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「3月11日を迎える前に」 汚染水問題について(構造の対策編)

吉川彰浩一般社団法人AFW 代表理事
傷がついた壁は4号機原子炉建屋、建屋直近で地下水を汲み上げるサブドレンポンプ

前回お届けしたシリーズ「3月11日を迎える前に」 汚染水問題について(構造の問題編)の続編になります。

原発事故と震災により、本来あった構造が変わり、汚染水が増える仕組みと海へ流れ出る仕組みになったこと、根本解決のための3つのポイントをお伝えしました。それがこの約5年間でどう対策されたかについてお届けします。

1.地下水の流入をいかにブロックするか。

地下水の流入を抜本的にブロックするのには、地震と水素爆発の影響で止水が壊れた地下水流入箇所の修理が必要です。ですが、原子炉に穴が空いた状態で冷却をしているため、原子炉建屋の地下は人が近づけぬ高線量の汚染水で満たされています。ですので水による冷却をしている間は不可能です。

そのため、まずは建屋に近づく地下水を減らす、そして大規模な隔離(陸側遮水壁)設備を作りあげることになりました。

対策前の流入していた地下水は、全体で約400トンこれを少しでも減らすために作られた設備は大きく3つになります。

1)地下水バイパス

原子炉建屋西側、高台約35mに設置された井戸です。合計12か所有ります。こちらによる評価値は全体で約100トンほど地下水の流入を防いでいます。汲み上げられた地下水は浄化処理し、排水基準に従って海へ排水されています。地下水バイパスにより400トン→300トンに減りました。

2)サブドレンポンプ

こちらは原子炉建屋近傍に作られた設備、これも井戸です。合計41か所。1日300トンの流入が150トン程度に減少すると見込まれています。2015年10月から稼働していますが、まだ評価値が公表されていません。こちらについても浄化処理し、排水基準に従って海へ放出されています。

3)陸側遮水壁(通称凍土壁)

冷却管を土中に打ち込み、その冷気によって地中を凍らし、1~4号機の原子炉建屋とタービン建屋をぐるっと一周(全長約1,500m)囲む壁を作るものです。現在も建設中、原子炉建屋山側の敷設は終わり、現在原子炉建屋海側を建設中です。2016年度の完成を目指しています。

この結果から、言えることは量は減らす設備は出来上がったが、「物理的に遮断する」には時間がかかるという事です。しばらくは原子炉建屋に地下水が流入し続けます。言い返れば、汚染水は増え続けていくといえます。

汚染水対策概念図 東京電力福島第一原発視察者向け資料より抜粋
汚染水対策概念図 東京電力福島第一原発視察者向け資料より抜粋

2.汚染水が海へと通じるルートをいかにブロックするか。

こちら、結論から先に言えば既に構築されています。原子炉建屋内で増えた汚染水が、既存構造によるルートで海へ流れ出ていく状態は大きく2つでブロックされています。

1)海側トレンチの滞留水汲み上げが終わり、セメントが充填された。

海へと直接つながる空間(海側トレンチ)内に溜まっていた、事故直後の汚染水は汲み上げられ、セメントが充填されました。東京電力発表の海水配管トレンチ汚染水対策工事の進捗状況(2015年9月4日現在)では99%作業が終わっています。残り1%はトレンチ上部部分ですので、実質(2015年9月4日)には、汚染水が海へと繋がる構造は塞がりました。

2)海側遮水壁が完成。

震災前、タービンで仕事をした蒸気を水に戻すため使われていた海水配管。その海水を取水する入口は、現在の海側遮水壁のコンクリートの中にあります。海と繋がっていた部分はコンクリートで埋め立てられ、その外側に地下18m~30mの立て坑が打ち込まれているのが、現在の海側遮水壁です。(2015年10月26日完成)

原発事故により構造的に海と原子炉建屋が繋がったルートは、約5年の中で2重に切り離されました。ですが問題が無くなった分けではありません。切り離し、高濃度汚染水を汲み上げながらセメントを充填しました。その中には残留汚染があり、雨水や地下水が沁み入ったものを観測用の井戸で汲み上げれば、汚染しています。

原子炉建屋を起因とする汚染水の流出はブロックできましたが、雨水と原子炉建屋とタービン建屋を廻り込んで海へ向かう地下水が、残留汚染に触れ汚染水となり、地盤改良(水ガラスの投入)の前でウェルポイント(井戸)で汲み上げ、それを通過し、海側遮水壁で堰き止めたものは地下水ドレン設備(井戸)で汲み上げる、2段構えでタービン建屋に引き戻しています。この量は、原子炉建屋に流入する一日300トンより多く、1日400トンとなっています。

建屋に直接入ってくる地下水+建屋に引き戻す残留汚染により汚染した地下水=増える汚染水の量となります。その量は最大で300トン+400トン=700トンとなります。サブドレンポンプの汲み上げ量を考慮すれば、最少で150トン+400トン=550トン。いずれにしても現在使われている汚染水タンク(容量最大1200トン)が二日程度で満杯になる量で増え続けています。

3.溶け落ちた燃料(デブリ)をどう取り出すか。

現在も1~3号機のデブリをどう取り出すかは確定していません。ロボットによる建屋内調査を進め検討している段階です。取出しが困難なことは課題と伝わっていますが、汚染水の源として取り出せず、現在の状況下では根源を絶てない、厳しい課題が残ったままです。

約5年の中で、原子炉建屋で形成された汚染水が既存構造を経由して海へ流れ出る状態は完全にブロック出来ています。それに対して、地下水が残留汚染物により汚染してしまう状態は、汲み上げ処理をする、建屋内への地下水の流入は防げていない状態です。ですが、希望がないとは言い切れません。陸側遮水壁(凍土遮水壁)が完成すれば、海側遮水壁と対をなし、汚染源である建屋と、原発事故後汚染水を貯めていたエリアが海、陸地から隔離されます。機能すれば汚染水をこれ以上増やさないだけでなく、漏らさない対策も構築されます。

陸側遮水壁の完成このニュースが報道されるまでは、汚染水は増え続けると捉え、海へのブロックは「原発事故時に出来てしまった汚染水流出ルートの対策は終わった」とし、他に流出ルートは本当にないのかといった視点が必要です。

原発事故から5年が経過しようとする中で、新たな課題として増え続ける汚染水をどう管理し、処理するかが浮上しています。

次回 「3月11日を迎える前に」貯め続けた汚染水の課題と展望について」お届けします。

一般社団法人AFW 代表理事

1980年生まれ。元東京電力社員、福島第一、第二原子力発電所に勤務。「次世代に託すことが出来るふるさとを創造する」をモットーに、一般社団法人AFWを設立。福島第一原発と隣合う暮らしの中で、福島第一原発の廃炉現場と地域(社会)とを繋ぐ取組を行っている。福島県内外の中学・高校・大学向けに廃炉現場理解講義や廃炉から社会課題を考える講義を展開。福島県双葉郡浪江町町民の視点を含め、原発事故被災地域のガイド・講話なども務める。双葉郡楢葉町で友人が運営する古民家を協働運営しながら、交流人口・関係人口拡大にも取り組む。福島県を楽しむイベント等も企画。春・夏は田んぼづくりに勤しんでいる。

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