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子育てに積極的な父親は一般の父親と比べて何が違うのか

吉田大樹労働・子育てジャーナリスト/グリーンパパプロジェクト代表
GW中にどれくらい父子の時間を確保できるだろうか。(ペイレスイメージズ/アフロ)

今年のゴールデンウイーク(GW)も後半を迎えた。今年は最大9連休中という方もいるだろう。家族でどこかに出かける父親たちも多いとは思うが、夫婦で話したり、父子で遊んだりして、仕事が忙しくて普段は家庭事を疎かにしている父親にとって、欠けているピースをはめるために是非とも奔走してほしいものだ。

ただ、それだけに終わらせてほしくもない。

安倍首相は4月29日にロンドンで行われた記者会見の中で、「日本では今日からいよいよGWが始まった。休日返上で仕事という方もいるかもしれないが、3日から7日まで5連休がある。安倍内閣は働き方改革を進めている。仕事の生産性を上げるためにも仕事のメリハリをつけて、ワーク・ライフ・バランスを確保することが極めて重要。こうした機会を活かし、ときには仕事をすることを忘れて、休日を楽しんでほしい。政府も常に課題山積だが、そうした課題にしっかりと対処していくためにもこのGWはこの私も英気を養いたいと思う」と発言をした。

政府インターネットテレビ「内外記者会見-平成29年4月29日」

働き方改革が進められる中で、「いまの仕事」についてはあえて亡失する一方、これからの働き方や生き方について振り返り、捉え直す時間にしてもらえたらと切に願う。

父親自身が働き方や生き方を捉え直す機会を

父親が家で家事をしたり、子どもと遊んだりすることの重要性については、社会的にはだいぶ認知されてきた。少子化に歯止めを打つためにも極めて重要なファクターとなる。ただ認知されたと言えども、実際に自分が思い通りにこなさせている父親はまだまだ少ないのが現状だ。

なかなか進まない現状の大きな要因は間違いなく長時間労働だが、実はそれだけではない。子どもには様々な育ちがあるように、父親のあり方もまた多様だ。紋切型の「イクメン」的提案に戸惑い、うんざりしている父親も多い。子どもが小さい頃は良好な関係が築けていると思っていた父親が思春期・反抗期に差し掛かって苦労しているケースもある。

自分を「イクメン」と思うか思わないかを問わず、いま問われているのは、仕事だけに流されることなく父親自身が自分の働き方や生き方について捉え直し、自分のため、妻のため、そして子どものためにどのような一歩が踏み出せるかということ。働き方改革は天から降ってくるかもしれないが、内在する課題に対して自分自身が一歩を踏み出さなければ意味がない。

筆者が現在、メンバーを務めている厚生労働省「イクメンプロジェクト」では昨年夏に、イクメン宣言をした父親を対象にアンケートを行った。調査は、「イクメン宣言者」1977名のうち、255名から回答を得たもの(有効回答率12.8%)。家事や子育てに積極的になる中で、そうした父親が取り組んできたこと、そして見えてきた課題とは何だろうか。当然一般の父親よりもかなりのバイアスがかかっているが、一歩を踏み出した父親たちの現状を知るうえで、示唆を与えてくれるものになっている。

子育てしたら残業が減ったは6割を超える

まず「仕事と育児の両立」ができているかどうかを尋ねたところ、59.6%が「ほぼ両立できている」と回答した。ただし、「仕事を優先する」も26.7%いて、育児を積極的にこなしてはいるものの、仕事に重点を置いている父親も一定数いるということだろう。両立するために工夫を聞いたところ、

  • 「仕事を効率的に行う」=残業すると仕事をしているということではなく、優先順位を考え働く時間は1分も無駄にせず働く。「公平な家事の分担」=自分:送り迎え、掃除、食事 妻:送り迎え、掃除、洗濯「ワークライフバランス」=仕事&生活(家族の時間・家事・育児・趣味)のバランスを保つというより相乗効果を生む。(30代以下)
  • Googleカレンダーで予定を共有。学校行事や習い事、仕事で遅くなる日など、全ての予定を一元化・スケジュールにバッファもつ、予定を詰め込みすぎない(急な体調不良など発生する場合もあるため)(30代以下)
  • 急な休みに対応するためのリスク管理をする。締切直前まで仕事を先延ばしにしない(30代以下)
  • 子どもの寝かしつけを夫婦どちらともできるようにすることで、夫婦互いの負担を分散する。飲み会は取捨選択して参加する。参加する場合も原則1次会で切り上げる。職場で子どもの様子や子育て状況を同僚や上司に話したり、職場に子どもを連れて行く。デスクに子どもの写真を置く。早寝早起きして、子どもと睡眠リズムを合わせる。健康管理に気を付ける。通勤は車ではなく徒歩で、食事は丼ものではなく定食にするなど。支援してくれる家族や行政サポート等を活用する。(30代以下)
  • 休日はできるだけ奥さんに自由な時間を与える様に、子どもと二人で出かけたりしている。(30代以下)
  • 在宅勤務など育児のための制度の活用、共働きの妻と飲み会参加回数に差がつかないように配慮、妻の海外出張予定が入ったらすぐに自分も予定を確定させる対応など。自分自身も子どもとの遊び場レビューホームページを作ったりすることで、育児に達成感や楽しさを入れるための工夫をする。(30代以下)
  • 職場の上司等に家庭の事情を話して理解を得て、極力勤務時間内に仕事を終わらせ、急ぎの業務がなければ定時で帰る様にしている。早く家に帰り、子どもとお風呂入ったりして子どもとスキンシップを図り、子どもが寝たあとで妻と話して意思疎通を図っている。(30代以下)
  • 役割を固定させず、どんなことも両親ができるようにしておく。むしろ、したことのないことに積極的に挑戦する。(40代)

ーーなどの回答があった。子育てに積極的に関わることができている父親に対して「恵まれている環境だからこそ父親でも子育てに積極的になれるのでは」という穿った見方をされることもあるが、恵まれた環境になるために「何かしら」の努力をしている様子が垣間見えるだろう。

「子育てすることで時間効率を意識するようになる」という話もよく聞かれるところだが、実際に残業が減ったかどうかを聞いたところ、62.4%が「減った」と回答。「増えた」の4.3%に比べると、子育てすることでどちらに転ぶかは明白。もちろん「変わらない」も33.3%おり、絶対的なものではないということも押さえておくべき。ちなみに、筆者も正直「変わらない」ほうだ。

プライベートの話を職場でするかどうかも、職場の理解を得るうえで必要なことだとされているが、「上司に話す人」は62.0%、「同僚に話す人」は83.5%ということで、どちらかというと同僚に対して話しやすいという結果となった。ただ、10.6%は「職場では話さない」と答えており、必ずしも話すことが重要というわけでもなさそうだ。また、その延長線上で「育児に積極的に関わること」を上司や同僚、部下に勧めたかどうかについては、73.3%が「勧めた」と回答した。先陣を切って一歩を踏み出した父親が職場においても推進力となる証左と言える。

育児をして変わったことは、「子どもがなつくようになった」が63.9%と最も多く、「妻や子どもとの関係が良くなった」が49.4%、「近所づきあいが増えた」が47.5%と続いた。子どもとの時間を増やすことで、父子の信頼関係が高まることは間違いないだろう。もちろんそれがすべてではないが、子どもがなついてくれれば、父子だけでの行動もしやすくなり、それがますます父子の関係を深める相乗効果を生み出すことになる。

パタハラ被害は約2割にのぼる

制度上の育児休業に限らず育児のための休暇を取得したかどうかについては、59.6%が「取得している」と答えているが、その取得方法で最も多いのが制度を活用した「育児休業」で61.8%。僅差で「有給休暇」の58.6%だった。「会社の特別休暇」も35.5%にのぼった。つまり、今回回答した全体の3~4割が制度としての育児休業を取得していることなる。実際の男性の育児休業取得率2.65%(平成27年度厚生労働省「雇用均等基本調査」)と比べたら10倍以上多いことになるが、育児休業取得を希望する男性の割合が約3割存在することを考えれば、希望した人が確実に育児休業を取得しているという見方もできる。

また育児休業取得の期間も興味深い。最も多いのが「1ヶ月以上」で53.3%となっており、雇用均等基本調査の取得期間では「1ヶ月以上」は16.7%にとどまっており、3倍もの開きがあった。ちなみに雇用均等基本調査では「5日未満」が56.9%と最も多い。父親として両立に取り組んだり、日々子育てや家事に取り組んでいたことが先か、育児に関わる休業を取得したことがきっかけが先かはわからないが、相関関係はあるとみて取れる。その育児休暇(休業)の取得理由についても「妻に勧められて」の19.1%と比べると、「自発的に取得した」(88.8%)のほうが圧倒的に多い。どんな形であれ自分の力で育休を選択できたことは、その後の大きな自信になるのではないだろうか。

ただ、育児休業を取得したことがキャリアに影響したかどうかをみてみると、「良い影響があった」が36.2%にとどまり、「変わらない」が52.0%と半数を超えた。一方で「悪い影響があった」は9.9%と決して少なくはないが、キャリアへのロスをおそれ育休取得を控える向きもある中で、果たして乗り越えられるべき値と判断していいものだろうか。いわゆるパタニティーハラスメント(育児のための休暇や時短を申し出る男性に対するいやがらせなど)を受けたことがあるかどうかについても、18.0%が「受けた」と回答しており、一定数はネガティブな扱いを受けている可能性があることがわかった。パタハラの具体的な内容については、以下のような記述回答があった。

  • 育児休暇を申請したが、申請書類を破かれた。
  • 年度の三日前に転勤(異動)を言いわたされ、断れば正社員でなくなると身分を盾にされ、泣く泣く受け入れた。(30代以下)
  • キャリアに影響すると言われた。(30代以下)
  • しわ寄せがくる社員がいる事が事実としてあるので、それを言われるのがつらかった。(30代以下)
  • 以前は交流があった他部署の同僚からの嫌がらせや無視は有った。(30代以下)
  • 育児休暇を1年取得。何度も執拗にまだ職場復帰しないのかを会社の上司、同僚に休暇中に連絡が来た。(30代以下)
  • 残業時間削減への否定。管理職への昇進を拒否させてもらえない。(30代以下)
  • 男性が育児休暇取得はあり得ないと言われた(30代以下)
  • PTAなど子ども行事で有給休暇を取得するときに小言を言われる。(40代)
  • 仕事に影響するなら給料を減らすと言われた。(40代)
  • 時短を申請したが、前例がないという理由で却下された。子供が発熱で仕事を休もうとしたとき、「男が休むのはどうなの?」と言われた。育児の為の休暇等は、取っていないのではなくて取れない。(40代)

父親が子育てしやすい環境を阻害する大きな要因の1つは、会社側のこうしたあり方にある。こうした環境下で戦ってきた父親たちがいることをもっと社会が知ることが必要だろう。

父親の積極的な子育ては妻の就業継続の好材料に

育児休暇(休業)後の妻の就労状況をみると、「働き続けている」が66.4%と3分の2に迫り、「離職し働いていない」が23.7%にとどまっている。第1子出産時に約6割の女性が退職する現状を考えれば、家事や子育てに積極的な父親の存在は妻が働き続けるのには好材料であることが理解できる。

日本の6歳未満児のいる家庭の父親の家事・育児関連時間が1日1時間ほどの中で(※)、今回回答した父親は、平日の育児に費やす時間について55.3%と半数以上が「1時間以上」と回答。また、家事に費やす時間も「1時間以上」が43.6%にのぼった。合わせると半数前後の父親が最低でも平日に1日2時間ほどの家事・育児こなしているということになる。平日はほとんど家事や育児はできていないという父親も多い中で、その2倍をしかも平日にこなしていることになる。平日に2時間以上の家事・育児時間があれば、母親にとっても時間的な余裕が生まれるし、それは心の余裕にもつなげることができる。母親が働き続けることや、母子の関係を構築することにおいても心強いデータと言えるだろう。

6歳未満の子供を持つ夫の家事・育児関連時間(1日当たり,国際比較)

こうして「イクメン宣言」をした父親たちのデータをみてきたが、父親が子育てに積極的になることの利点を読み解くことができたのではないだろうか。しかし、決して順風満帆なものではなく、それぞれの苦労の上で成り立っているものだということを理解する必要がある。

最後に、男性の育児休暇(休業)に取得推進に必要なことも聞いているので、そのコメントを紹介してこの記事を終わりにしたい。

  • 男性職員が育休を取る場合に、それをカバーする上司や同僚あるいは企業自体にインセンティブを与える仕組みづくり。(給与、業績評価、補助金など)
  • 労働条件の男女差改善・育児休業取得の義務化・リモートワーク環境整備の推進・長時間残業の厳罰化・待機児童の改善
  • トップから育休取得を推進する事の目的と意義を、社員のライフプランのみならずビジネスの観点からも説明し、マネジメント層から積極的に取得していくようにする。(男性の育児休業が会社の利益にあるという具体的な数値結果があれば、結果・利益が求められる企業の認識を変えられるのではないかと思う)
  • まずは制度を理解すること。そして実際に取得した人の話を聞く機会を増やすこと。育児休暇を取得することによる具体的な問題解決方法を公開すること。
  • 育休取得ありきで考えないこと(休職を取ることは父親としてのスイッチを入れる意味では有効だが、仕事を休んで育児をすることだけではなくて、日常的にいかに育児・家事を分担し負担を一方に押し付けないかが大事)
  • 子育ての体験談を職場内で共有し、育休を取るのが当たり前という意識を職場内でもつこと。
  • 取得しようとする勇気、取得したいという想いを同僚や上司に話し合うこと。理解のある上司の存在。
  • 女性が家事や育児と仕事を両立させているのだから、男性も両立させて当然だろうという認識を広める。男性=仕事だけしていればいいという価値観に疑問を投げかけていく。
  • 業務プロセスのシステム・見える化によって、引継ぎや状況把握を明確にし、休んでも問題がないような仕組みづくり。
  • 育休取得、定時退社の推奨、パタハラ禁止、等についての指針・ガイドラインの公表(政府・各官庁・都道府県等)
  • 自発的にはなかなか言い出しづらい環境というのがまだまだあると思うので、会社が理解を示し、取得しにくいと思わせないようにする。困難ではあるが、そういう「風土」「雰囲気」を作る。
  • 男性に対してもある程度の出勤制限を設けるような強い対応が必要だと思う。

今回のアンケート結果は、下記からダウンロードすることが可能。

「イクメン宣言者の宣言後行動リサーチ」

https://ikumen-project.mhlw.go.jp/library/resource/

労働・子育てジャーナリスト/グリーンパパプロジェクト代表

1977年7月東京生まれ。2003年3月日本大学大学院法学研究科修士課程修了(政治学修士)。労働専門誌の記者を経て、12年7月から2年間ファザーリング・ジャパン代表。これまで内閣府「子ども・子育て会議」委員、厚労省「イクメンプロジェクト推進委員会」委員を歴任。現在、内閣官房「「就学前のこどもの育ちに係る基本的な指針」に関する有識者懇談会」委員、厚生労働省「子どもの預かりサービスの在り方に関する専門委員会」委員、東京都「子供・子育て会議」委員などを務める。3児のシングルファーザーで、小・中・高のPTA会長を経験し、現在は鴻巣市PTA連合会会長。著書「パパの働き方が社会を変える!」(労働調査会)。

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