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【シリーズ】地方に移住したパパたちを追って~広島編〈2〉後編~

吉田大樹労働・子育てジャーナリスト/グリーンパパプロジェクト代表
COCOLOYAの入口付近

前編はこちらから↓

【シリーズ】地方に移住したパパたちを追って~広島編〈2〉前編~

北広島町の風景(撮影:吉田大樹 撮影日:2014年12月)
北広島町の風景(撮影:吉田大樹 撮影日:2014年12月)

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地方で住むことのメリットとは

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吉田:地方に移住することを考えている人にその良さを伝えていくためには何が必要ですか?

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アユム:こうしたカフェなどのお店を経営したい人に対しては言えますが、それ以外の人に言うのは実は難しいですね。それは僕が給料があって安定した仕事があってローンを組んでとかって縛られている部分があるという経験がないので言えないということ。同じ立場だったら僕であっても街から出られないだろうし、でもそうじゃない人たちに向けて言うなら、圧倒的に自由度が高いのは確かですね、田舎では。単純に家賃であったり、空間的な広さであったり、ここの店を作るのも大して費用がかかってないんですよ。自分でやったのもあるし、手伝ってもらったのもあるし。費用は最低限払っているけど、休みのときにぷらっと誰かが来てくれて、「今日暇だけんやってあげるよ」みたいな感じで。ほとんど日当取らずに材料費だけでやってくれます。

それでスペースあって家賃が安い。生きていくお米だったり野菜だったりが安いじゃないですか。野菜とお米は手に入る。そうするとあんまり稼ぐ必要性がないんですよ、変な話。そりゃ、平均年収とかで比較しちゃうと、もっと稼がなきゃと思うかもしれないけれど、僕らの場合、いかに稼がずに暮らすかというのがテーマなので。好きなことを持続させるにはどっちかなんですよね。街でより稼いで余裕を持ちたいという人もいるでしょうしね。

吉田:一般的な話で、大体どれくらいあればここ生きていける感じですか、感覚として。

アユム:僕らの家族で考えたら、月20万ですかね。20万円あったら余裕ですね。僕も読んだことはないんだけど、「月3万の仕事をいっぱい作れ」みたいなことを書いた本があるらしいんですよね。それは的を射てるなと思います。田舎って決して仕事がないわけじゃないんですよ。さっきの草刈りもそうだし、ここで言うと除雪の作業だとか、春は植林のバイトにも行っていたんですが、季節労働って仕事を選ばなければ意外とあるんですよ。あとコメなどの農業関係もあります。

吉田:いろんな人に「こういう仕事だったらやります」ということを言っておけばいいんですね。

アユム:僕なんか断っているくらいですからね(笑) 人が住んでいる以上仕事がないわけじゃないですか。それをクリエートすることもできるし、店とかね。なんかそういう小さい仕事でも絶対に必要な仕事ってあって、それをいくつかやればいいだけの話なんです。僕もこのカフェだけで20万円稼いでないんですよ。ここでちょっと稼ぐ、嫁が洋服でちょっと稼ぐ、僕が絵でも稼ぐ、で季節のアルバイトで稼ぐ、でなんとかやっている感じではあるんですけど、正直そんなゆとりもないし、でも最低限コメと野菜があるんで生きていける。

吉田:コメや野菜は誰から提供されるんですか?

アユム:ご近所からですね。まぁ作ろうと思えば作れるし。

吉田:アユムさんも実際ここでやっているんですか?

アユム:実際2013年はコメ作ったんですよ、友人から誘われて。そこが事情があってできなくなっちゃって、今年はやってないんですけど、ただコメも街で買うよりは安く手に入ります。もらうのもあるし。野菜は最初の1年はやったんです、この裏で。畑があって。だけど明らかにもらう数のほうが多いんです(笑) しかも自分が作っているものよりもいいものを(笑) 要はひとり暮らしの人が多いでしょ。そうすると、みんなじいちゃんばあちゃん作るの好きだから、作るんですよ。でも収穫の時期って、全部重なるじゃないですか。いくら親戚に配っても、親戚もできているわけで、正直日本の自給率というのはうそだろうと思っているけど、破棄しているものが多いですよね。だから、そんな状態です。腐っておいてあるんですもん。それを例えば近所のじいちゃんばあちゃんにスーパーに連れていってと言われて車で連れて行ったりすると、もう100倍くらいになって返ってくるんです(笑) そういう感じでもらうので、いまはそのじいちゃんばあちゃんたちがどんどん年取ってしまって亡くなったときには自分たちも始めなきゃなっていうのはありますね。

この地域では、40代後半から50代が少ないです、圧倒的に。バブルのころの人たちです。要はみんな大学に行って就職しちゃって、経済的にもいい時期だからそのまま都市部に住んじゃって、家も買ってるでしょ。だから、いまの80代の人たちが1人で住んでいるのはそういう理由が多い。みんなその子どもは、広島市内とか県外に家を持ってるんです。

吉田:そうなってしまうとここにはなかなか戻って来れませんよね。ただ、その方たちが戻ってこないと介護の問題とかもあると思うし、大変ですよね。

アユム:それだけじゃないと思います。都会に憧れて出ている人が多いから、やっぱりバブルで街の生活が良しとされていた時代だからだと思うんですよ。やっぱり田舎の生活に不自由さを感じている人がたぶん多いんだろうと思います。

吉田:ちょうど時代的な背景もありますよね。

アユム:感覚だからこればっかりはね。「田舎っていいじゃん」って言っても通じない人には通じないんだと思います。それに対して、移住者として僕らの世代の人たちは30代後半から40代前半、僕らの世代は就職氷河期だから、自分たちでどうにかしようというタイプがたぶん多いんですよ。だから田舎には僕らから下の世代が多いんですよ、新しく入ってくるのは。でまた、20代がいないんですよ。20代がポコって抜けてる感じ。

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家族で移住すること

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吉田:自分がいまやろうとしているグリーンパパプロジェクトは、単身1人で地方に行くよりも、家族という単位で来てもらう形をもっと作っていったほうがいいのではないかという発想も1つあります。

アユム:僕もそう思います。そうしたい人はいっぱいいて、今回震災きっかけで結構人間が動いたじゃないですか。僕らの周りでも、いっぱい動いたんですよ。けど結局、10割中の居づいたのが2割くらいですね。一番ダメな理由って男なんですよ。

吉田:その理由は何ですか?

アユム:仕事ですね。向こうにある仕事とこっちにある仕事を比較して、向こうの仕事を捨てらんないんですよ。だから単身赴任になって、家族が分かれて住んで、そうするとどうなるかというと、地域にも100%なじめないですよね。それと離れていることで、夫婦の関係がたぶん良好にならないじゃないですかね。完全に移住した奴らは、夫婦で来てますからね。その時点で、さっきの話じゃないけど、やっぱり普通の仕事をされている方の難しさというのはすごく痛感してますね。いまある仕事を捨ててこっちに来させるというのは相当難しい。

吉田:夫婦どちらかがある程度安定的な仕事でフリーランス的な形でやっていれば、生活をつないでいくことができるんじゃないですかね。

アユム:職種によってはできるだろうし、あとは元々起業したいタイプか、元々安定していないタイプのどっちかですよね。だから、さっきいかに稼がずに生きるかがテーマなんですけど、たぶんその感覚がないと難しいですよね、地方への移住って。いかに稼いでいい暮らしをしようかっていうところに、極端に言えば、そこに基準があるわけじゃないですか。ただそれだとあまり田舎に来るメリットってないですよね。そうじゃなくて、いかに仕事をせずに生きていけるかっていう逆に言えばそれぐらい豊かなことじゃないですか、ある意味(笑) そこにシフトできればそんなに逆に難しくもないと思います、実際住んでみてそう感じます。

吉田:最低限稼がないといけないっていうことではあるわけですよね。その分はある意味必死に働いてですね。

アユム:やることは多いですよ。草刈もあるしね。だけど、全体的な時間のゆとりって比べものにならないんですよね。例えば極端な話、通勤で満員電車に揺られているその時間がないとか。あと四季を感じることとか、すべてだと思うんですけど、田舎にいて街と一番どこか違うかというと、水、空気、コメ。それって実はすごい要素じゃないですか。それがうまいんですよ。これだけで、ものすごいゆとりなんですよね。一日に中で何回か水うまいって思うわけですよ。それって意識はしてないけど、結構デカくて。

吉田:それがある意味時間的なというよりも精神的な余裕というところが大きいですよね。

アユム:なんぼ金を稼いでレストランでうまいもん食っていても、やっぱり満たされないものって東京とかってあるじゃないですか。そことの差なのかなとは思いますね。

おっしゃる通りで精神的なものなんでしょうね。物質的な説明しても、たぶんあんまりメリット感じないと思うんですよね。実際、田舎のほうが忙しいですよ。やることが多いです。

吉田:そこを嫌がらずにある意味いかにできるかということですね。

アユム:畑とかやっちゃったら、もう休みなんかないわけじゃないですか。フルに田舎生活したら。でも僕らでも畑仕事したり、草刈りした後の爽快感とかを考えると、嫌じゃないですよね。

吉田:けど、そこをいきなり来て感じるというのは難しいと思うので、例えば体験的な形で来たりだとか、ここの環境をまず感じたり知ったりということができるということが大事かなと思うんですよね。

アユム:大きな動きでいったら僕もそう思うんですよ。みんなに感じてほしいし、そういう意味じゃこの店もそういう意味があるんですよ。でも実際例えば、こういう店をやっていると、3年間に10組以上移住したいって人間が来てるんですよ。ただ、1割も来ないですね。厳しく言うと口だけですね。正直それはしょうがないんですよ。さっきの話だけど、やっぱり総合的なものだから。だからじゃあ本気で移住者を増やそうというところだけに特化したら、すごいマイノリティ相手にやるしかないんですよ。そう考えたら、よく彼らとも話すんですけど、本気で移住したい人間にどうやって自分たちは情報を出すか。よそと比較して、こっちのほうがいいとアピールするかに尽きると思いますね。全体的に印象のいい情報をいくらやっても、それは観光客が増えるかもしれないけど、移住者は増えないですよ。「田舎体験できますよ」ってやったら、田舎体験をしたい観光客が来るんですよ。それはいまも実際いっぱい来てるし、いろんなところがやっているじゃないですか。その人たちがじゃあ何人移住するかというと、2%もいないんですよ。0.1%を切ると思います。

吉田:そうしたことをある意味打ち続けるしかないというところもありますよね。

アユム:それもありますね。両方でやっていかなきゃならないだけど。

吉田:がっつりやりたいという人に対してのアプローチと、そうじゃないアプローチが重要ですね。

アユム:移住者を実際住まわせるというよりは、もっと精神的なプロジェクトで、もっとあなたたちの人生とか、「その生き方でいいんですか?」という問題提起であれば、それは意味もあるし、僕もやっていくべきだと思っています。

吉田:そういった意味で家族という姿がもっと地方を感じる中で見えてくると、こういう生き方があるんだということに気づける可能性があると思います。

アユム:それはありますね。

吉田:そうしたロールモデルがいてくれるかどうかで、たいぶ違うのではないかと思いますが、どうですか?

アユム:それは大事ですね。もう1つ厳しいことを言うと、ロールモデルが結局、たぶん場所によって違うし、その人によっても違います。当然だけど。だから、こういう仕事があって、こういう会社があって、こういう職種の人を募集します、ということとはちょっとわけが違って。ある意味で言えば、カッコつけて言うわけじゃないけど、フロンティアにならないといけないんですよ、自分自身が。自分自身が開拓していくみたいなという精神がないとね。行政がこれを用意したあれを用意したと、そこに乗り過ぎてしまうとええことにはならんですよね。「いやいや、最初の話と違う」みたいなことになってしまう。

店内の壁面
店内の壁面

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カフェと画家を両立する

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吉田:結局そこで齟齬が生まれてしまうわけですよね。

アユム:そこが難しさですね。他力本願で来る人間っていうのは、まず100%ダメですよね。むしろわりと気楽に、なんとかなるみたいなタイプの奴のほうが、それこそ仕事も選ばない、何でもします、いざとなればこれやればいいじゃん、ぐらいの感覚がないと。それをどう伝えていくかということ。それってそんなに難しいことじゃないよ、っていうのを伝えたいなというのはいつも思うんですよね。ホントに気の持ちようだけで、そこの気の持ちようが一番難しかったりもするんですが(笑) 来るやつらにも、いい話も悪い話もするんですけど、みんなやっぱりネックになってくるのは仕事ですよね。安直にみてしまうんですよ、こういうカフェをやっていて、僕の表面だけ見ると、このカフェで食っていけてると思うんですよ。たまたま来た日が日曜で人がちょっといたりしたらなおさら。「僕もこういう店をやりたいんですよ」みたいな話になるんですよ。「あ~そうなんだ」と聞いていくうちに、「でも俺はここだけで稼いでないよ」って言うと「えっ!」ってなるんですよ。当然、店だけで稼いでもいいんですよ。「僕の場合は稼いでないよ」という話で、稼ぐつもりもない、その辺でなんかね、断念しちゃう人もいます。

吉田:自分がどこに軸を置きたいのかという話ですね。

アユム:そうそう。軸を僕の場合単純に分散させているだけで。

吉田:アユムさんみたいに、元々画家という業をなしていて、それプラスということですね。

アユム:だから特殊なんですよ、僕の場合。その絵もそのまったく売れないわけじゃないけど、絵で100%食っていくのはまず不可能なんですよ。それは芸能人みたいなもので、売れるか売れないか分からない。時の運もあるし、そういうふうにお金稼ごうと思ったら、たぶん東京とかに行かないといけない。それこそ銀座に住むくらいのことをやらないとたぶん無理なんですよ(笑) 

吉田:アユムさんがやっている画家としての活動は、ここにいるということとリンクしてますか?

アユム:僕の中ではね。

吉田:東京ではできないものをこっちで自分の中で生み出せるものとしてはあるということですね。

アユムさんの作品
アユムさんの作品

アユム:それもあるし、たぶん価値のある絵ということだけではないんです。結局、作品を買ってくれる人って、極端な話で言うと、友達なんですよ。音楽とかも一緒だと思うんだけど、その広がりなんです。で個展をやって、やっぱり僕がその場に行って、仲良くなったら買ってくれるんですよ、極端に言うと。でも僕がいなくて作品だけ出していたら売れないんですよ。

吉田:いま個展はどれくらいの頻度でやってますか?

アユム:年に数回ですね。昨日栃木で終わったばっかりなんですけど。最初だけ行ってました。搬入だけして帰ってきた感じです。栃木の益子の知り合いのギャラリーでやってきました。結局だから人なんですよね。僕が作っている作品だから買ってくれているだけで、僕の絵が素晴らしいというよりも、好きでいてくれる人は思いはあるだろうけど、やっぱりそれは二の次なんですよ。僕があっての絵なんですよ。そう考えると、僕の場合はある意味生き方というか、田舎で住んでこういう環境でやってるんだという1つの僕の中ではプレゼンみたいなところもあります。いくら良い絵を描いていても、銀座のマンションでふんぞり返って売ってたら引くじゃないですか(笑) 

吉田:アユムさんの生き方を見せながら思いを伝えるということですね。

アユム:だからある意味でのセルフプロデュースですよね。

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今後の自分自身の生き方について

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吉田:今後どうしていきたいかというものはありますか?

アユム:一番いいのは絵が売れることですけど、そこはホントにあまり考えてないんで、だましだましですね(笑) ホント、テーマがだましだましです。

吉田:けど、環境としてはずっとここでやっていくつもりですか?

アユム:いまは何も起きなければここにいると思います。僕は戦争が起きたら亡命しますけどね(笑) 良く冗談で友達と話すんですよ。同じ移住者の仲間で。周りがどうなろうと、自分は生きていくと思っています。

吉田:どうやって生き抜いていくかということですね。

アユム:だから何でもするつもりだし、そういう気持ちが一番強いですね。だけど、あとのことはホントだましだましですね。決めようがないというか、店にしても。いまは少しは来てくれているけど、いつ来てくれなくなるか分からないし。

吉田:ずっと口コミでやっていく感じですか?

アユム:変な話、ガソリンの価格が上がっただけで来なくなるし、雪が降ったら来ないし、アベノミクスなんかなんにもないですから。いまはガソリンがちょっと安くなったから大丈夫だけど、田舎なんかなんの影響もないわけですよ。だからそういう意味じゃ、カフェなんていつ風に飛ばされるかわからないと思ってます。飲食とかごはん物を提供するのとはちょっと意味が違うんで。

吉田:そっちまで広げようとは思ってない?

アユム:ゼロじゃないですけど、いまはこの形でやれているんで、ごはん物はやるつもりないですね。料理やり始めちゃうと、ホントそっちにがんばんないといけないので(笑) でもせっぱつまったらやるかもしれないです(笑) 

吉田:それも自分の思いがその時点でどうなるかですね。

アユム:そうですね。ホントに困ったらランチくらいは(笑)

吉田:地元の野菜を使いながらできたらいいですね。このあたりにそうしたランチができるお店はありますか?

アユム:この集落にはないですね。いまは自分の中でやらなきゃという気持ちはないですが、要はライバルがいないんで、やるかやらないかの自由度はすごく高いですね。だから新しい商売を本気でやりたい人って、僕は田舎ってすごいいいじゃないかと思うんですよね。僕はビジネスマンじゃないんで思いつかないけど。例えば草刈だって商売になるだろうって感じはありますよ。新しい商売っていっぱい転がってんじゃないかなと思うんですよね。

吉田:それはここに来ない限りは分からないですよね。

アユム:住んでみないとね。

吉田:そういった意味では、情報収集をしていくってことが求めれるんじゃないかと思います。

アユム:変な話、『ターンズ』とかの情報誌とかで見ていいなと思っているタイプの人もいると思いますが、僕なんかみたいな動くタイプの人間はそういうものを見ずに、たぶん自分で現地に行くんですよ。そういう人間はある意味ほっといても移住するんですよね、たぶん。そうすると、その情報誌を見ているようなタイプの奴らをいかに引き込むかっていうとこですよね。それはさっきの話じゃないけどもすごく難しい。案外難しい壁があるなって思います。

吉田:情報が特定の人に集まってしまっていて、特異化しちゃいますよね。

アユム:そうですね。選択肢の1つとして、もうちょっといろんな人に認知されたらいいかなぁとは思います。案外テレビとかでもそういうのってここ何年かあるじゃないですか。田舎暮らしみたいのって。まちづくりのイベントは栃木でも関わってましたが、どうしたら人が移住するのかってすごい難しいですよね。

吉田:アユムさんの中でも答えは、見つかってないんですね。体験してみないと感じられないところですね。

アユム:もっと簡単に考えていたんですけど、実際広島に来て3年目で直接相談を受けて、誰もホントには引っ越して来ないという実感を目の当たりにすると、難しいなと思いますね。

吉田:全国津々浦々、自分のフィーリングに合う場所というのはなかなか見つけるのが難しいですよね。

アユム:そうなんですよ。同じようなところが無数にあるわけですよ。

吉田:それはいろんなところを見て回らないとわからないですよね。たまたまアユムさんの場合もこの北広島に通りかかってなければこうはならなかったと思いますしね。

アユム:ほかの県にしていたかもしれませんしね。運なんですよね。

吉田:そうした巡り合わせをいかに大事にするかというところもキーですね。自分がこれっていう思いを雁字搦(がんじがら)めに持つのではなく、いかに柔軟性をもって接するかということですよね。

アユム:柔軟性があるほうが楽だと思います。僕は街に戻るつもりもないし、ここが楽しいです。

吉田:楽しいというのはどこの部分が楽しいですか?

アユム:人生が楽しいです(笑) ざっくりなんですよ。全体的に東京にいたときよりも楽しいです。

吉田:その感覚がいいですね。

アユム:ちょっとずつですよ。1つ1つを比べると大したことはないかもしれませんが、全体で考えると、僕はすごく楽しいですね。

吉田:それをうまく家族に派生していけるといいですよね。みんながそういう感覚を持てるというのが大事ですよね。

アユム:家族を持っていると、夫婦のこともあるしね。

吉田:2人でなんとかしていこうという気持ちも高まっていったりというところもあると思います。

アユム:子どもがあまり大きかったら難しい部分もあります。実際にあった例ですが、中学生とかだと、いまから田舎に引っ越すと、本人が中学までに築き上げた人間関係と、これからの進路を考えたときに、自分が希望するものがないという場合もあります。

吉田:そういった意味では子どもが10歳くらいになるまでの間に来られるといいですね。

アユム:それがベストですよね。

吉田:本日はありがとうございました。

写真右から、アユムさん、筆者 
写真右から、アユムさん、筆者 
労働・子育てジャーナリスト/グリーンパパプロジェクト代表

1977年7月東京生まれ。2003年3月日本大学大学院法学研究科修士課程修了(政治学修士)。労働専門誌の記者を経て、12年7月から2年間ファザーリング・ジャパン代表。これまで内閣府「子ども・子育て会議」委員、厚労省「イクメンプロジェクト推進委員会」委員を歴任。現在、内閣官房「「就学前のこどもの育ちに係る基本的な指針」に関する有識者懇談会」委員、厚生労働省「子どもの預かりサービスの在り方に関する専門委員会」委員、東京都「子供・子育て会議」委員などを務める。3児のシングルファーザーで、小・中・高のPTA会長を経験し、現在は鴻巣市PTA連合会会長。著書「パパの働き方が社会を変える!」(労働調査会)。

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