【W杯現地レポート】日本戦の前日に訪れた「関心度最低ゲーム」、韓国ースウェーデン戦で感じた”熱量”

現地時間18日15時開始の韓国ースウェーデン戦会場に向かうサポーター

アメリカの『ヤフースポーツ』が独自に行なったランキングによると、このゲームは”ロシアW杯で”最も関心の低い試合”なのだという。

18日に行われたグループリーグFの「韓国ースウェーデン戦」。同メディアは「地味な試合」、「(アメリカ時間の早朝に始まる)この試合を観るより睡眠」とバッサリ切り捨てたのだという。

現地でこれを観てきた。

本稿写真すべて筆者撮影
本稿写真すべて筆者撮影

ロシアW杯の現地サポーターの朝は早い。

多くにとっての交通手段、ロシア国鉄は開催都市間を夜間に移動するものが多いからだ。モスクワから一番近いニジニ・ノブゴロドでも、夜行で7時間強。22時すぎに出発すると、日付が変わった5時30分頃に現地に着く。降車後、駅でしばし時間の待合室で仮眠を取り、6時頃(駅前のマクドナルドがオープンする時間でもあった)からボツボツと動き始めるサポーターが多かった。試合開始は15時だから、「一日がかなり長い」という印象だ。

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ニジニ・ノブゴロドの中央駅から一駅地下鉄に乗ると、中心街に着く。ここにあるファンフェスタ(パブリックビューイング)会場を歩くと、すでにそこは真っ黄色。目抜き通りのカフェはどこもスウェーデンのサポーターで占拠されている。日差しは強いが、湿度は低い。オープンカフェで試合前の時間を過ごすにはうってつけの気候だった。

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10時45分頃、目抜き通りにオリエンタルな太鼓と銅鑼の音が響いた。韓国の伝統衣装を来て、パフォーマンスを繰り広げている。ロシア人と思しき女性の姿も多く含まれている。

現地ニジニ・ノブゴロドを中心とした「韓国文化センター」の面々だった。

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60万人いると言われる、旧ソ連圏のコリアン。韓国、朝鮮といった表現ではなく、「高麗人」とも呼ばれてきた。

筆者自身もほぼ初めて接する存在だった。20年前のソウルでの留学時代、周囲はほとんどが日本とアメリカからの学生だったという頃、語学学校のクラスにひとりサハリンから来た韓国系の女子生徒がいた、というだけ。

リーダー格で、ニジニ・ノブゴロドで暮らす韓国人の3世だというユーラ・シンさんに率直に聞いた。祖先がここに来たのは、日本の影響でしょうと。

「はい、日本統治下の1936年ですね。祖父がウラジオストックに渡りました。その後、旧ソ連の政権の以降で中央アジアのカザフスタンに移住することになった。生活は非常に厳しいものだったと聞きます。なぜなら中央アジアに暮らす韓国人は現地の言葉をほとんど覚えられなかったからです。すると職業に制限があった。だから父の世代で旧ソ連へと移り住みました。次の世代にはしっかりとロシア語を学ばせ、より豊かな生活を、と考えたのです」

かなり流暢な韓国語だった。

周囲に韓国語を話す人はおらず、ネットの動画で学んできたのだという。

「へぇワールドカップ、ロシアであるんだな、という程度にしか思っていなかったんですが、まさかここで韓国の試合があるとは! じっとしていられなかったんですよ」

ああ、この地でこんな形で試合を待つ人もいるんだな、と思わされた。言ってみれば、82年の流れを経てこの地で韓国と出会う。そういう機会だったのだ。

文化センターの一行には、ロシアの若い女性も相当含まれていた。韓国代表を応援する赤いシャツをおそろいで着ている。グループに出会って30分後くらいに直感が当たった。太鼓や銅鑼使った伝統的な踊りの後、彼女たちはK-POPのダンスを始めたのだった。たぶん近頃流行りの女性グループ「レッドベルベット」の曲を踊っていたと思う。たぶんだ。

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韓国1500 vs スウェーデン30000。

こういった数字もメディアで取り上げられる試合になった。

率直なところ、このゲームでの一番のインパクトは「スウェーデンサポーター」だった。

試合前、会場近くでデモ行進のような行列をつくり、大声で歌っていた。これを観た韓国の中年の女性ファンは驚き、不安そうに「ああ…道を塞いでるわね…」と声をあげるくらいだった。

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日本でも近年、クラブワールドカップで話題になってきた南米クラブサポーターのような”思い思いに熱狂を表現”といったイメージはない。最前列でリーダー格が煽る形で歌やコールが続く姿も少し違う。それでもほぼ男性、という一行が大声を張り上げ、シンプルな歌を繰り返し歌い、スタジアムまでの通りを席巻していた。

そういった彼らの姿でもっとも印象に残ったのが、試合後に勝利を相当喜んでいたこと。

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試合後、中央駅近くのピザ屋で食事を採っていると、スウェーデンの男性サポーターの6人グループが入店してきた。試合後3時間経っていたが、まだずっと大声で歌っている。こちらから、かつてストックホルムのAIKでプレーした日本とのハーフ選手、シュテファン石崎の話題を振ると、一気にあちらと打ち解けた。

率直に聞いた。「アジアの国にたくさんシュートを打った。でも決まらず、PKで勝った。別の角度から考えると、腹立たしくないの?」と英語で聞いたところ、こんな返事が帰ってきた。

「ノー! 3ポイント!3ポイント!」

そうやって手で3の数字をつくる。スウェーデンは今大会が06大会ドイツ以来の出場。細かいことはあまり気にせず、まずは結果という考えがあるから、大喜びする。そういうことなのだ。久々の出場というプレッシャーもありうるだろう。日本と韓国のサッカーシーンを眺める限りでは、久々に感じた。「久々の出場国の、内容はさておき、勝利を喜ぶ感覚」というものを。

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確かに試合は、第三者的に観れば”地味”だった。試合を通じて多くチャンスを作ったスウェーデンが韓国を崩しきればまだ派手になったのだろうが。

韓国は大会直前でキム・スンギュ(ヴィッセル神戸)と入れ替わり出場機会を得たGKチョ・ヒョヌ(テグ)の好守が最大の見せ所だった。GKを替えた理由はシン・テヨン監督いわく「結局は親善試合での結果がチョのほうがよかった」。

大会前までほとんどテストしてこなかった、197センチFWキム・シヌクを前線に据えた4-3-3のシステムは機能せず。前半の終盤にあったソン・フンミンによる右サイドからのカウンターが最もスタンドを沸かせたシーンだ。しかしソンはシュートを選択せず、中に折り返してしまった。「初戦で最低でも勝ち点」の目標は果たせなかった。

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試合観戦に訪れていた20代の男性韓国人サポーターはこう口にしていた。

「このグループでは一番勝利が期待できた試合だっただけに、本当に残念。グループFはドイツが初戦で敗れたために、残りのスウェーデン、韓国との試合は”必勝態勢”でくるでしょう。こちらも相当必死にやるしかない。日本は、明日試合でしょう?」

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”地味”、”無関心”。

この大会での日本についても言われることだ。そう言われようがなんだろうが、この舞台に立つ権利を得たことにはなんら変わりはない。現地に来ると、そこまでの日本代表に関する悲観的な報道より、ここに来れた喜びを強く感じる。第三者がなんと言おうと、当事者たちのストーリーがある。自分たちもそこを描ききってしまおう。描く権利があるんだから。そんなことを感じた。

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