日本語の会話には「主語」がない<続・通訳を使うテクニック 6 >

ここではビジネス折衝で話し手側の注意すべきポイントについて取り上げます。(「話し手の注意点」については10月と11月にこのコラムでもシリーズと取り上げました。興味がある方はバックナンバーをご覧ください)

今回取り上げるのは、「言葉の主語を明確に伝える」という点です。ほとんどの日本人はあまり意識をしていませんが、日本語は「主語」を省略しても会話が成り立つという特徴があります。日常会話で話をするときに私たち「主語」を話さないことが多いのです。たとえば・・・。

「今晩、時間ある?」

「はい、あります。大丈夫です」

「会社の帰り、飲みに誘いたいんだけど、行けますか?」

「いいですね。それじゃ、6時に駅前の交番の前で待っています」

「わかりました。今夜はゆっくり飲みたい気分です。よろしく・・・」

今夜はゆっくりのみま駅前の居酒屋で7時に、よろしく・・・」etc.

普通の会話ですが、どのフレーズにも「主語」がありません。もし、この会話できちんと「主語」を入れて話すとたいへん不自然な日本語になります。

「今晩、(あなたは)時間がありますか?」

「はい、(私は)あります。(私は)大丈夫です」

「会社の帰り、(私は)(あなたを)飲みに誘いたいんだけど、(あなたは)(私と)いっしょに行けますか?」

「いいですね。それじゃ、(私は)(あなたを)6時に駅前の交番の前で待っています」

「(私は)わかりました。今夜は(私は)(あなたと)ゆっくり飲みたい気分です。よろしく・・・」etc.

いかがでしょうか。日本語で(私)や(あなた)を使うと極めて不自然な会話文になります。(私) (あなた)という言葉をいちいち使わないのです。「(私は)(あなたを)飲みに誘いたいんだけど、(あなたは)(私と)いっしょに行けますか?」というのは、会話の主体が(私)であり、話の対象が(あなた)であるという前提で会話が成立しています。いちいち表現せず、お互い省略することが可能で、すべてわかっているという前提で会話が進むわけです。

しかし、中国語ではたとえ話の主体が「私」であり、対象が「あなた」であることがわかっていても、「我」(わたし)、「●」(あなた)という言葉は省略しません。話の主体が誰で、対象が誰なのか、これを明確に表現して会話を進めます。このような点から見ても、中国語は基本的に日本語よりも「自己主張」がしやすい言葉なのかもしれません。

また、意見を述べたとき、その意見は「私」の意見なのか(個人的な見解)、「私たち」の意見なのか(多くの人の考え)、誰かが述べたことに対して私が共感しているのか、世間一般的な考えや意見を述べているのか、こうした点についても意識的に相手に伝えることを心がけたほうがよいでしょう。日本語は曖昧な表現になりがちです。誰が誰に対する意見なのか、誰の考えを誰に伝えたいのか、意識に表現することをぜひ心がけるべきでしょう。