主張することが評価される文化<続・通訳を使うテクニック 5 >

通訳を使うときに話して側が注意すべきこと、これまでこのコラムはさまざまな注意点を述べてきました。(コラム10月と11月のバックナンバーを参照)ちょっとした気配りで通訳の能力を十分に引き出し、通訳を効果的に使いこなすことができます。

しかし、最も重要なポイントは「話し手が伝えるべき内容をしっかり主張する」ことではないでしょうか。曖昧な言い方をする話し手がいます。また、そもそも自分自身で主張すべきことがはっきりしないまま話を始める話し手もいます。こういう話し手は通訳泣かせです。

言うべきことが明確になっているか、言うべきことをはっきり言っているか、曖昧な表現ではなく言うべきことを明確に相手に伝えることが大切です。

中国は「主張することが評価される文化」、一方、日本は「悟りあうことを重んじる文化」です。こうした価値観の違いやコミュニケーション手法の違いなどを理解しておく必要があります。

中国人は大きな声で話す、時には眉間に皺を寄せてまるで喧嘩をしているかのように話すのが特徴です。もちろん個人差はありますが、一般的に中国人は声が大きく、言うべきことを遠慮なく主張します。時には他人の意見に耳を傾けず、機関銃のように一方的に自分の主張を喋り捲る中国人もいるようです。

そんな中国人の様子を日本人は自己主張が強く、自分勝手で、自分のことしか考えない人たちと見るようです。気配りが足りない、もう少し譲り合う姿勢がほしいという見方をする日本人もいるようです。しかし、中国人に持つマイナスイメージは多くの場合、日本人の誤解にあるようです。

日本では「主張する」ことよりも相手の立場や気持ちを考えて「譲り合う」ことを尊重する文化です。ビジネス折衝のシーンでも日本人は相手の立場や気持ちを考えて互いに譲り合い、どこかに折り合いをつけながら落としどころを探すための議論をします。

日本語に「空気を読む」という言葉がありますが、日本人は相手の言いたいことや期待している行動を悟り合い、相手にもこちらの考えを悟ってもらうことを期待します。物事をはっきり言うことよりも雰囲気を感じ取って、言葉にしなくてもお互いに察する心を持つことが重要なのです。日本人同士なら言葉にしなくても理解できる価値観や背景理解の共有部分があり、多少曖昧な言い方をしても話が通じるわけです。

しかし、この点を中国人に期待すべきでないかもしれません。通訳を介してコミュニケーションを図る場合は特にそうです。空気を読むようなニュアンスの違いを上手く伝えようとすると通訳に大きな負担がかかります。現場で感じるとは通訳のスキルや機転に大きく左右されることもあります。通訳自身の気配りや機転がビジネスを左右するのです。

曖昧な表現をすると日本側が考える真意が中国側に伝わらないこともあります。通訳に「以心伝心」を期待することも危険であり、必要以上の誤解を招かないためにも、伝えるべきときは「イエス」は「イエス」とはっきり意思表示をすることをお勧めします。「ノー」は「ノー」と明確に伝えるべきです。しかし、日本人は「ノー」というのが苦手なようです。

ビジネス折衝で仮に「ノー」と意思表示をしたあと、一時的に主張と主張がぶつかり合って激論を闘わせることになったとしても、主張すべきことを出し尽くすことで結果的には議論がスムースに進み、結論(妥協点)を見つけ出しやすいのです。

通訳を使うときは、通訳が訳しやすい表現をすることを心がけることも大切です。これまでもこのコラムで取り上げてきたように、フレーズは短く区切って話す、結論から先に告げる、曖昧な表現は避けるなどです。また、カタカナ英語に注意する、和製英語に気をつける、主語を明確に伝えるなどのポイントについてもこのコラムで引き続き紹介していきます。

通訳を迷わせるような表現は避けるべきであり、相手に微妙なニュアンスを伝えることを通訳の力量に期待したり、通訳の判断に任せたりすることは避けるべきです。もう一度繰り返しになるが「イエス」は「イエス」と言うこと、「ノー」は「ノー」と明確に伝えること、これがコミュニケーションの基本です。