付を要求)を含めて8件の容疑で在宅起訴となった。その後12月7日、深刻な新型コロナの感染状況のなか「ワインパーティー」を開催。これをSNSで投稿したところ「炎上」し、党から警告を受ける事態があった。このコメントは、彼女への反発の大きさが韓国世論にも影響を与えていることの現れだ。

コールを叫び、旗を振っていた頃はよろしかったんでしょうが…

これは現在の韓国の左派・革新系政権が理想・理念に走りすぎてしまった、という点を指摘している。「コール」「旗」は2016年末からの朴槿恵政権打倒時デモが起きた当時を指している。

最高裁判所の徴用賠償判決自体が韓日基本条約請求権協定に反するものであり、違反だ。請求協定が定めた解決法案自体を無視している。2015年に厳しい状況のなかで合意した慰安婦協定も好きなように破棄した。すでに国際社会が相手にする大韓民国政府ではない。

最後の文脈以外は日本側の主張と同一のものだ。そういった主張を堂々と繰り広げられるのだ。ちなみにこれに対して返信のコメントが4つ入った。うち3つは過激すぎたのかNAVER側から削除された。残されているひとつがこれだ。

いや違うな。国家間の条約は結んでいても、個人の請求権には影響をもたらすことができないというのが国際法上の基本だという。この内容(上のコメント内容)は日本の官僚の立場であり、日本も戦争で負けた後、サンフランシスコ条約によって請求権が消滅した後も原爆の被害者が補償を受けた事実があるだろう。

これはじつは端的に韓国側(主に左派)の主張が表現されているものでもある。

その他、コメントは反応の多い順に以下のように続いている。

(文大統領は)人気稼ぎをするカードがないからだ

文政権にそんな能力(日本側と外交交渉を行って問題を解決する能力)はない

お金は政府であれ、寄付金であれ代わりに渡すことができる。大韓民国は貧しいわけではなく、たかだかいくらなのかと…そして、おまえたち(日本)はひたすらに謝罪だけをしろ…戦犯国なのだから。

これもまた、表現は強いがある意味韓国内の考え方を表しているか。「韓国内で補償」「あとは日本との外交交渉」という報道はこれまでも幾度か出てきたものだが…。

大統領発言と世論(その反応の少なさも含め)、双方から「韓国内の日本資産差し押さえまではいかない」方向に少しずつ向かっている。そういったことも感じさせる韓国側の反応だった。

(了)

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。フォローお願いします。https://follow.yahoo.co.jp/themes/08ed3ae29cae0d085319/

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