【K-POP論】「まずは心のままに」。8月来日チョンハの振付師チェ・リアンが語る「ダンスの作り方」

8月下旬に来日するチョンハの最新曲「Snapping」の振付担当チェ・リアンさん

踊る、ということとは。

身体だけで表現するという、シンプルでありながら難しい行為。人が踊っているのを観るべきものなのか、あるいは自分で踊ってみるものか。きっと多くが一度は踊ったことがある。幼き日に。でもいつしか「踊る人と踊らない人」の間にはラインが引かれてしまう。シンプルだからこそ、難しいのだ。

彼女はダンスを作る。

自分でもちょっと踊るけれど、人が踊って人に観てもらうために、作る。

それはシンプルで、自由でありながら「制限」を掴んでいくような行程だ。

自ら振り付けした「Snapping」の動画を観ながら語るチェ・リアンさん@ソウル/本稿写真すべて筆者撮影
自ら振り付けした「Snapping」の動画を観ながら語るチェ・リアンさん@ソウル/本稿写真すべて筆者撮影

ソウルに暮らすチェ・リアンは振付師として、7月のK-POP音楽番組で1位獲得を連発したチョンハの「Snapping」のダンスを手がけた。8月に来日する彼女に関わる振付師のグループの一員として、携わったのだ。

「Snapping」は、ソロシンガー・チョンハが繰り出す独特の世界観により、多くの女性の共感を生んだ。

裏切りを犯した彼氏が別れ際に見せる、少し弱い姿に心が揺れる。

でも先に進む。「Snapping(指を鳴らして)」。

現地音楽番組より。2019年6月。公式アカウント。

チェ・リアンはいう。

「振付を考えるとき、まずは好きなように踊ってみます。その後『広く受け入れられるように』という修正を加えて行くんですよ。今回の楽曲は、曲の盛り上がり部分であるサビで指を鳴らす動きが好きですね」

トップシーンで活躍する振付師の思いとは? チョンハの8月の来日に先立ち、ソウルで話を聞いた。

8月24日、25日に来日するチョンハ。今年6月の「Snapping」ショーケースにて@ソウル
8月24日、25日に来日するチョンハ。今年6月の「Snapping」ショーケースにて@ソウル

「少女時代を聴いて、踊っていました」

――まずは簡単なプロフィールを。

チェ・リアンといいます。K-POPの世界で、振付師として活動しています。 私も元々は、K-POPを聴きながら、一緒に踊っていた子どもでした。ダンスを初めたのは中学校2歳の頃です。韓国では、学校ごとにダンス部があるんです。そこに入部した、ということですね。先輩に教えてもらいながら、ダンスを学んでいきました。その後専門学校で本格的に学ぶのですが、とにかく楽しみながら今に至っていると思います。他に得意なこともなかったので。

――子供の頃はどんな曲を?

ワンダーガールスの「Tell Me」、少女時代の「タシ マンナン セゲ(Into The New World)」などです。

 少女時代「Into The New World」(2007年)

――ああ、そういう世代で! 日本の多くのファンがK-POPを知るようになったのは2010年からです。その頃からのファンが聴いていた楽曲と少し重なる部分もありますよね。少女時代は2010年9月に「Genie」で日本デビューしていますから。いまおっしゃった曲も少女時代が日本に出てきた頃、よく聴いたものです。

はい。その頃に中学生だったということは……およその年齢が分かっちゃいますね! その後、もっとダンスを学びたくなって、「ロッキング」というジャンルを学びました。ストリートダンスの一環ですよね。チョンハも取り組んできたものです。これをより深めるために、専門学校に進みました。

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――ダンスを学ぶ、というのは動作を学ぶものなのですか? あるいはその感性を学ぶもの? あるいは空手のように型があるんですか?

ストリートの場合は、”基本技”を学びますよね。ロッキングというジャンルは、腕を多く使うので、その基本技を学びます。その後に応用動作。そうやって学んだのちに、少し違うジャンルのものをやっていく、というところでしょうか。

――確かに、チョンハのダンスは腕や首、顔の表情を使ったものが多いように感じます。ちなみに、リアンさんご本人も振付師以外に、ステージに立つ活動もされていますか? 

M-netの「ダンシンライン」という番組に出演して、良い結果を得たこともあります。ただ、どちらかといえば自分自身がダンサーとして出るよりは、振付師として活動することが多いですね。フリーランサーの身です。今は、各事務所の練習生のダンストレーナーとしての活動の割合も多いです。

チョンハと、振付チームと。お互いに話し合いながら完成していく

――では、本題の「Snapping」のダンスの話に移りましょう。

私も、公式MVにちょっと出ているんですよ! 今回は。よーく見ていただくと、ショートカットのダンサーが、チョンハの後ろにいます(50秒あたりから)。

Snapping。2019年6月。事務所公式。

――今回の振り付けを担当した経緯は?

チョンハとはもともと、ダンスの専門学校で一緒に学んだ仲です。ありがたいことに、前作の「すでに12時」に続いて振り付けの依頼をいただけて。前作に続き、振り付けのグループを組んで仕事に取り掛かりました。曲全体のプロデュースをするチームからイメージをいただき、そこからパートごとに全体のダンスを組み立てていったというところですね。チョンハが男性と踊るパート、イントロ部分、といった具合に。

――振り付けをする、という作業、いったいどうやって着手するのですか?

まずは”フリースタイル”で曲を聞きながら心のままに踊ってみます。そのなかから「お、この動作がよさそうだ」というものをピックアップしていきます。様々なスタイルがありますが、私はそうやって作っていくことが多いです。

――K-POPを楽しんでいる人たちは、きっとリアルな社会で「言葉で説明する」ということを求められていると思うんです。学校でもそう、会社でもそう。するとこの「非言語」から生まれるダンスは素晴らしい非日常でもありますよね!

そうですよね。確かに「チョンハのスタイルがこうだから、こうする」「こちらのほうがより広く受け入れられる」といった論理的な部分もあるんですが、ベースはまず、自由に感じるままに踊ってみるというところにあります。

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――今回の「Snapping」の振り付けで特に考えた部分とは? 

サビの部分で「Snapping」、つまり指を鳴らす動きが出てきます。これは私自身もすごく気に入っている部分です。ここをチョンハのスタイルに合うように、ということは考えましたよね。彼女にはヒップホップのイメージもよく似合うので、そこを出していこうと考えました。また、体のライン、特にヒップのラインがどうすれば綺麗に見えるか、そして指の動きでどうやって感情を表すのかも。チョンハ、よく指を使ったダンスをやるでしょう? こういった点も含めて「チョンハがどう見えたらかわいいか」という点も重要です。

――アーティスト本人の意見も多く反映されるものなのですか?

はい。本人はもちろんダンスが上手いですし、モチベーションも高い。だから時折、「オンニ、こういうふうに踊ったほうが良いと思うんだけど」と意見を言ってくれます。そこはできるだけ反映するようにします。逆にこちらから、「こうしたほうがいいよ」と意見しながら、完成していく時もありますし。実際、曲によってリズムや雰囲気というのが大きく変わりますから、セオリーが当てはまらないことも多いんですよ。仮にイレギュラーなことがあったとしても、チョンハはこれを理解して消化することができます。この点も彼女の良さだと思いますよ。

6月下旬、「Snapping」でのショーケースのチョンハ。指を鳴らすポーズを披露した
6月下旬、「Snapping」でのショーケースのチョンハ。指を鳴らすポーズを披露した

――同じ話を、「すでに12時」の作曲家、ブラックアイド・ピルスン先生もしていましたよ。理解して消化するのが上手いと。

だからこそ、彼女は「ステージ上で実力を発揮できる」という評価を得ているんだと思います。

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ダンスの流れの作り方「まずはサビ部分を」

――振り付けをする時、当然歌詞の意味も考えて作っていくものでしょう?

そうですね。今回のSnappingの場合、「I know I know」という歌詞で「分かってるわよ」という指の仕草を見せます。わかりやすい例です。K-POPの世界には様々なダンススタイルを好む歌手がいます。振付師としては、そこに合わせてダンスを考えていくのも重要な仕事です。そういったなかでも、私はチョンハとダンススタイルが近い。それはそれで、ストロングポイントとして生かしていきたいところです。

公式MV パフォーマンス編

――ちなみにこの「Snapping」はダンススタイルとしてはどういった系統に入るのでしょうか。

ひとつに絞って決めることは難しいですよね。振付をする側とチョンハの感性が混じり合ってできたもの、と説明するのが1番わかりやすいと思います。ひとつ言えるのは、今回の楽曲はチョンハのもののなかでも、ダンサーが多い方です。だから、少し派手さを出したかったという考えはありますよね。なんというか、言葉で言うのは難しいですが、「うわっうわっ」といった感じを出したいと思ったんですよね。

――まさに非言語世界です。興味深い。いっぽうでチョンハはソロの歌手です。グループの振り付けと違った部分はありますか?

彼女と一緒に仕事をするダンサーは、グループのように常に一緒に行動していないメンバーもいます。変動性はありますよね。だからこそ、ピタッとはまればよりチョンハの存在を大きくする「翼」のような役割を果たせると思うんですよ。一緒に仕事をしていて、楽しいですよね。そういったメンバーと。

――チョンハのカバーダンスをやるときには、本人役を取り合ってケンカしないようにしないといけませんね! バックダンサーも大きな役割を果たしている、と。

こだわりと、一般性と。バランスを考える

――ダンスには一曲の中での構成があるでしょう。作るとき、曲の冒頭から作っていくものでしょうか。あるいは、サビなどを先に?

私たちのチームの場合は、サビからつくることが多いですね。なぜなら”ポイントダンス”という言葉があるくらいに、ここのパートは目立つものなので。今回のSnappingの場合は振付師4人のグループでまず話し合って、サビ部分を考えました。その後、それぞれの個性を活かすべく、「ここのパートは合いそうだから、担当して」といった具合で分担しあって考えましたね。よくやるやり方です。そして一度曲を通して繋いだものをチョンハに見せる。彼女からのフィードバックが来ます。「オンニ~ この部分はこうやってくれたら嬉しい」という風に。先ほども言った通り、できるだけ彼女の意向を受け入れます。あるいは振付のグループ自ら「ここは踊りを複雑にしすぎ」という修正を入れたりします。

――複雑、というと?

幅広い層に見ていただくことを考えるんですよ。あんまり凝りすぎたものにすると、退屈をされてしまいます。だからシンプルにするんです。その修正はよくありますね。特にチョンハの前作「すでに12時」では「最大限にシンプルに作ろう」と心がけましたね。同じ動作を繰り返す部分が多かったと思います。今回の曲は、少し私たち振付師グループの好みを入れていってもいいんじゃないかという話をしましたよ。だからお互いが自分たちのやってみたいことをスパークさせ、冷静になって修正を入れながら作ったのが、今回の「Snapping」のダンスです。

――ダンスが複雑、というのは2つの側面があると思うんです。ひとつは、筆者のようなおじさん、一般大衆が見て「なんだこりゃ?」と思うような動き。もうひとつは、「ダンスを真似してみたい」という女性、あるいはもっと専門的にカバーダンスをやっている若い女性にとって「複雑」なのか。

うーん、率直なところまず考えるのは、「広い一般層にどう伝わるか」という点です。グローバルに考えるよりも、まずはやっぱり韓国で受け容れられるかどうかが重要ですよね。韓国でしっかり認知されてこそ、外の世界にも出ていけるわけですから。最近は「T.T」のようなわかりやすいポイントダンスが流行でしょう。その流れを掴むことが重要ですよね。ポイントダンスはそれほどに慎重に考えるものなんです。

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心のままにまずは身体を動かしてみる。最初に着手するのは「一番目立つところから」。やりたいことを盛り込んで、まずは徹底的に尖らせる。「アーティストがどうすれば映えるのか」などを考えながら。

そして、その後の修正は徹底的に「第三者の目」で。「Snapping」のダンスはそうやって作られた。「自由」の意味を履き違えることなく、広く理解されるように作られたのだ。最後に、日本でK-POPのカバーダンスをやっているダンサーたちへのメッセージを聞いた。

「ぜひチョンハの指の動きにもご注目いただきたいです。彼女はそういった細かい点の表現が上手いので。私自身、去年10月のチョンハの日本ファンミーティングの際、新宿の会場に行きました。ステージに立つことはなかったですが。今年の8月ももしかしたら現地に行けるかもしれませんね」

「Snapping」ダンスプラクティス動画。事務所公式