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【あの事件その後】慰安婦支援運動の尹美香議員、在宅起訴に。「6つの疑惑」全容と今後

5月29日に会見を通じ、諸疑惑への立場を述べた尹美香氏(写真:Lee Jae-Won/アフロ)

衝撃の会見から131日めの起訴。メディアは「裁判行き」と報じる

今年5月から日韓両国で大きな話題となってきた慰安婦支援運動の資金問題。9月14日に新たな動きがあった。

「元支援団体代表の尹美香議員、在宅起訴処分に」

国内最大手の経済紙「毎日経済」はこれを端的に「裁判行き」と報じた。検察の取り調べでは疑惑は晴れなかったのだ。

尹氏は今年4月に支援団体「正義連」(財団法人)の代表を辞任後、韓国国会議員に初当選。その後、30年来ともに活動を続けてきた李容洙(イ・ヨンス/91歳)さんが会見を開き、「議員になるべきではない」「お金の使い道が不明な点がいくつかある」と発言した。5月7日のこの会見後、メディアの報道を通じて次々と金銭関連の疑惑が取り沙汰されていた。

尹氏は業務上背任などにより、5月18日に市民団体「法治主義を直ちに打ち立てる行動連合」によって検察に告発された。その後、8月13日に検察での徹夜の取り調べを終え、起訴の有無を待つ状態だった。

「慰安婦支援問題」尹美香氏、検察に出頭し取り調べを受ける。ソウル西部地検が起訴するかを決定へ。

元慰安婦による衝撃的会見から131日めの起訴。韓国でもこの話題は関心を集めた。14日から15日の「NAVER」でのアクセス数ランキング政治部門でベスト10入り。KBSは会見後の騒動を「今年上半期の韓国の大きな話題」と伝えた。「朝鮮日報」は15日に3本掲載した社説のなかに日本の菅義偉氏の自民党総裁選出を入れず、この話題を入れた。

尹氏本人は在宅起訴を「遺憾」とし、元所属の支援団体は「無理のある起訴」と反発している。所属政党であり、文在寅大統領の出身政党でもある「ともに民主党」内からは処分が下された。また対立する保守系のメディアからは「この程度では甘い。ソウル地検の特捜部を投入して徹底して捜査すべき」との声も。

8つの起訴内容の全容と、今後の尹氏の動きを。

横領、詐欺、背任……6つの疑惑とは?

今後裁判で争われる起訴内容は以下のとおりだ。韓国メディアでは「6つ」もしくは「8つ」とまとめられているが、ここではコンパクトにまとめた方に倣い、6つとする。

業務上横領

財団法人である挺対協・正義連に在籍した2011年から2020年の間に個人口座に募金された寄付金と団体公金、ソウル市麻浦区の関連施設運営資金のうち1億ウォンあまり(約8980万円)を個人的用途で使用した疑い。

  • 2011年から2018年までの間、団体としての支出根拠のない資金、証拠なしに個人口座に移した資金、また団体用の用途とは思われない領収書などがあり、2000万ウォン余り(約180万円)を個人的用途として使用した疑い。
  • 2012年からの8年間で個人口座5つを利用して3億3000万ウォン余り(約3000万円)の募金を集めた。名目は「被害者のおばあちゃんたちの海外旅行経費、弔慰金、関連基金への募金など。このうち5700万ウォンほど(約510万円)を個人的用途として使用した疑い。
  • 2018年から1年半、ソウル市麻浦区の関連施設を管理した職員名義の口座から2000万ウォンほど(約223万円)を任意で個人名義口座に移した疑い。

いずれも「個人口座の混用」に関わる点だ。これについて尹議員は、5月29日の会見にて「財団法人名義口座との区別がしっかり出来ていない面があった」という点は認めていた。

この横領の容疑について、正義連を含めた左派市民団体とたびたび対立する「朝鮮日報」は「尹氏は混用はもともと2014年からと話していたが、捜査により2012年からと発覚」と報じた。一方左派メディア「ハンギョレ新聞」は「検察は”個人的用途”が何かを具体的に示していない」と尹氏側を養護した。

準詐欺

ユン氏が活動した正義連は、2017年に「慰安婦被害者のキル・ウォノクさんが2017年に受け取った『女性人権賞賞金』のうち5000万ウォン(約560万円)を正義連に寄付」と発表していたが、検察は違う解釈をした。

重症の痴呆状態にあるキル氏の状態を利用し、2017年頃から今年1月まで合計9回、7290万ウォン(約655万円)を寄付するように仕向けたと見ている。

この準詐欺はここまで韓国メディアでも報じられておらず、今回の起訴で初めて明らかになった”新疑惑”だ。尹氏側は「キル氏を冒涜した」と反発している。

業務上背任

ソウル郊外安城の関連施設の不動産物件を市場価格より高く購入し、キックバックを受け取った疑い。約7億5000万ウォン(約6300万円)。

公衆衛生管理法違法

管轄官庁に申請せず、ソウル郊外安城市の関連施設を個人や団体に貸し、宿泊費を受け取った疑い。約900万ウォン(約81万円)。

  • 施設関連の疑惑を報じる今年4月の「聯合ニュース」

原告団はもともと「市場価格の2~3倍高く購入後、安く売却し、財団法人に損失を与えた」点を告発していた。世論の関心もそこにあったが、「売却時」は対象とならず、「購入時の価格」のみが対象となった。

補助金管理法律違反、地方財政法違反、詐欺

挺対協・正義連が運営する「戦争女性人権博物館」が、法律上の登録条件となっている「学芸員有資格者の勤務」が行われていなかったにもかかわらず、学芸員が勤務しているかのように申請した。これにより以下の補助金を不正に受け取った疑い。計3億6000万ウォン(約3230万円)。

  • 2013年から2020年までの間、政府・文化観光部(省)から、10事業で1億6000万ウォンあまり(約1435万円)。
  • 2015年から2020年までの間、8事業で1億4000万ウォンあまり(約1256万円)。
  • 2014年から2020年まで政府・女性家族部(省)からの支援事業7つについて、6000万ウォンあまり(約540万円)を受け取った。これを人件費名目で申請しながら別の用途で使用した疑い。

寄付金金品法違反

登録していない団体の口座、個人の口座を利用して約42億7000万ウォン(3億8600万円)の寄付金を受け取ったが、これを管轄官庁に申告しなかった疑い。

最大の関心事「資金を娘の留学資金に流用」は不起訴に

6つのもの疑惑が捜査によって晴れなかった点は大きなニュースとなったが、じつのところ、最大の注目ポイントについては不起訴処分となった。

「挺対協正義連の資金を使用に流用し、娘の留学費用や不動産購入に宛てたのではないか」という疑惑。

この点は「流用はなかった」と判断された。これが含まれていれば批判の声はより大きくなり、政権の根幹にまで関わる話となっていたはずだ。

現在の韓国では、「既得権益層の不正による家族への便宜」は最も忌み嫌われるものだからだ。「チェ・スンシル(朴槿恵前大統領弾劾の引き金となった友人)」は娘の裏口入学疑惑、「チョ・グク(いわゆる”たまねぎ男”)」も同じく娘の裏口入学。そして現在、韓国で最も批判される「チュ・ミエ(現法相)」の息子の徴兵回避疑惑もすべて同じ話だ。

2017年に「保守・右派の既得権益層の不正を正す」という役割を期待され、誕生した左派の文在寅政権。しかし左派とて同じことではないか、という点が次々と取り沙汰されているのだ。

尹議員と所属政党側の反応。「遺憾」、そして処分も

韓国内での今後の注目点は懲役1年以上を巡って争われる裁判の「判決」、そして尹議員の辞職があるかどうかだ。

尹議員は14日にまず、自ら党内で務める委員としての活動を自粛することを表明した。本人はそれまで党委員(中央党中央委員)、代議員、ソウル市内の乙支路運営委員を務めてきたが、これを「裁判で潔白が証明されるまで辞し、一党員としての活動に専念する」とした。

本人は15日の国会で今夏の集中豪雨関連の質問(ダムは計画通り作っているのか)をしたものの、その他の発言をせず。インターネット、SNSを通じ意見を表明した。

「検察による強引な起訴は遺憾」

「補助金の不正受領の疑惑は必要な資料を提出した。検察側は歪曲、他者を非難するようなことをしてはなりません」

「今日の捜査結果発表により、日本軍の慰安婦問題の解決運動の30年の歴史と大義を崩すことはできません」

「国家と国民の危機に処した難しい状況のなかで、私の事件により国民の皆様に心配をおかけし、恐縮です。これからも国会議員として役割に忠実に国難克服のために最善をつくすことを約束します」

いっぽう、16日には党側からの処分が発表になった。党内に新設された倫理観察チームにより以下の処分が下された。

「党員権停止」

これは「除名ではないが、党内の意思決定に参加できない」という処分。

ただし、一部韓国メディアは「ともに民主党党内では当分の間、党内外での選挙は予定されておらず、尹議員に実質上の影響はない」とする。

周囲の反応。元慰安婦は「起訴は全く残念ではない」

いっぽう”反対派”はもちろん黙ってはいない。

17日、韓国国会で103の議席を有する最大野党「国民の力」(与党「ともに民主党」は180)が「懲罰案」をまとめた。「国会からも何らかの懲罰を下すべき」として議案を国会に提出したのだ。同党は15日の党内の会議の様子をメディアに公開し、「尹議員は議員辞職もしくは党から除名されるすべき」と発信していた。※「国民の力」とは、9月2日に「未来統合党」が改名したもので、旧来の保守第一党の流れを継ぐ中道保守政党。

この「懲罰案」の根拠となる内容を「KBS」、「聯合ニュース」など主要メディアも報じた。

「国会法第25条 国会議員の品位維持義務違反」

「国会法第155条 国会議員倫理綱領違反」

また、18日には「ともに民主党」内の党員処分の不均衡も反対派の批判対象となった。財産の申告と不動産投機の不正疑惑を持たれた男性議員が、不起訴処分となったにもかかわらず除名となったのだ。ならばなぜ、尹議員を残すのかと。より右派傾向の強い政党からは「人生をかけて詫びろ」といった強い発言もあった。詳細は控えるが。

最初に会見を開いた李容洙さんは「中央日報」に対し、「起訴について残念に思うことはひとつもない」「(善悪は)法が決めること」とコメント。5月7日の会見時にも「後は検察が決めること」と発言していた。

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。フォローお願いします。https://follow.yahoo.co.jp/themes/08ed3ae29cae0d085319/

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